日刊県民福井6月「池田暮らし きゅん便り」
日刊県民福井で、月1掲載している池田暮らしのエッセイをnote(web)で公開しています。今回は、6月2日に開催された「水海区運動会」で目撃したことについてかきかきしました。
池田町には集落がいくつあるかご存知だろうか?
実は、33集落から成っており、集落によって決まりごとや世帯数、自然条件などが異なるため、集落ごとの特色がしっかりある。ある人は「池田町は、33集落の合衆国だ」と言ったが、言い得て妙。ひとくちに「池田町に住んでいる」といっても、どの集落に住んでいるかによって、その暮らしぶりが変わるといっても過言ではない。中でも、「ディープ池田」ち呼ばれる集落がある。水海(みずうみ)集落だ。水海には、約100世帯が住んでおり、町内で1番大きい集落である。鎌倉時代から続いているという重要無形民俗文化財指定の伝統神事「田楽能舞」が行われたり、集落産業としてしめ縄作りやお米づくり、小水力発電にも取り組んでいる。歩んできた歴史の厚みと、集落が持つ生命力の総体が、 人に「ディープ池田」と言わせしめる。
そんな水海で、今月2日に運動会が開催された。そこで私は、とんでもない光景を目の当たりにした。体育館は老若男女でにぎわっており、小さな子どもが駆け回る姿もちらほら見える。それだけでも驚いたのだが、注目すべきは運動会の種目。なんと「縄ぬい」という種目があるのだ。縄ぬいとは、藁を両手で縒(よ)って縄をつくることをいう。池田のおばちゃん・おじちゃん世代は、大体縄ぬいができるそうだ。今でこそ縄は買うものだが、昔は藁を使って、生活に必要な縄を作っていた。4チームに分かれての対抗戦となって、時間内に作れた縄の長さを競う。四方八方から声援が飛ぶ。おじちゃんやおばちゃんが真剣に藁を縒っていく。どの人も慣れた手つきで縒っては、次の人へとバトンタッチ。この土地の生活に根を張った息の長い手仕事が、今もありありと活力を内包して、私の目の前にある。私は活気と技に圧倒され、感動のあまり泣きそうになった。
今年で43回目を迎えた水海区運動会。運動会が始まった当初の池田町の人口は4500人ほどだったが、現在は約2200人へと減少している。それでもなお、運動会は続いている。集落民の中には、この日を楽しみにしている人もいて、当日の早い時間からわらわらと集まるそうだ。縄ぬいに続く種目の綱引きでは、大人が本気で引っ張り合い、勝負がつくと豪快に転んで、わははと笑う。「地方消滅」が叫ばれてから久しいが、こんな光景を見ているとそんな言葉が信じられなくなる。
運動会が終わった後は、みんなでバーベキューをするのが恒例だという。私も交ぜてもらい、縄ぬいのこと、しめ縄のこと、水海集落の元気さなど、たくさんおしゃべりをした。とっても楽しかった。コミュニティーの生命力の根源が垣間見えた気がした。帰り道、私はこの町の暮らしや生きる力を残すために、聞き書きを始めようと決めた。