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【読切作品】ハッピーエンドの後始末

セリフ表記

ランドー(表記:ラ):本名「蘭堂朱音」。勇者。
カーズ(表記:カ):本名「川津優斗」。魔王。
サチコ(表記:サ):朱音を慕う知的障害のある少女。

本編

ー 異世界の回想を背景に ー

サ「それでそれで!」
ラ「・・・長きにわたる死闘の末、勇者ランドーとその仲間たちは、ついに魔王カーズを倒しましたとさ。めでたしめでたし。」
サ「わああ!!そのあとは!?そのあとはどうなったの!?」
ラ「・・・もちろん、異世界には平和が戻り、女神との約束通り、魔王を倒した勇者は元の世界へ帰還を果たしましたとさ。めでたしめでたし。」
サ「つづきは!?勇者さまはそのあとどうなったの!?あかねちゃん!」
ラ「・・・続きか・・・続きねぇ・・・」

ー 少年院の集団室に場面が切り替わる ー

ラ「20年ぶりに帰還した勇者ランドーは、元の世界に馴染めずに、暴行事件を起こしてブタ箱にぶち込まれましたとさ。・・・めでたしめでたし。」
サ「・・・それってめでたしなの?あかねちゃん」
看守「蘭堂朱音!出ろ!・・・面会人だ。」

ー 面会室へ続く廊下を歩きながら独白 ー

ラ(人生は「めでたしめでたし」で終わらせてくれるほど気が利いちゃいない。)
(私は魔王を倒して世界を救った英雄だった。だが、帰還した私を待っていたのは、終わりのない苦悩と孤独だった。)
(今でも毎夜、戦場の悪夢にうなされる。目の前でバラバラに四肢が吹き飛んだ戦友、やむを得ず見捨てた負傷兵、私が刃を突き立てた敵兵の乞うような瞳が、私を地獄に引きずり込もうとしてくる。敵の断末魔で目を覚まし、衝動的に手首を切り裂いたのはもう三度目だ。)
(誰も私の苦悩を理解しちゃくれない。家族も友人も、みんな私を見放した。)
(ある日、道路にチョークで落書きをしていた子供を蹴り飛ばしたことがあった。奴らが地雷を、鮫喰(こうさん)の魔法陣を描いていると思ったんだ。グリンウッドではあれくらいの身なりのエルフがゲリラをしていた。オルテガは私の目の前で鮫喰に足をやられて、私は新兵でろくに呪いの解き方も知らなくて、助けられた命だったのに私は・・・私は・・・っ!!)
(そんなこと、ここの人間は誰も理解しちゃくれない!!みんな私を狂人扱いして見捨てていった。ここには心を通わせた戦友もいない・・・もう私の話を聞いてくれるのは、知的障害の女の子一人だけだ・・・)
(私はこの社会に望まれていない。私すら私を望んじゃいない。今夜もまた一人で悪夢にうなされるくらいなら、今日こそすべて終わらせよう。このみじめな人生を。この面会が終わったら、すぐにでも・・・)
看守が面会室のドアを開ける。

ー 面会室 ー

右腕のないスーツ姿の男が手をあげる。
カ「よお久しぶり。半グレどもを50人、素手でぶちのめしたんだって?それも一人で。向こうなら表彰でもされたろうに、残念だったなぁ。」
ラ「・・・あんた誰?」
カ「あぁ、全員生かしておいたのは王国的にはNGだったか?悪党への慈悲の心ってもんがないもんな、おたくらは」未知の言語でランドーに話しかける。
ラ「・・・異世界語(エリム語)。あんたまさか・・・」
カ「まぁ座れよ、勇者ランドー。この俺を殺した感想でも聞かせてくれ。」
看守「失礼。規則により面会室ではあらかじめ許可された以外の外国語は」
カ「なら規則が変更だな。」
男が懐から短刀を抜き看守に振りかざすと、看守は気を失う。
カ「俺のいる場では俺がルールだ。お前も忘れるなよランドー。異論があるなら」
ラ「威力で示せって?・・・最悪だわカーズ。魔王のアンタまで悪夢に見るようになるなんて。今日は漏らしてないといいけど。」
カ「お前、俺を夢だと思ってんのか?俺だってお前と同じ転生者だぜ。戻ってきてても不思議じゃないだろ?」
ラ「現実には魔法なんて非科学的なもんは存在しないのよ。」
カ「お前がそう信じ込みたいだけだろ。忘れたか?お前の生得魔法は「残機」。ストックが尽きるまで何度でも蘇る不死身の能力だ。でなきゃお前が3度も自決し損なうなんてありえんだろ。」
ラ「・・・どうかしらね。起きたらもう一度確かめてみるわ。」
カ「・・・腑抜けたな。魔王を倒した勇者の名が聞いてあきれる。」
ラ「黙れ!みんな何も知らずに勝手なこと言いやがって!アンタのことだって好きで殺したわけじゃない!私はただ与えられた務めを果たしただけよ!そうじゃなきゃ誰があんな・・・あんなこと・・・っ!」急に泣き喚いて怒鳴り散らす。
カ「どおどお落ち着けランドー。吐くならほら、ゴミ箱。」
ラ「ありがとう、大丈夫、大丈夫よ・・・。ねぇカーズ、夢ならリネーヴァ出してくれない?霊薬が難しいならメス(覚醒剤)でもいいから。」
カ「・・・麻薬よりアガるブツくれてやる。聖剣ユニコーン、お前の相棒だろ?」
ラ「・・・どういうつもり?・・・それにアンタ、右腕は・・・?」
カ「そいつが俺がここにきた理由さ。俺の右腕になれ、ランドー。一緒に世界を征服しよう。」
ラ「・・・はあ?」
カ「お前もこの世界を憎んでるんだろう?お前を狂人扱いして社会の隅に追いやった奴らをぶっ潰すのさ。復讐はいいぞ。心が晴れる。」
ラ「・・・ごめんだわ、馬鹿馬鹿しい。それに、アンタと私だけで一体何ができるのよ。我ながら頭の悪い悪夢ね。」
カ「悪夢でも「だけ」でもないのさ。・・・なぁグリフェス」

