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あなたの人生を豊かにしてくれた音楽はありますか?

ある日、タワーレコードオンラインのページにコレクションというボタンが追加されていることに気づいた。

タップしてみると、そこには「kawakoさんのNO MUSIC, NO LIFE./あなたのお気に入りの10枚を登録してみましょう!」と書いてあった。

私の「NO MUSIC, NO LIFE.」ってなんだ……?

大前提として、タワーレコードがコーポレートボイスとして掲げる「NO MUSIC, NO LIFE.」は、"音楽なしでは生きていけない"という意味ではない。"音楽があることで気持ちや生活が豊かになる"ということを表している言葉だ。

私の生活を豊かにしてくれる音楽……。

正直、日々の生活を豊かにしてくれる音楽を語ろうと思ったら10枚では足りない。そこで、私の「人生を豊かにした」アルバムに絞って考えてみた。すると絶対に外せないものは4枚しかないことに気づいた。今日はこの4枚の話をしよう。

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YUI / CAN'T BUY MY LOVE

私が初めて買ったアルバムだ。
たぶん中2になる前の春休み。2月生まれの私は、当時CDなんて1枚も買ったことがないのに、音楽ギフトカードをプレゼントにねだった。なぜなのか、今となってはわからない。
そんなわけで、当時の私も、もらったものの何を買ったらいいのかわからない状態に陥った。そんなときに、宇都宮駅の駅ビル5階にあった新星堂の入り口で目についたのが、このアルバムだったのだ。

当時はYUIの全盛期。au LISMOのCMに抜擢され、「CHE.E.RY」を歌うYUIが全国ネットで流れていた。
CDジャケットにはご覧の通りYUI本人が写っていて、「CHE.E.RY」を良い曲だと感じていた自分は「これにしよ!」くらいのテンションでこのアルバムを買ったんだと思う。

結果的に、これが私の音楽への入り口になった。

『CAN'T BUY MY LOVE』は、女性シンガーソングライター・YUIの2ndアルバム。今でこそ、アコギを抱えて歌う女性シンガーソングライターは珍しくなくなったが、YUIはその先駆け的存在だ。
小さな体にはそぐわない、大きなアコースティックギターをかき鳴らして、顔をしかめて歌うその姿は多くの人を魅了した。伸びやかで繊細な歌声は「天使の琴声」と評され、月9『不機嫌なジーン』の主題歌に抜擢された「Feel my soul」でデビューを果たす。
そんな鮮烈なデビューの2年後にリリースされたのが本作だ。

本作は、不穏なギターのメロディで始まる「How Crazy」で幕を開ける。
YUIの下積み時代の歌なのだろうか。ストリートライブの描写、心ない大人の声ーー。心の葛藤が、叫びが、歌となって紡がれている。
その後に続く「Rolling Star」は打って変わって、アップテンポのロックなナンバー。アニメ『BREACH』のOPテーマだ。
……と、このまま1曲1曲語っていくとキリがないのでこのへんにするが、曲並びの緩急に驚かされ、ちょっと年上のお姉さんであるYUIの等身大の歌詞に心動かされた私は、すっかりYUIの虜になった。
このアルバムをきっかけに、それまで「曲」しか意識していなかった音楽を、「アーティスト」を意識して聴くようになったのだ。

そして、私の中学時代はYUI一色になったのである。

BUMP OF CHICKEN / orbital period

「コンセプトアルバム」という言葉をご存知だろうか。

ある一定のテーマや物語に沿って構成されたアルバムのことをそう呼ぶらしい。(Wikipedia参照

本作は私に「コンセプトアルバム」という形態の魅力を教えてくれたアルバムだ。

中学生のときはBUMP OF CHICKENが嫌いだった。
なぜかというと、ドラマニというアーケードゲームにハマって音楽を語る男子が大抵好きだったバンドがBUMP OF CHICKENだったからだ。
それ以外の理由はない。今覚えば、ゲーセンで音ゲーを叩いて遊んでただけで音楽ができるようになった気分の彼らが嫌いだっただけで、BUMP OF CHICKENには何の罪もない。

