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[イベントレポート]いろいろねいろJAM③ 参加者からのレポート ~いろいろねいろJAMに参加して~

かわさきジャズは、川崎市との協働により「いろいろねいろJAM」を10月14,15日に開催しました。このプロジェクトは、「障害のあるなしや楽器経験の有無に関わらず誰もが参加できる音楽ワークショップと公開ライブ」です。2021年に引き続き、障害のある人の音楽アクセス向上に取り組む英国のアート団体ドレイク・ミュージックの協力を得て、開催しています。
今回は、2年連続で参加した本多理恵さんによるレポートをお届けします。

イベントレポート①
イベントレポート②


本多理恵さん

 私は、趣味でクラシックピアノを長く続けています。ピアノがカバーする音域はとても広く、10本の指で、弾こうと思えば同時に10以上の音を鳴らすこともできます。演奏者が自在に音量調整できますし、ペダルを使えば、表現方法を変えることができます。それゆえに、一人オーケストラと言われることもありますが、個人で練習するので孤独な楽器でもあります。「いろいろねいろJAM」は、プロのミュージシャンの方々、そして当日集まる仲間と一緒に音楽をつくり、演奏できると聞き、参加を申し込みました。
 2日目の演奏セッションを終えたとき、オーケストラのメンバーで音楽を作り上げたことへの達成感に加え、空間と時間を共有した観客はじめすべての人と一つになることができたことが、大きな充実感を与えてくれました。

終演後の記念撮影

 この充実感は何から来るのだろうと、2日間を振り返ってみると、大きく3つあげられると思いました。それは、①白紙の状態からみんなで音楽をつくれたこと、②ファシリテーターであり指揮をしてくださったベンさんの存在、③自由でいられる、自分らしくいられる、セッション全体の雰囲気、です。

本番は川崎ルフロンで行われました

①  白紙の状態からスタートして、カラフルな作品ができあがったこと:

 普段ピアノを弾くときは原典版(※)の楽譜を使って、作曲家がどのような情景をイメージしていたのか、どんな感情を抱いていたのか、作曲家の意図を反映することを意識しています。
 しかし、いろいろねいろJAMには楽譜はありません。スタート時には不安さえ感じました。しかし、異なるバックグラウンドをもつ参加者から出てくるアイデアにインスピレーションを得て、徐々に音が加わっていきました。音は高低・フラット/シャープだけでなく、参加者が持つ楽器のバラエティの広さが音色の違いを加えてくれ、本当にカラフルな作品になりました。
 さらに言えば、初日のワークショップでは「ある程度」までしか完成していませんでした。その場その場の雰囲気で自由に音が加わり、観客のみなさんからの手拍子も音楽の一部になっていました。音色の全く異なるたくさんの音が一つにまとまることができたのは、プロのミュージシャンの方のバイオリン・ベース・キーボード・ドラム・パーカッション・スティールパンの音が土台にあったことだと感じます。

※可能な限り作曲家の意図を反映した楽譜の版

プロのミュージシャンたち

音がたくさん重なる時、聞き手が心地よいと感じられるものと、多少不安な気持ちになる組み合わせがあります。観客までを取り込んで一体感を作り上げていたのは、指揮をしてくださったベンさんの存在が大きかったと思います。

ベン・セラーズさん(ドレイク・ミュージック)

② ファシリテーターの存在:

 ベンさんは参加者をよく観察されていて、練習の時に、不安そうな顔をしていると、休憩時間に、大丈夫?違う楽器のほうがいい?こんな風にできる?などと、きめ細やかに声をかけられていました。参加者が自然とベンさんに信頼を寄せていたと思います。

私自身は多少音楽をやっているということもあり、ベンさんから、I fully trust you – you can play whatever you believe it fits. あなたを信頼しているので、自分がいいと思ったこと、好きにやっていいよと言ってくださったことは嬉しかったです。隣で一緒にトーンチャイムやギロを担当していた子供たちとどんな風に演奏するか個別に考えたりすることで、自分がこの即席オーケストラに貢献できているなと思えましたし、初めて会った子どもたちと一気に仲良くなれたことも私を幸せな気分にしてくれました。

③ 自由でいい:

 年代やさまざまなバックグラウンドを持った仲間が集まったこのセッションですが、私自身は違いを特別意識することもなく時間が過ぎていきました。

 ベンさんからの指揮でパーカッションを鳴らすサインが出たときに、演奏するのに多少時間がかかってしまって音出しが遅れてしまっても・・・裏拍でぴったりとはまったり。指揮の指示に合わせようと思っても、難しいこともあります。でも絶対合わせないといけない、ということでもなく、偶然の裏拍を、私はこれってジャズっぽいなーと楽しんでいました。

演奏だけでなく、即興で踊った本番。心から自由を感じました。

 音楽愛好家として、今回もう一つ感じたことは、楽器のデジタル化・その進化が、より多くの人に音楽参加を促せるようになっていることです。視線の動きだけで音が出るシステムが今回ありました。手足を動かすことに限らないというのは、音楽参加のハードルが低くなるのではないでしょうか。

視線入力システムで絵を描いたり音を鳴らしたり。テクノロジーが自己表現の可能性を広げます。
コードの知識や演奏技術がなくても弾ける電子ギター「インスタコード」も用意されました
(提供:世界ゆるミュージック協会)

参加者が自由に楽しむことができ、かつ何か貢献できた(気分になれた)のは、主催者の方とファシリテーターの皆様がきめ細やかに準備してくださったそのおかげです。心より感謝申し上げます。来年機会がありましたら、ぜひ参加させていただきたいです!


インクルーシブ音楽プロジェクト「いろいろねいろJAM」|かわさきジャズ (kawasakijazz.jp)

Text by Rie Honda
Photo by Taku Watanabe