見出し画像

[インタビュー]衰退の一途を辿るビッグバンド生演奏による社交ダンスに一石を投じたい

かわさきジャズ2024に、今年は「社交ダンス」のプログラムがラインナップされています。ジャズフェスでなぜ、社交ダンスなのか。
それは、ダンス文化の中でだんだん失われて行く「生演奏」への危機感を持つ、一人の川崎市民の方からのご提案でした。「日本の社交ダンス音楽生演奏を守る会」主宰の、荘(しょう)清二郎さんです。2023年夏に、突然かわさきジャズ事務局を訪ねて来られた荘さんは、その後ご自身で企画から資金の調達まで行い、今年11月にイベントを実施する運びとなりました。
初期のビッグバンドは、ダンスと分かちがたい演奏形態でした。しかし現在、ダンスの伴奏は録音が主となり、ビッグバンドの演奏で踊るという機会はほとんどなくなってしまいました。
この現状に一石を投じたいと考える荘さんに、思いを伺いました。

日本における社交ダンス

まずはじめに、社交ダンスの歴史について簡単に振り返ります。鹿鳴館で知られるように、日本に西洋の社交ダンスが入ってきたのは明治時代のことです。最初は貴族のものでしたが、大正時代に鶴見に花月園という営業ダンスホールができ、庶民にもダンス文化が広まっていきました。その後大正末期には50以上のダンスホールが都内にあったと言われています。第二次世界大戦がはじまるとダンスホールは統制され、1940年10月にすべて閉館しましたが、第二次世界大戦後、進駐軍が入ってきたことによってダンスホールが次々と立てられ、戦中禁止されていたジャズも戦後は解禁され、ビッグバンドが奏でるスウィングジャズの演奏に合わせて若者たちがこぞって踊っていました。

戦後しばらくして1969年(昭和44年)、都内に2つのダンスホールがオープンします。鶯谷のダンスホール新世紀、そして有楽町の東宝ダンスホールです。この2つのホールには座付きの楽団がおり、生演奏で社交ダンスが踊れるホールとしては都内で最も長い歴史をもつホールでした。1990年代に「ウリナリ社交ダンス部」や映画「Shall we ダンス?」などでブームもありましたが、かつてほどの盛況はなく、ダンスホールも次々閉館する中、都内で令和まで残ったのはこの2つのみで、2019年に東宝ダンスホールも惜しまれつつ休館となります。

東宝ホールの閉館

荘さんは、東宝ダンスホールの最後の3年間に取締役を務められました。
「社交ダンスが斜陽と言われるようになって結構経ちます。私がダンスホールにいた3年間も、本当にお客様が来なくて、それで閉じたんです。ただ3年間もいるとビッグバンドのみなさんとはとても仲良しになったんですよ。
今回出演される伊藤クミさんのバンドは、かつて社交ダンスの全国大会が日本武道館で開催されていたときに演奏していたバンドです。つまり、最高峰の大会で伴奏をしてもらえる、憧れのバンドだったわけですね。そうした素晴らしいバンドのみなさんがホールの閉館によって演奏の場が失われてしまう窮状をなんとか打破できないか、というのが今回、かわさきジャズに社交ダンスの公演をご提案した理由です」

「クミ伊藤とニューサウンズオーケストラ」
社交ダンスのトップ競技会で演奏を担う、社交ダンス愛好家憧れのビッグバンド。

社交ダンスとビッグバンド

「かつて社交ダンスと生演奏によるダンスミュージックというのは切っても切り離せない関係だったわけですよね。特に戦後、アメリカ文化が入ってきたことによってビッグバンドと社交ダンスというのは盛り上がりを見せました。さらにそれがCDの登場によって、徐々に録音での演奏に切り替わっていきました。私も、録音での演奏を否定するわけではありません。ビッグバンドを維持するのはお金がかかります。そして、社交ダンスという文化も、かつてほどの勢いはありませんから、経済的にもなかなか呼ぶことはできないんです。しかし社交ダンス界ということを考えたときに、生演奏という重要なパーツがなくなってしまっていいのか、と。私はそれを、問いたいのです。
学生やアマチュアのように、楽しみでビッグバンドをやっている方々は、いつでも止められるんですよ。ただプロフェッショナルの団体は、仕事がなければ食べていけない。技術も落ちていきます。いま、社交ダンスの伴奏をできるちゃんとしたビッグバンドの団体は数団体しかありませんし、高齢化も進んでいます。歌やダンスの伴奏で仕事がついてきた時代ではなくなりましたから、いま存続している団体はスクールをやったり経営的に工夫しているんですね。そうした努力も必要ですが、やはり社交ダンスをビッグバンド生演奏で踊る文化を続けていきたいというのが私の思いなんです」

ご自身も音楽に親しみ、現在は社交ダンスも踊られるという荘さんの熱い思いを受け止めて、今回かわさきジャズでは社交ダンスのプログラムを11月10日に組んでいます。会場は新百合21ホール。もともと、川崎のダンスサークルなどによる利用が多く、地元の「社交ダンスの聖地」となっている会場です。ここで、ビッグバンド「伊藤クミとニューサウンズオーケストラ」による生演奏をバックに社交ダンスパーティーと練習会を開催いたします。
社交ダンス愛好家の方に貴重な生演奏で踊る機会を提供するとともに、踊らない方にも鑑賞席をご用意していますので、ぜひ会場にお運びいただければと思います。

イベント詳細は下記より


荘清二郎(しょう・せいじろう)さん

1961年12月29日生まれ、東京都出身。
2020年に「日本の社交ダンス音楽生演奏を守る会」を設立し、日本の社交ダンス界に「ビッグバンド」を残す必要性を問う活動を続けている。
前職は、東宝株式会社社員、出向先・東宝ビジネスサポート、東宝エンタープライズ(東宝ダンスホール)。
20年来の音楽プロデュース(コンサート)を経験の後、2024年5月27日に荘エンタープライズ合同会社を設立。