そんな私がこのアルバムに出会ったのは高1のとき。時期は覚えていないが、部活を辞め、TOKYO FMのラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」の校長がやましげ校長からとーやま校長に変わるまで(SOL! はBUMPを好きになって聴くようになった)の間だから、2学期のはじめくらいだと思う。
「この学校の吹奏楽部に入りたい!」と高校を選んだ私は、憧れの吹奏楽部を4ヶ月で辞めて、やることがなく暇だった。辞めた理由は本筋とは異なるのでここでは語らないが、暇なので「音楽でも聴いてみるか」と思ったのだ。
そこで、YUI以外のアーティストを意識して聴いたことがなかった私は、なんとなく、みんなが良いというアーティストを片っ端から聴いてみることにした。
候補は、BUMPの他にミスチルなんかもあったが、地元のCDレンタルショップのJ-POPコーナーで眺めたところ、1番知ってる曲が多く入ってたのが、BUMP OF CHICKENの『orbital period』だったのである。

このアルバムには、Vo.藤原基央が書き下ろしたオリジナルストーリー「星の鳥」のブックレットが付いている。
そのストーリーを読みながらアルバムを聴くと、アルバムもそのストーリーに合わせて曲が並べられていることに気づく。
特に「voyager」と「flyby」という対になる2曲を最初と最後に添えられたことで、彼らがプロローグとエピローグの役割を果たし、グッと物語としての完成度を高めている。

こんなアルバムがあるのか……!と衝撃を覚え、そこからしばらくはずっと私の1番はBUMP OF CHICKENだった。

androp/anew

さてさて、私の知り合いの中で、「私といえば」で思い浮かべるアーティストにandropを挙げる人は結構多いと思う。

そんなandropとの出会いは彼らのデビューアルバム『anew』だ。

先述のSOL! で入り浸っていたBUMP掲示板(SOL! はリスナー同士がコミュニケーションを取れるネット掲示板がある)でおすすめされたことがきっかけだった。

当時andropはメンバーの情報を一切出さない、何ならバンドかもわからない謎のアーティストだった。そこには「ただ純粋に自分たちの音楽を聴いてほしい」という願いが込められていて、そのためにanewには歌詞カードも入っていない。

男性には珍しい透き通ったファルセット、きれいに折り重なるギターリフ、歌うようなベースライン、いったい腕が何本あるんだろうと思うドラムワーク……。

andropがなぜ好きなのかというのはずっと言語化できないと思っているのだが、このあとずっとしんどいときに私の隣にあるのは彼らの音楽だ。

このアルバムの話ではないが、彼らが昨年リリースした「Home」という曲がある。

そこで、andropの音楽は<帰る場所さ 休む場所さ/旅立つ場所さ また進み出す場所さ/いつでも君の場所なんだよ>と歌われる。

10年という歳月をかけて、私にとってandropの音楽は、まさにそういう存在になったなと、この曲を聴くと感慨深くなるものだ。

米津玄師/diorama

今まで聴いたアルバムの中で1番を決めろと言われたら、私は迷わずこれを選ぶ。

米津玄師のデビューアルバム『diorama』。

「ハチ」という名義でボカロPとして絶大な人気を誇った彼が、初めて本名名義、全曲本人歌唱というかたちで出したアルバムだ。

その名にふさわしく、米津玄師というたった1人の人間の中で作り上げられた、小さな街の中に落ちている様々な物語が詰め込まれた箱庭のような作品だ。

たった1人の世界で作り上げられた作品は、どこか歪で、どこか切ない。それでいて、緻密で崇高だ。その緻密さは、どこか狂気的だ。しかし、だからこそ美しい。

「孤高」という名がふさわしかった米津玄師の正真正銘、最高傑作である。

今年、最新アルバム『STRAY SHEEP』が発売された。毎回、彼の新しいアルバムを聴く度、米津玄師の新しい音楽に出会える幸せを噛みしめる。しかし、同時に、もう二度と『diorama』のようなアルバムには出会えないんだろうという諦念を抱く。なぜなら彼はもうひとりではないから。

『diorama』は「孤独」の中から生まれた、数奇なアルバムなのである。


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