「いいね5つ」のツイートが、たった1人のリツイートから「いいね1000」まで伸びた件から僕が学んだこと
メディア研究の大家マーシャル・マクルーハンは、「メディアはメッセージである」という言葉を残しました。
この言葉の意味は、「メッセージに説得力をもたせたいなら、メッセージの内容と同じくらい、メッセージの流通経路(メディア)が重要である」というものです。
つまり、「そのメッセージを、どこを通じて、誰を通じて発信するのかをよく考えるべき」ということです。
この意見に反対する人は多いのではないかと思います。
人間は、無邪気に、自分の言葉の価値を信じ込みがちです。
普通、人間は、「どのように言うか(How)」よりも、「何を言うか(What)」に心を砕きます。
もちろんその傾向は、ホモ・サピエンスを自称している僕も例外ではありませんでした。
昨日までは・・・。
バズりました。
かわんじ史上最高の、バズです。驚きです。めっちゃ嬉しいです。
ただTwitter民としては、あまり珍しい光景ではないのかもしれません。
けれど僕としては、とても衝撃な出来事でした。なんでかってこれ・・・
THE GUILDのGo Ando(@goando)さんにリツイートされるまで数時間、いいねがたったの「5」でしたからね。
5ですよ!5!!
いや別に5 Andoとかそういうことを言いたいわけじゃなくて、本当に僕が最後にこのツイートをお見かけしたときは、ぜんぜん人気がなかったんです。
けれど、「5いいね」が、たった1人のインフルエンサーにリツイートされただけで、「1000いいね」まで評価されました。
僕はこの点にすごく興味が湧いたんで、今回のバズの仕組みを心理学的に分析してみました。
その結論が、冒頭で述べたマクルーハンの言葉「メディアは、メッセージである」ということです。
つまり、「メッセージの流通経路は、それ自体が、メッセージの価値になる」と言うことです。
あ、結論いっちゃった。。。
・・・この記事では、上の結論に納得してもらうために、バズの仕組みについて自分の分析を述べていきます。
バズの仕組みを知りたいひとや、また...
「作品(メッセージ)の質だけで評価してもらえる」と考えていた僕みたいなクリエイター(漫画家や小説家やデザイナーやアプリの個人開発者など)にも、ぜひ読んで欲しいです。
権威ブースト
僕のツイートがバズった仕組みとして真っ先に思い浮かぶのは、
「そりゃあ、フォロワーが何万といるインフルエンサーにリツイートされれば、当然バズるんじゃない?」
というものでしょう。
もちろん、「インフルエンサーにリツイートされる」というのは、バズを発生させる重要な条件ではあるでしょう。
しかしそれでも、僕はこの分析は短絡的だと思います。
なぜか?
実は以前にもAndoさんにリツイートをいただいたことがあるのですが、その時はまったくバズらなかったからです。
けっこう気に入っているツイートなんですがね・・・残念・・・。
でも、バズを起こすのに、単にインフルエンサーに取り上げてもらうだけでは不十分だということはおわかりいただけたんじゃないかなと思います。
ではバズるツイートとそうではないツイートって何が違うんだろう、と考えたのですが、僕は1つの条件として、「そのツイートがインフルエンサーの「権威」と合致しているかどうか」が挙げられると思います。
たとえば、AndoさんはプロのUI/UXデザイナーであり、その道の「権威」です。
だから、「デザイン」や「UX」という分野のツイートであれば、バズが起こりやすいのではないか、と思います。
だから、前者の「知覚学習による美的感覚の強化」と後者の「価値のトレードオフ論」では、前者はバズり、後者はバズらなかったのです。
ここでいう「権威」というのは、権力ではありません。「専門家である」という意味です。
面白いことに、専門家の助言に耳を傾けるとき、私たちは助言の内容の評価を行わずに、それを受け入れようとします。
ある実験では、複雑な意思決定をする際に専門家の助言を受けた被験者は、助言の内容の評価を行う脳の部位の関連活動がゼロになっていました。
ゼロですよ(笑)
つまり、専門知識を背景とする「権威」は、発言に少々過度な「信頼性」と「説得力」を加えるのです。
そう考えると、なぜデザイナーではない自分の「美的感覚談義」がバズったのか、理解できるのではないでしょうか。
もしかしたら本来の僕のツイートは、「5いいね」だったのかもしれません。
しかし、Andoさんにリツイートしていただいたおかげで、Andoさんの権威による「信頼性」と「説得力」が僕のツイートに加わったからこそ、爆発的に拡散した。これが僕の考えです。
僕はTwitterにおけるこの権威的な拡散を、「権威ブースト」と呼ぶことにしました。
リツイートした人の権威という、元の発信者のツイートの内容とは関係のない部分で、そのツイートの価値を押し上げるからです。