ー 面会室の壁と天井をぶち抜いてグリフォンが現れる ー

ラ「魔獣ッ!?」
カ「異世界とこちらをつなぐ扉が開いてね。これで人員と補給の問題はクリアだな。なぁ〜グリフェス〜?俺たち魔王軍は最強だもんなぁ〜?」グリフォンを撫でながら。
グリフェス「ぐるるる・・・」
ラ「・・・いってぇ、畜生・・・。こんなこと・・・マジで夢じゃないのかよ・・・」瓦礫に頭をぶつけて流血している。
カ「協力する気になったか?ランドー」
ラ「・・・知るかクソ厨二魔王。世界征服でもなんでも勝手にやってろ。」
カ「やれやれ。相変わらず強情なやつだ。」
サ「あかねちゃん!いま大きな鳥さんが!!あかねちゃん
血が!血がでてる!!だいじょうぶ!?」
ラ「サチコ!?馬鹿ッ!!こっちに来るじゃないッ!!ここから離れろッ!!」
サ「ひっ!!ごめっ!ごめんなさい!!さーちゃん悪い子でごめんなさい!!」怒鳴り声に怯えてその場で頭を抱えてうずくまる。
カ「この娘がお前の新しいお仲間か?ずいぶんと頭の悪そうな女だな。こいつを人質にでもすればお前の考えも少しは」

カーズが言い終わらないうちに、ランドーが聖剣を抜き、カーズに斬りかかる。
カーズはかろうじて短剣で防御し、鍔迫り合いになる。

ラ「サチコに手ェ出すなッ!!もう一度ぶっ殺すぞカーズッ!!」
カ「おぉ〜〜〜よかったよかった。ユニコーンを抜けたってことは、ランドー、お前まだ処女だったんだな。信じてたぜ、王国の偶像(アイドル)」
ラ「セクハラ罪で死刑だクソ野郎!!!!」
ランドー、カーズを蹴り飛ばす。舞台は屋外へ。

