日刊県民福井4月「池田暮らし きゅん便り」

日刊県民福井で、月1掲載している池田暮らしのエッセイをnote(web)で公開しています。今回は、4月に綴った「はじめまして」と「春の山とばあちゃん」についてです。


 嶺北の丹南地域に位置する池田町。町の9割が森で、人口は約2200人。私は池田町にほれ込んで、2022年4月に出身地の千葉県を出て池田暮らしを始めた。現在、暮らし始めて3年目になる私は、町内の手伝いとライターをしながら飯を食っている。毎日が濃ゆい。

 きっかけは、大学4年生の時。ゼミで、たまたま池田町を訪れた。その頃私は地方に関心があって、国内の田舎と呼ばれる地域を10ヶ所ほど訪れていたが、中でも池田町は、風景、人、食など全てが特段魅力的だった。直感で「絶対ここに住みたい」と思った。大学院に進んだ私は東京で2年間、池田町に片思いするのだが、卒業後は池田へ行くと決めていた。都市で就職するよりも何よりも、池田暮らしがしたかった。

 正直に言おう。私はここへ来たことを、全く後悔していない。むしろ、過ごす時間が増えれば増えるほど、この道を選んで良かったと心底思う。これから1年間続く「池田暮らし きゅん便り」は、四季折々の池田暮らしの宝を綴るお便りにしたい。福井県の山奥に力強く息づく「生きること」の片鱗を、みなさまと共有できたらこの上ない幸せだ。


 寒さで力んだ肩甲骨が、ふっと緩まる時。春の訪れを想う。大きく伸びをして、ゆっくり深呼吸。ふつふつと嬉しさが湧く。福井の冬は雪深い。だからこそ、春の訪れが喜びとなって全身に沁み渡ってゆく。気づけば、薹が立ち、水仙が咲き、つくしがひょっこり。そして、山菜が始まる。

 私は池田のばあちゃんと山へ行くのが大好きだ。数日前も、ばあちゃんとこごみ取りへ。道中、ばあちゃんはカタクリの花を見つけて、こんなことを教えてくれた。
「根っこは片栗粉。葉っぱは味噌汁に入れるとワカメみたいになるの。ここらはワカメがないで、そうやって食べたの」
海のない地域だからこそ、山のものをいかに活用するか。切実な必要性の中で、池田の人は私の想像も及ばないほど山へ入り、古くから山と共に生きてきたのだと思う。

 スーパーでワカメがすぐ手に入る時代、そんな知識は必要ないと思うかもしれない。けれども、災害やパンデミックを経験した私たちが、お金を出して何かを得る以外の選択肢を知っているということ。そのこと自体が、生きることのレジリエンスを高めるのではないだろうか。

 まず、山の自然の恵みがあって、それらを活かす知恵や技があるから、食べて生き延びることができるということ。ばあちゃんは、山を出る時必ず「山さん、ありがとう」と言う。私はその一言に、人間と自然のあるべき慎ましい関係性を垣間見る。山を歩きながらばあちゃんは時折ふと「山はいいのぅ」と天を仰いで、言葉を放つ。どんなに膝が痛くとも、心の活力がみなぎって溢れるばあちゃんの言葉は、いつだって本物だ。


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