避難訓練と防災教育
あちこちで、「避難訓練でパニックになる」という相談はお受けします。
大前提として、「避難訓練」というのは消防法上の取り扱いです。
その上で、「避難訓練」を学習指導要領上の「特別活動」の中の「防災教育」として学校現場等で行う場合について、それなりに根拠ある私見を述べます。
ちょっと難しく書いちゃうかもしれんけれど、命に関わることなので、他の記事よりもテンションがマジです。
というか!!書いてるうちにボルテージ上がってきて5000文字の長文になってしまったので、よっぽどの活字長文愛好家の方でなければ、
”特別活動の学習指導要領に答えあるやん”
の章と、
”防災のプロによる避難訓練・防災教育”
の章だけ読んでもらったらOKです。
それ、私見どころか、公的な答えです。乙、俺。
消防法で確認してみる
いきなり法律の話かよ!と。
大丈夫、僕も苦手です。存在が合法なのかさえ怪しい
一般的な常識として、「法律」というのは、憲法とか条例とか政令とかの「ルール強さランキング」でいえば、憲法に次いで2番目。
憲法は裁判結果とか法律とか、普通は個人で違反できないレベルなので、事実上法律が我々の「最強のルール」です。
で、探したのがこちら。
(ややこしいので引用は読み飛ばしOK)
実は僕は危険物取扱者乙種四類、通称”オツヨン”を持っていて、その試験の時にこの辺はとりあえず覚えた記憶があります(覚えているとは言っていない)
学校にももちろん消防法は適用されますから、防火管理者がいます。
その管理者への義務として、法律上で年2回以上の避難訓練の実施が義務付けられています。
これは学校に限らず、病院、工場、百貨店、マンションなどなど、火災がおきると被害が甚大になるであろう場所に定められています。と、いうことは・・・
デパートもイオンも病院も年に2回以上避難訓練をしている
と、いうことになります。
はてさて。年に2回もやっているのなら、
デパートやイオンで買い物をしていて、
「今日は避難訓練しますよー」
って経験をされた方がそこらじゅうにいるはずですよね。
マンションなら防災訓練やらは任意でありますが、
デパート全体、イオン全体で避難訓練?
病院に入院している人も避難訓練をしてるってこと?ベッドのまま?
そんなわけないですね。
つまりここでの「消火、通報及び避難の訓練」というのは、あくまでその施設の防火管理者や実際に消火、通報、避難の誘導を行う従業者等に向けたものだということです。
付け加えれば、避難訓練では非常ベルも鳴らさなくていいんです。
例えば、非常口や非常用階段への案内だとか、防火扉の取り扱いだとか。
それらが消防法として定められている訓練だと理解できます。
避難訓練の経験は一般的に「学校の避難訓練」が一番多いでしょうから、
「非常ベルが鳴って、放送があって、(校庭など)安全な場所に逃げる」
が多くの人にとっての「避難訓練」の定義になっているかと思います。
もちろんより現実の状況に近く訓練をすることもあるでしょうから、
一部のお客さんや患者さんなどに協力してもらって、その施設の避難訓練を行うケースは考えられます。
が!あくまで防火管理者の義務であり、お客さんや患者さんに義務はないのです。
マンション育ちですが、マンションの避難訓練は1ヶ月以上前から告知があります。そして30年以上マンションで暮らしましたが、避難訓練に参加したことはありません。
(阪神大震災の時のガチ避難は経験しましたが)
と、考えると当然、児童・生徒にもその義務はないわけです。
じゃあ児童・生徒は参加しなくていいのか?
