【書評】人の想いを預かる優しい木~『クスノキの番人』(東野圭吾)
東野圭吾さんの最新作、『クスノキの番人』です。あの東野さんだから面白くないわけがないだろう、と思いながら読みました。さすがでした。
1、内容・あらすじ
主人公は直井玲斗という青年です。
玲斗は小さなリサイクル会社に勤めていましたが、あることで社長の怒りを買い、不当に解雇されてしまいます。
その腹いせに会社に侵入して高価な機械を盗み出そうとしますが失敗し、あえなく逮捕。
送検、起訴を待つ身となった玲斗の前に、突然弁護士が現れます。「依頼人の命令を聞くなら釈放されるように動く」と言う弁護士。依頼人にちっとも心当たりはありませんでしたが、玲斗は従うことにし、釈放。
依頼人の待つ場所へ向かうと、柳澤千舟という年配の女性が待っていました。千舟は、玲斗の母の異母姉であることを明かします。
当惑する玲斗に、千舟はある命令をします。「柳澤家が代々管理をしている、不思議なクスノキの番人をすること。」
以後、「クスノキの番人」としての日々が始まります──。
2、私の感想
なかなか読者に全貌を明らかにしない手の混んだ作りの小説で、「上手いなあ」と思いました。そして、「よくこんな話を思いつくなあ」と感心させられる小説です。どうやって着想を得たんだろう。
なぜ人々がクスノキに「祈念」するのか、そもそも「祈念」とは何なのか、何回も祈念に来るのはなぜなのか、なぜ同じ名字の人が祈念に来るのか……などといった、クスノキにまつわる謎が少しずつ 少しずつ明かされていきます。
物語の着地点が予想できず、わくわくしながらページをめくる手が止まりません。読者を物語に引き込んで離さない技量はさすがです。
そしてクスノキの謎が明らかになってからは、千舟と玲斗に関する物語に移行します。
これがまたお見事。「そうか、あれは伏線だったのか」という種明かしが展開されます。千舟の「◯◯」はきっと伏線なんだろうと思っていましたが、そういうふうにつながるとは……。
この本は最近には珍しく、電子書籍版がない、紙版のみの発売です。作者の東野圭吾さんが「ぜひ紙の本で読んでもらいたい」と言ったとか。
私も最近はほぼ9割方電子書籍の読書になっていましたが、久しぶりに「紙の本もいいなあ」と思いました。
「紙で読んでもらいたい」と言った東野さんの意図がわかったような気がします。
3、こんな人にオススメ
・家族関係でつらい思いをしたことがある人
クスノキにからめて、家族のことにかなり焦点を当てています。
・巨木が好きな人
実は私もそうなのです。巨木マニアはぜひ。テンションが上がります。
・心温まる小説を読みたい人
悪人は一人も出てきません。そして最後に心が救われる話です。