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「期待」と「利用」は乖離する。恥ずかしいうちにMVPを公開する重要性。

昨日、01Books(現BooQs)のMVP(必要最小限の製品)を公開した。
ええ、もちろん、使われませんでしたよ。
けど、この結果から学んだことは大きかったので、とくに前例のない事業に身を捧げようとしているあなたには、オススメです。

前例のない事業を行うということ

スタートアップは、前例のない事業を行う。
しかし、前例のない事業は大きなリスクを伴う。
なぜなら前例がないということは、その事業について自分が正しいと暗黙に信じている前提条件さえも、検証されていない仮説に過ぎないからだ。

検証されていない仮説は、妄想にすぎない。

最初の妄想が正しいことを前提に、さらに妄想を積み上げてバラ色の未来を描くのはとても簡単だが、あまりに危険だ。

検証されていない前提の上に理論を積み重ねていくことを、世間一般では「神学」と呼ぶが、神様がいることを前提に、神様に祈っても、実際のところ顧客は商品を買ってはくれない。

01Booksがやろうとしていることは、どうやら前例がないらしい。
「本のクイズ投稿アプリ」なんて心理学をかじった人間なら誰でも思いつきそうなものだが、前例がない。

となると、まずは「本のクイズ投稿サービスが事業になるための前提条件」を検証しなくてはならない。

自分はまずその前提となる仮説を、インタビューによって検証した。


01Booksが事業として成立するためには、少なくとも次の3つの前提仮説が正しくなければならない。

前提仮説1「娯楽ではなく、学習手段として本を読む人間が存在する」

01Booksは、本の学習ツールだ。
そのため01Booksの顧客は、「娯楽よりも、学びを求める読書家」だ。
もし教材として本を読む人がいないのであれば、01Booksの顧客は存在しないことになるので、事業が破綻してしまう。

ただ幸い、この仮説の正しさについては心強いデータが存在する。

文化庁が公開している「平成 25 年度「国語に関する世論調査」の結果の概要」によると、
「読書をすることの良いところは何だと思うか。」という問いに対して、61.6%が「新しい知識や情報を得られること」と答えた。

つまり、読書人口の6割は、01Booksの見込み顧客なのだ。

この6割という比率は、01Books開発前に私自身で行った東大生20人へのインタビュー結果からも得られた。

標本サイズが小さいので結果に偏りはあるだろうが、「学びを求める読書家が存在する」という仮説は、このインタビューからも検証できているのではないだろうか。

前提仮説2「学びを求める読書家は、読んだ本のクイズを解く」

01Booksの見込み顧客が存在することはわかった。
しかしその顧客は、本当に01Booksを使ってくれるのか?

つまり、「学びを求めて、本のクイズを解いてくれるのだろうか?」

先ほど紹介した東大生へのインタビューは、開発前に01Booksの需要を検証するために行ったものだ。
インタビューは、プロトタイピングツール「Prott」で作った動くモックアップを実際に触ってもらってから行った。
以下が結果になる。

4月7日に行ったインタビューは、本のクイズ機能のみのプロトタイプだったが、4月28日に行ったインタビューでは、欲をかいてプロトタイプに機能を追加してしまった(反省している)。
しかし、おおむね東大生40人に本のクイズ機能の需要を問い、7割弱に「本のクイズを解きたい」と回答していただけた。

ちなみに、TestingBookというのは、01Booksの旧称だ。

(2018年11月24日現在、「BooQs」に名称変更しています)

前提仮説3「学びを求める読書家は、読んだ本のクイズを投稿する」

01Booksが事業として成立するためには、ユーザーに読んだ本のクイズを解いてもらうだけでは不十分だ。
ユーザーに読んだ本についてクイズを投稿してもらわなければ、01Booksは成長できない。

01Booksは、いわゆるCGM( Consumer Generated Media ) だ。

01Booksは、読書家たちが参加して、本のクイズと、クイズを作る労力を分け合い、協力して効率的な本の学習を実現する場となることが理想的だ。

そうであれば、「学びを求める読書家は、本のクイズを投稿する」という前提が正しくなければ、思い描く理想には到達できない。

一応ユーザーインタビューでは、クイズを作りたいかどうかの質問で、52%が作りたいと回答してくれた。


これは金の卵だ!!ユーザーインタビューの結果が実際に反映されるのなら....

