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尊敬する人
出会いは小学5年生の冬。
父と行った町の小さな書店にそれはあった。
「伝染るんです。」吉田戦車 作
※『伝染るんです。』(うつるんです)は、吉田戦車による4コマ漫画。句点(。)の部分も含めて正式名称である。「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にて、1989年8号から1994年6号にかけて連載された。単行本全5巻の累計発行部数は300万部以上を記録している
(Wikipediaより)
なぜ惹かれたのかは覚えていないが、父に買ってくれと頼んだ。
父がどう思ったのかは無表情なのでわからない。しかし、私のことに口出ししたりする人ではないので普通に買ってくれた。
ハードカバーにみっちりビニールがかけてあったので、中身もわからずに買ったことになる。
家に帰って開いてみると、それは四コマのギャグ漫画だった。
不条理ギャグと呼ばれるソレは、今考えてみると小学生が読むものではないと思うが、その時の私には面白くて面白くて、一気に虜になった。
当時の私はどうしてもこの感動を共有したくて、友達に無理矢理貸しては感想を求めるが、誰からも思うような返事が聞けずに残念な思いをすることとなる。
中学にあがってからもその布教活動を続けたが、お察しの通り、うっすら変わった子という立ち位置で浮いたまま卒業を迎えた。
それでもめげなかった私は、少しだけ絵を描くことが出来たので、高校のクラスの文集の挿し絵担当となり、しれっと伝染るんですのキャラクターを描いたりしたのである。
もし、
「あなたの宗教は何ですか?」
と問われたら、
「まぁ…強いて言うなら…吉田戦車教…でしょうか」
と答える。だろう…な。
それくらい私の根幹に在り、生きている。
東京に住む姉から佐賀に住む私へメールが届いた。
[東京新聞で吉田戦車の「かわうそくんふきだしコンテスト」ってのがあるらしいよ。]
姉のメールはいつもシンプルである。
調べてみるとこうだ。
2021年より東京新聞の土日の朝刊にて連載された四コマ漫画「かわうそセブン」(※2024年連載終了)。
伝染るんですのキャラクター、かわうそ君やお馴染みのキャラクターたちが登場する。
その四コマ漫画のオチを考えるコンテスト、いわゆる大喜利大会である。
なんと、審査員は吉田戦車先生…!!!
心臓がバクバクした。
「こりゃあ一大事だ…先生に見てもらえるなんて…夢のよう…」
顔が熱くなるのがわかった。
すぐに頭の中は大喜利でいっぱいに。
いくつも考えては、夫に披露する。
本当にびっくりするくらい笑ってもらえなかった。
結局は一番最初に思いついたものを応募した。
私の脳味噌は終わった作業はすぐ消去するように出来ているようで、あんなに燃えた大喜利のこともすっかり忘れ去っていた。
ある朝、携帯が鳴る。知らない番号からだ。
「わたくし、東京新聞の◯◯と申します。ご応募いただきました、かわうそくんふきだしコンテストなんですが、かわさき様が優秀賞に決まりました」
私「え?え?!わ!え?!うわ!!え?!あ!ありがとうございます!!うわ!えー!?やば!嬉しい!うわぁぁぁ!!」
こんな感じだったと思う。
数日後、賞品が届いた。
吉田戦車先生のサインとイラストに私の名前まで入っている、まるで夢のような漫画本のセットだった。
間違いない。今まで生きてきた中で一番嬉しい。
小中高の頃の私に伝えたい。
生きていればびっくりするような嬉しい出来事が起こるよ。
ずっと好きでいて良かったね。
てか、あんた、めげない女だね。
(おわり)