結論からいえば、児童・生徒は避難訓練に参加しなくても法律上は良いわけです。
とて、実際に数十人〜数百人、下手すりゃ1000人規模の学校が火災等の災害に見舞われることを想定した場合、
児童・生徒ら自身を守る意味で、避難訓練に参加するに越したことはないことは明らかです。
また、学齢期にそういった経験をしておくことは卒業後も踏まえ、人生を通しての防災教育にもつながります。これも明らかです。
ですから、学校では消防法上の防火管理者の義務である避難訓練の機会をつかって、
児童・生徒にも協力してもらい、かつ、児童生徒らの教育活動にもつなげるという狙いはありますし、
事実、阪神大震災を境に、児童・生徒の防災意識・知識は飛躍的に高まりました。
東日本大震災以降はそれまでの火災・地震だけでなく、津波についても我々大人よりもうんと高い防災意識・知識が備わっているといえます。
これはとてもとても、とても素晴らしいことです。
繰り返しますが、しかし、消防法上に定められている避難訓練はそもそも防火管理者の義務なのです。
なのでこの訓練がうまくいかないということは、防火管理者が法律で定められている防災措置を行なっていない、ということになります。現実的に、この義務を果たしている施設がどれだけあるか、は、別として。
では防災教育という教育活動として避難訓練を見た場合、学習指導要領ではどう定められているのか、について。
学習指導要領?
学習指導要領というのは、ざっくりいえば学校(幼稚園を含む)ごとに、担任ごとに、
好き放題なことを指導されては困るので、
「この学年ではこういう事を身につけられるように指導しなはれや〜」という文部科学省が学校側に定めた基準です。
幼児・児童・生徒に対して「これ勉強しなはれ!」というものではないです。
(学習指導要領について、さらに細かく教科ごとに学習指導要領解説というものがありますが、ここでは一括して学習指導要領ってことにします。)
これがあるから、日本の大半の小学2年生が「九九」を学ぶようになっています。
学校教育上では、これを基準に教科書が作られ、年間計画が立てられ、いわば学校内では憲法レベルの扱いをされるものです。
校則はもちろんのこと、ここをはみ出すと軽くニュースには取り上げられるレベルで学校の場では強めのルールです。
しかしながら。学習指導要領は法律ではありません。あくまで学校教育法という法律に基づいて、「こんなふうに指導しなはれや〜」と文科省が定めたものでしかありません。
明確に「法」として定められた消防法の方が効力が強いといえます。このあたりの法的扱いは掘り下げるとめっちゃややこしい。体罰やイジメが刑事事件にならないとか、悲しいかな学校には治外法権的側面もなくはない。
教科はもちろん、学校生活のあらゆることについてこの基準は定められています。
防災教育については、避難訓練だけでなく教科活動の中でも防災教育を取り入れるように学習指導要領で定められています。
防災教育は今や教科の授業の中で、例えば社会科だと町の防災施設の在り方だとか、理科だと地震発生時の強靭な地質と脆弱な地質とか、「教科でも扱うんやで〜」と、指導要領にも書かれています。災害大国日本ですから。
いわゆる教科授業の他に、例えば学級会だとか、修学旅行、といった学校行事などは「特別活動」と呼ばれます。
教科の授業と同様に、年間何時間以上特別活動を行う、と、学校教育法という法律で決まっています。
避難訓練も、この特別活動に含まれると考えられます。
(考えられる、というのは、例えば国語の時間に30分だけ避難訓練をした場合は、国語としてカウントするのか特別活動としてカウントするのか、などなどの議論の余地があるってこと)
で、特別活動の指導要領もあるので、こちらで避難訓練についての記述がないか探してみました。今回は小学生の指導要領を見てみます。
特別活動の学習指導要領に答えあるやん
ありましたありました!どれどれ。
(引用読まんでもええで)
なるほど。いやはや、もっともです。槍玉にあがることも多いですが、指導要領ってやはり良く出来ています。
もう少し検索してみると、
うぉー!!ここに書いてあるやーん。もう言いたい事全部書いてあるやーん。
最初からこれでよかったやーん。もうこれ結論やーん。てか答えやーん。