著名な心理学者ロバート・チャルディーニは、この権威によってメッセージに加えられる強力な説得力を表現するために、冒頭のマクルーハンの言葉をもじって「メッセンジャーは、メッセージである」と述べました。
つまり、「メッセージの伝え手は、そのままメッセージの価値になる」という意味です。
メッセージは、「内容(What)」だけでなく「発信者(Who)」も重要であるということです。
わりと見落とされがちな、重要な事実です。
しかし、僕はこれこそ、今回のバズの正体なのではないかと思います。
Andoさんは、リツイートによるメッセンジャーとして、僕のメッセージに「権威(説得力)」を与えるメディア(情報の流通経路)になりました。
そして次にも述べるように、メッセージの評価というものは、「メッセージの質×メディア(流通経路)の質」で決まるのです。
だから今回のバズ分析の結論として、「メディアは、メッセージである」と表現したのです。
全世界のすべてのクリエイターに伝えたいこと
僕が今回のバズから学んだことは、おそらく、広告業界では常識的なことです。
それは、メッセージの評価は、「メッセージの質」×「流通経路の質」で決まるということです。
このメッセージは、「作品」や「プロダクト」にも置き換えられると思います。
「作品の評価は、作品の質×流通経路の質」
「プロダクトの評価は、プロダクトの質×流通経路の質」です。
メディアというのは、「コンテンツの流通経路」です。
そしてこの流通経路というものは、私たちが思う以上に、流通させるコンテンツの価値に影響を与えます。
漫画の例で言えば、漫画の印象は、掲載される雑誌のブランドに影響を受けますし、プロダクトの印象もまた、チャネルの影響を受けざるを得ません。
会社のホームページやSNSで発表すれば無料(タダ)で済むところを、わざわざ企業が数万円かけてプレスリリースを打つのは、彼らがプレスリリースという情報の流通経路にそれだけの価値を見出しているからです。
そう、僕はとても当たり前のことを言っているんです。
しかし、クリエイターにとってこの主張は受け入れにくい。
クリエイターは、「良いものを作れば、きちんと評価される」と無邪気に信じています。
だからこそ、妥協を許さず、良いものを追求することができる。
けれどこうした考え方には、「フィールド・オブ・ドリームスの誤謬」という不名誉な名前がつけられています。
「良いメッセージを発信すれば、バズる」
「良い製品を作れば、売れる」
「面白い作品を創れば、ヒットする」
これは確かに、ある一面では正しいのです。
しかし、それは因果ではなく相関であり、作品の質と同じくらい相関する要素を見落としています。
それが「流通経路」です。
大抵の場合、この流通経路については、作品については編集者だったり、プロダクトについてはマーケターが考えてくれます。
しかし、今のような個人が力をつけて、「個人の力」あるいは組織ではなく「チームの力」でやって行こうという場合には、作品やプロダクトの質を考えるのと同じだけ、クリエイター側がコンテンツの流通経路もきちんと考えなくてはマズイと思います。
どうして僕がこう熱っぽく語っているかというと、
僕自身、かつて漫画家や小説家を目指し、今はアプリの個人開発を行なっているどちらかと言えばクリエイターで、まさに「良いものなら受け入れられる」という「フィールド・オブ・ドリームスの誤謬」にかかって失敗していたからです。
というか、今開発しているアプリで、進行形で失敗しつつある。
結局、僕が「流通経路」の重要性を皮膚感覚で理解できたのは、昨日でした。
さすがに、いいねが5つしかついてないツイートが数時間後にバズってたら、メッセージの質以外の何かが結果に相関していることは、いくら品質原理主義者の僕でも確信します。
クリエイター職がマーケティングについて語ると、「ダークサイドに堕ちた」みたいな印象を抱かれがちですが、やっぱり結局、作品にしてもプロダクトにしても最終的に評価するのは自分ではなく相手なので、相手に適切な流通経路で届けるというのは、クリエイター側の使命であると思います。
それに気づかせてくれたGo Andoさんには感謝です。
みんな!!Go Andoさんをフォローしよう!!
バズから学んだことまとめ
・コンテンツの評価は、「コンテンツの質」×「流通経路の質」で決まります。
・コンテンツの質がよくても、流通経路がマズイせいで評価されないことはザラです。
・コンテンツの評価を上げたいなら、「フィールド・オブ・ドリームスの誤謬」を克服して、もっと総合的に考えましょう。
学習の心理学について
今回バズったのは、知覚学習についてのツイートですが、
僕はTwitterでは、知覚学習のほかにも学習の心理学について色々と図解しています。
よろしければぜひ!!
本業
学習の心理学に基づいた『クイズ学習サービス』を開発しております。