働きざかりの若者の声ーーリモートワークのストレスを解消できるまち、川崎へ
「もうそんな年齢になったんだね」
市議会議員の春が若者にかけた言葉だ。子どもは、ちょっと見ないうちに大きくなる。背が伸び、一人前の大人になり、職場の悩みを抱える。普段からまちに出て市民と会話している、春らしい言葉だ。
かわさき未来トークでは、川崎の未来を考えるための対話を発信している。今回は、大都市比較統計年表いわく、市民の平均年齢が最低の川崎市に欠かせない、若年層の市民との対話だ。結婚、子育て、介護、老後をこれから経験していくであろう彼らの声は、上の世代の暮らしやすさを実現する後押しにもなるだろう。
2023年2月12日、20代から30代の若者3名が溝口に集まり、若者会議が開催された。川崎市議会議員の春たかあきが一人ひとりの声に耳を傾ける時間が始まった。
まちづくりの余白を、若者とともに豊かにしていく
春「市議会議員という仕事では、同世代、もしくは自分よりも年上の世代とよく話します。異なる世代とゆっくり話す機会は、私には貴重です。たくさん教えてください。」
今回のテーマは、川崎市のまちづくりだ。特に、参加した若者の住む地域にあわせて、川崎市高津区のまちづくりを考えていく。多摩川を挟んで東京に隣接しているのが高津区。繁華街の溝口は東急電鉄の2線とJR南武線が通っており、川崎駅、横浜駅、渋谷駅へのアクセスがいい。溝の口の駅は、神奈川県で4番目に電車の利用者数が多いという特徴もある。
春「高津区には、まちづくりの余白があります。主要駅である溝の口駅、武蔵溝ノ口駅の開発が一段落し、大きな人の流れがあります。あたたかい人たちが住んでいて、文化も豊かです。率直な意見を聞かせてください。」
とは言え、市議会議員に声を届ける機会はあまりなく、戸惑いもある。そんな若者の様子を見て、これまで手がけた政策を3つ紹介した。
一つは、溝の口駅の開発。設計時、南口に座れる場所をつくりたかったが、ベンチを置けるスペースもなかった。そこで春は、狭くても設置できるポール型の"サポートベンチ"を提案し、現在も設置されている。
また、駅周辺には自転車を置くスペースも不足していた。1700台を収容できる地下駐輪場も十分でなかったため、ドンキホーテのそばと三井住友銀行の隣のスペースを活用して駐輪場を新設したのも春だ。
そして、2022年8月に開業した若者文化創造発信拠点「カワサキ文化会館」をご存じだろうか。BMXとスケートボード(スケボー)を楽しめるパークがあり、さらにはe-Sportsとバスケも楽しむこともできる。オリンピック・パラリンピックのための予算編成も後押ししたが、これは1人の若者の希望を春が実現したものだ。
BMX・スケボーの場づくりは、全国に先駆けた取り組みだ。なぜ春はひるむことなく推進できたのか。
春「遊びに行くなら東京、という雰囲気があると思うんです。でも本当は、地元で遊べるのが一番いいだろうと思っています。せっかくやりたいことがあるのに、東京に出かけてばかりなのは悔しいんです。」
世代を越えてまちづくりをしていこうとする春の意志が見えた。
若者会議の参加者たち
今回の若者会議には集まったのは誰なのか。高津の好きなところを添えて、仕事と暮らしぶりを一人ずつ紹介した。
田中「宮崎台駅の近くに住んでいます。職業はシステムエンジニアで、毎日テレワークです。出社義務がないため、希望して在宅勤務をしています。溝口に居酒屋がたくさんあるのが好きです。最近行ったお店は餃子のダンダダンです。」
中村「溝口駅の近くに住んでいます。IT企業で飛び込み営業をやっています。高台にある自宅から見える夜景が好きです。毎日、満員電車で東京に出ていて、ホームの階段を上るのを頑張っています。」
石川「武蔵新城駅の近くに住んでいます。機械式駐車場のメンテナンスと設置をする株式会社アイ・ピー・エムに勤めています。父が経営する会社です。仕事では、車でよく移動します。高津区は第三京浜道路があって、横浜にも東京にも行きやすいので気に入っています。」