模範解答やーん。
抜き打ちの避難訓練
もはや結論出ましたけど。もう。ね。
まぁ、書きますけど。
言いたかったことは「抜き打ちの避難訓練」についてなのです。
学校での抜き打ちの避難訓練の是非が問われることが多々あります。
学校では、しばしば、抜き打ちの避難訓練と称して、
事前に児童・生徒、場合によっては教員にさえ告知せずに避難訓練を行うことがあるそうです。
”消防法で確認してみる”
の章に書いた通り、法律で定められている訓練を抜き打ちで行うというのは、
例えばデパートやイオン、病院である日突然非常ベルがなり、
館内放送で
「訓練火災が発生しました。直ちに避難してください。」
と、流し、お客さんなり患者さんなりを一斉に避難させておいた上で、
「ジャジャーン。これは訓練でした!」
ということと、同じになります。
コンプライアンスどうのこうの、の次元ではありませんよね。
緊急地震速報などの音をスマホを使って故意に公衆の場で流すと犯罪になるってくらいですから、
いくら訓練とはいえ、犯罪レベルです。
トラウマになるレベル。民事でも刑事でもアウトでしょう。
あるいは、任意なので参加しなくてもいいよ〜というスタンスをとるしかありません。
百歩譲って、学校の消防法としての避難訓練は別に行なった上で、
消防法とは関係なく特別活動の防災教育の一環として「教育活動」の中で行う避難訓練だとします。
その場合、教育活動なわけですから、ただただいきなり抜き打ちで行うのでは教育的な意味はほとんどありません。持ち物検査さえ今はアウトなわけですからね。
習ってもいない内容を抜き打ちテストしてもしかたありませんから。
避難訓練だけではない相当の防災教育をしておいた上で、かつ、事前告知でのさまざまなパターン(授業中・休み時間・クラブ活動中・校外活動、登下校中etc…)の避難訓練を相当な数をこなし、避難に関してはいつ何時でも何の心配もないという質にまで仕上がった集団で、
「今後は予告なく避難訓練をするパターンもあります」
と、抜き打ちの避難訓練を行うのであれば、防災教育としての価値もあるだろうと、甘んじて受け入れます。ギリギリ。
さて。そこまで防災教育レベルの高い学校は日本にどれだけあるのでしょうか。
しかも、その中には避難訓練によってパニックになってしまう児童・生徒も含まれるとしたら・・・。
自閉症、知的障害、発達障害にかぎらず、
一度パニックになる経験をすると、その経験から、同じような場面(本当の非常ベルがなった時など)にパニックを誘発してしまうことすら十分にあります。
予告なしの避難訓練を行う学校・教員は、二言目には、
「災害はいつおこるかわからないから」
という言葉を使います。
けれどこれは教育の専門家集団としてはあまりにお粗末でしょう。
練習で上手くいかないもんが、本番で上手くいくわけがないんです。
音楽会や忌まわしき運動会さえ練習で何回やってもうまくいくようになって、ようやく本番でうまくいけば御の字です。
「これは訓練(練習)ですよ」
と告知し、(定型発達児含め)パニックにならないように適切な支援をした上での避難訓練を経験しておくと、
いざ実際に災害が起こり非常ベルが鳴った時にも、
「練習と同じようにしたらいい」わけです。
そして、逆また真なり。
そもそも、パニックになっている時点で、訓練として失敗です。
大失敗です。
その程度の避難訓練は消防法はおろか、教育活動としても、
全く価値がないどころか百害あって一利なしです。
というか、その学校(以下自粛)
避難訓練のプロが提案する避難訓練
最後になりましたが、
避難訓練、防災のプロといえば、やはり消防でしょう。
東京消防庁がこんなマニュアルを公開されています。
このリーフレットは特別支援学校・特別支援学級向けに作られていますが、
通常学級にも7〜8%の発達障害児がいると言われているわけですから、
小中学校の避難訓練においても非常に価値の高いものです。
また、こんなのも見つけました。
他にも東京消防庁は「電子学習室」といって、映像などで防災学習に非常に有益な情報を公開されています。(他の都道府県は調べきれていません)
ぜひこういったものを活用して、本当の意味で、
児童・生徒の身を守る避難訓練・防災教育が1日も早く当たり前になってほしいです。