ー いくらかの戦闘のあと ー

カ「つってて・・・。やっぱ片腕ねぇとお前との近接戦闘は分が悪いぜ。でもまぁ、お前もいくつかいいのもらったろ?何回死んだ?」
ラ「5回。」
カ「ザマァみやがれ。魔法なんて非科学的なもんに助けられた気分はどうだ?自分が統合失調症じゃないとわかって安心したろ?」
ラ「・・・逆ね。全部現実だとわかって絶望したわ。戦友の肉片も、敵の悲鳴も、あんたの奥さんを殺したことも、全部私の妄想だったらよかったのに・・・。」
カ「・・・俺はお前の師匠を殺した。お前の仲間を殺した。俺たちの敵だったからだ。・・・それが戦争だろ。俺は、俺たちの正義のために正しい選択をしたはずだ。それはお前だって同じだろう?俺は正しかった。お前も正しかった。・・・違うか?」
ラ「もう、わからないのよ・・・。ねぇカーズ。もう諦めて扉を閉じなよ。いくら魔術を駆使しようが、こっちの軍事力には敵わないわよ。そんなこと、アンタならとっくにわかってるんでしょ?こんなの馬鹿げてる。」
カ「馬鹿げてるか・・・そうだな・・・。確かに俺は、馬鹿げてる・・・。」
ラ「だったら・・・」
カ「ちなみに俺に頼んでも扉は閉まらないぜ。扉を開いたのは俺じゃない。向こうの奴らなんでね。それも聞いて驚け。王国軍だ。お前が守ってきたクソ人間どもの仕業だよ。」
ラ「・・・は?」
カ「どうやら王国はこちらを侵略するつもりらしい。ちなみに、相手の頭は俺より強かったぞ。戦闘狂いのお前にとってはワクワクする話かな?」失った右腕を振って自嘲気味に。
ラ「・・・嘘でしょ・・・王国が・・・。それならあんた一体、何が目的なのよ・・・。」
カ「・・・それは、この先のお前次第だな。」独り言のように呟く。
カ「・・・なぁランドー、もう自死なんてつまらない真似はよせ。お前は魔王を倒した英雄だ。」
カ「これから王国に味方して、お前を狂人扱いしたこの世界に復讐を果たすも良し。この世界に味方して、王国の侵略者どもを蹴散らすも良しだ。・・・だがせめて、英雄らしく生きてくれ。英雄らしく死んでくれ。」
ラ「・・・・・」
カ「・・・お前にその気がないってんなら、俺が今ここで、お前を殺してやる。」
カーズがランドーに指をさすと、前方に魔法陣が展開する。
カ「覚えてるか?この魔法陣。前の決戦では外しちまったが、不死身のお前をぶっ殺すために長年かけて開発したとっておきの魔術砲陣だ。お前の残機を無効化し、一撃であの世に送る。その名も」
ラ「絶対死ね死ねビーム。・・・相変わらず、クソダサい名前だわ。」
カ「ほざけ勇者。母親を殺された俺の娘の怒りがこもった素晴らしい必殺技名だろうが。」
ラ「・・・ミレイちゃんがつけたの。きくわね、その精神攻撃・・・」
カ「死にたきゃ避けるな。首吊るより楽にあの世に送ってやる。そんときゃ妻によろしく伝えといてくれ。」
ラ「・・・私を殺して、その後どうするつもり?」
カ「言ったろ。世界征服だ。この世界の人間どもを一人残らず根絶やしにしてやる。」
ラ「・・・そう。」
カ「・・・覚悟はいいか?」
ラ「・・・いつでも。」まるで闘う意志がないように、剣を鞘に収め、両手を広げてみせる。
カ「・・・あばよ、ランドー。」

魔法陣から光線が放たれる。
光線はランドーの頬を掠めるも、紙一重で回避。
ランドーは聖剣を居合い抜きし、勢いそのまま聖剣を投げつける。
聖剣はカーズを逆袈裟で斬り込み、背骨を断つ。
カーズは血を吐き、膝から崩れ落ちる。

カ「・・・普通、勇者が聖剣を投げるかね・・・罰当たりなアマだ・・・」
ラ「・・・飛閃抜刀。・・・アンタが殺した師匠の秘術よ。」
カ「・・・ははは、あの偏屈ババアの考えそうな技だ。一瞬、本当に降伏したのかと思ったぜ。」
ラ「・・・それ以上しゃべらないで。傷がひらく。」
カ「やめろ。どうせこの傷じゃ助からない。・・・これでいいんだ。よくやった、ランドー。」
ラ「・・・ごめんなさい」
ランドーの胸ぐらを掴むカーズ。
カ「謝るな!俺を憎め!お前は死を拒み、この世界の人間を守るという道を選んだ。だから、これからお前はまた地獄を見るぜ。それが戦争というクソだ!そうだろ。」
カ「だから俺を憎め!いくら殺そうが、どんな罪を犯そうが、全部俺のせいにしちまえ!お前に「生きろ」と命じたのは俺だ。お前に「剣」を握らせたのも俺だ。だから全部全部俺のせいにして、楽になっちまえ。」
ラ「・・・・」
カ「・・・英雄ってのは、テメェの正義のために、罪を背負って生きられるやつだ。・・・中途半端な臆病者の俺にはその覚悟がなかった。・・・だから俺には、生きるのが地獄だった。・・・トドメをさしてくれ勇者。せめて魔王らしく、戦士らしく死なせてくれ。あいつらと同じように・・・」
ラ「・・・・」剣を構える。
カ「・・・ありがとう、朱音。・・・お前は英雄になれよ。この地獄を生き抜いて、お前の守るべきものを守り抜け。」
カ「・・・勇者らしく生きろ。・・・お前は、正義だ。」
涙を流しながら、カーズの心臓に聖剣を突き立てる。

ー ラスト ー

カーズの死体に外套をかける。
ラ「・・・ありがとう、優斗。先に地獄で待ってて・・・。」
背後から王国のワイバーン騎兵が襲いかかるが、ランドーは迷いなく騎兵を一刀両断する。
カーズの忘形見のグリフォンに乗り、冷酷な覚悟を決めた顔つきで、迫り来る王国軍の軍勢に突撃する。

あなたの貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!