街灯の訪問者
今は冬なのだが昆虫を見かけなくなって寂しいので蛾の魅力をお伝えしようと思う。蛾と蝶の違いはいろいろ言われているけれど明確な線引きは難しい。「止まっているときに羽を上向きに畳んでいるのが蝶で、水平に羽を畳んでいるのが蛾でしょ?」と言われても、蛾にも上向きに畳む種類はいるし、蝶にも水平に羽を畳んでいる種類がある。「触角でしょ?」と言われても、蛾の触角は全てがヤママユガのようなものではない。スラッと真っ直ぐな触角を持つ蛾もたくさんいる。なんだそりゃ。
だが、どちらも"鱗肢目"というグループに属する。羽に鱗粉という毛の一種が生えているからだ。しかし、残念なことに?鱗粉を持たない蛾というのが存在する。なんだと?!ややこしい説明はこれくらいにしよう。
夏から秋にかけて、帰宅すると、アパートの電気によってきた蛾が壁にちらほらいる。僕はそのうちの一匹を指でそっと触る。ふわっとしたビロードのような毛の集まりはとても繊細だ。そして少し温かい。
寒い日には蛾もあまり飛ばない。よくみると小さな体を小刻みに震わせている。触ると飛ぼうとするが、すぐに地面におりてしまう。震えて温かくなるとちゃんと飛べるようになるらしい。車のアイドリングみたいだ。
見た目は本当に様々で、毎日みていても飽きない。ヒトリガのような大きくてカラフルなものもいるが、圧倒的に小さな茶色い蛾が多くを占める。地味な色彩でありながら、茶色や灰色の中にこれほどのバリエーションを作り出せる自然のすごさに驚く。
地味だと思っても侮ってはいけない。遠目には木の皮や岩の苔のように見えるにも関わらず、近寄って見るとそれはなんとも不思議な模様をしている。ニューギニアの仮面や、ペルシアの絨毯にもひけを取らない。人間の作るいかなる芸術も、昆虫の模様には敵わないのではないかと思えてくる。
そして蛾の顔はモモンガみたいでキュートだ。大きなつぶらな目、そしてモモンガには無い立派な触角。テレビのアンテナのような形もあれば、中国の団扇のようなものまで様々である。
そんな美しい蛾達が寒い日に車のアイドリングのように震えているのを見ると、蛾も寒いのだなーと妙に親近感を覚えてくる。まるでふくら雀だ。
蛾達は今、その命を終えているだろう。彼らが生んだ新しい命が、サナギや卵の状態で春が来るのを待っている。あの雪の下、木の枝の上で。
春になったら探しに行きたくて待ち遠しい。