実際のところ、プロトタイプを使ったインタビューは、「期待」を検証することはできるが「利用」を検証することはできない。

つまりプロトタイプでは、前提仮説1と2を確実に検証することはできないのだ。

「利用」を検証することのできるのは、プロトタイプではなく、MVP(必要最小限度の製品)だ。

そしてまさに昨日、MVPを公開したところ、まったくクイズが投稿されなかったのである。


もちろんまだ公開して1日だし、十分な数のユーザーに使ってもらっている訳ではないので、仮説が誤りであるとするのは早急だろう。
プロダクトの磨き込みによって、前提仮説を真にすることもできるかもしれない。

ただMVPリリースを通じて、人々の「期待」と「利用」の間には距離があるということを知れたのは、とても大きな学びだった。

だってテスト効果については、割とみんな有益だって思ってくれてるんですよ?

しかし、実際にアクティーベーションしてくれた人は8人だけだった。

ここから学べることがある。

MVPをなるべく早い段階で公開するというのは、やはり重要だということだ。

本当のことを言えば、公開前にもっと01Booksを作り込みたかったし、修正したい問題もあったのだが、そんな恥ずかしい状態でもはやく製品を公開することには大きな価値がある。

顧客の実際の「利用情報」のない作り込みは、不確かな前提の上にバラ色の未来を描く「神学」に堕してしまうからだ。

心理学的にいうと、「理論」というものは、後知恵バイアスのように簡単に捏造できる代物でしかない。
また、インタビューから得た「期待」の不確かさも、「感情予測のエラー」という心理学用語で説明できる。

スタートアップにとって重要なのは、顧客に対する精緻な理論や、顧客のもつ期待よりも、顧客の観測結果だ。

MVPを早い段階で公開するのは、この顧客に対する観測結果を得ることに大きく役立つ。

プロダクトの作り込みは、観測結果から見つけ出した問題に対する解決であるべきだ。

少なくとも、自分はこれからそうしようと思う。

安易にピボット(事業転換)をするつもりはないが、死ぬまでは顧客を観測し続けようと決意した。

ええ、もちろん、昨日の話です。


01Booksは、心理学的に正しい本の学習ツールです。

現在、開発・デザイン・マーケティング・営業すべて、相川真司(@kawanji01)一人で行なっています。

今は、事業として成長するための前提仮説の検証段階で、株式会社をまだ作ってはいないので、共同創業者を絶賛募集中ですよ!


ユーザーのみなさま!あなたのお声を聞かせてください!

「あなたが読書に求めるものはなんですか?」

「テスト効果を知っていますか?」

「本のクイズを解きましたか?」

「本のクイズを投稿しましたか?」

ご批判・ご助言なんでも大歓迎です!!

Twitterの@kawanji01からDMを送っていただくか、kawanji01@gmail.comまでメールをください!

あなたの一言が、相川の命を救います!!


追記:2019/01/03

おぉ...もう3ヶ月経ったのか...

この頃はとても若かったなぁ...

今のプロダクトは、この頃とはだいぶ違っているけど、この頃はこれが絶対的に正しいと思ってるんだよね...

まぁ、こんな風に達観している今の僕も、きっと3ヶ月後の自分から見たら、若いんだろうけど...

さて、話を戻すと、MVPを恥ずかしいうちに公開する理由はもう一つある。

『ユーザーに使ってもらえない現実を受け止めたとき、はじめて開発者は、プロダクトを改善する気を起こすから』だ。

実際に、ユーザーに使ってもらえない現実に直面するまで、開発者は楽観的だ。

自分の作っているものは最高だとどこかで信じているから、密かに希望をもっている。

その希望が潰えたとき、初めて、開発者は本当の意味での改善を考える。

それは大概、自己否定だ。

だから、多くの開発者は、使ってもらえない現実に直面したとき、そこで諦める。
プロダクトの開発を中止する。

でも、ちょっとネジの外れた人間は、諦めではなく、「どうすれば使ってもらえるようになるか」を真剣に考える。

その結果として、プロダクトもビジネスモデルも、初期の構想とはだいぶ変わってしまうことが多い。

でもそれは、一般的に思われているような、断絶したものではなく、連続したものなんだ。

考えて、実験して、考えて、実験した先に、開発者は何かを悟る。

それがきっと、ピボットだ。

ピボットの根底には、使われなかったプロダクトがあり、プロダクトの根底には、諦めを許さない原体験がある。

原体験は重要だ。あるいは使命感は重要だ。
これがないと、僕たちは困難を前に、歩みを止めてしまう。諦めてしまう。

まとめると、MVPをなるべく早くリリースすることの意義は、『使ってもらえない現実を受け止めるため』だ。

だが、それは「諦めろ」というメッセージじゃない。

『どうすれば使ってもらえるようになるか?』を真剣に考えるための儀式なのだ。

機能追加も、UI改善も、あるいはピボットも、この儀式なしには価値を持たない。

恥ずかしいうちにMVPをリリースしよう。

重傷を負う前に、軽傷を負おう。

そして、そこで諦めずに、考えるんだ。手を動かすんだ。

PMFは、その先にある。

あなたの貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!