3名はそれぞれ、異なるワークスタイルを送っている。フレックス制度、リモートワーク、時短勤務、副業解禁。働く環境はここ数年で大きく変わってきた。彼らが暮らしやすいまちづくりを、川崎市はできているだろうか。
リモートワークのストレスは一人で解消できない
まず、話し始めたのは田中さん。東京の企業に勤務し、川崎市の自宅でテレワークをしている。
田中「テレワークを始めた当初、一番気になったのは音でした。自宅で仕事をしていて、アパートの階段を上り下りする足音や、隣の家の生活音が気になってしょうがなかったです。コワーキングオフィスを探しましたが、近くにありませんでした。カラオケのテレワークプランを利用しましたが、別の部屋から歌が聞こえてうまくいきませんでした。」
春は、ホテルの一室を借りられるテレワークの政策があったことを伝えたが、田中さんは要望を続けた。
田中「会議室にいるような空間で、働いている人がたくさんいて、自分も釣られて集中できる環境がほしいんです。私は独身ですが、たとえば家族と住む人も、ぱっと外に出て1時間集中してこれるような場所は作れないでしょうか。武蔵小杉と中原にあるコワーキングオフィスは、1回数百円で使えます。電車に乗らなくても使える場所がほしいのは今も変わりません。」
東京のビジネスエリアには、コワーキングオフィスが珍しくない。これからは、住宅街にコワーキングオフィスがあるのも当たり前なのかもしれない。
田中「家にいると、会話がありません。人と喋らないまま過ごしていると精神的に疲れて、仕事の効率も悪くなります。もし近所に通えるオフィスがあれば、暮らしの可能性も広がりそうです。」
春「コロナ禍の直後の政策は、すぐに対応できるという理由でホテルを活用したと思います。話を聞いて、家の近くにオフィスが必要であることを理解しました。勉強して、考えてみます。」
田中さんは、東京に通いやすく家賃が安いことを理由に高津区に引っ越してきた。こういう人は多いだろう。決して少なくない人数が、リモートワークのストレスを感じて自宅で過ごしている。集中できる環境があって、孤独も解消できれば、住みたいと思う人はもっと増えるのではないか。
もう一つの孤独、食
続いて話したのは、IT企業で飛び込み営業をする中村さんだ。中村さんは毎日電車で通勤している。
中村「食に悩んでいます。と言うのも、溝の口駅から自宅に帰る道にスーパーがありません。気づけば、コンビニかファストフード店で同じものを買う日が続いています。」
溝の口駅の正面口にはスーパーもドラッグストアもあるが、南口にはない。春は頭を悩ませた。かつては南口にもスーパーがあったが、閉店してしまった。忙しい生活を送りながら、遠回りをして食材を買い、家で料理をするのは中村には難しい。かと言って、健康を考えれば栄養の偏りが気になるし、味気なさに気が滅入る。
中村「たとえば、ワンコインで朝ご飯を食べられないでしょうか。」
食事は身体づくりの基礎だ。とりわけ働きざかりの世代にとって、仕事で力を発揮するためにも欠かせない。横浜市では、働く人の朝食を支援するキャンペーンを開催している。食は、行政が取り組むべきことなのかもしれない。
会場からは、溝の口駅の周辺で夜市をやりたいという声があがった。夜市があれば、道に並んだ複数の屋台で食を楽しめるのではないかと。たしかに溝の口駅前には、広くて車通りの少ない道路がある。もし屋台が難しくても、キッチンカーの停車場所のための土地の認可を行政が進めれば、似たことはできる。中村さんの相談は、店舗を構える以外の方法でも実現できるかもしれない。
春「自分にはない視点でした。これまで市議会で語られてきた食の話題は、子ども食堂です。ほかの世代にも、食文化を豊かにする必要性があることを理解しました。」
田中さんは、人と話さずに一日を終える。中村さんは、コンビニで買った食事を一人で食べる。
これが毎日続いていいのか。内閣官房には孤独・孤立対策担当室が設置されており、孤独は深刻な問題だと捉えられている。春の今後に期待したい。その後、3人目の若者が春に相談をした。続きは、後編記事をご覧いただきたい。