足跡を辿る②
久しぶりに通る道は、その姿をすっかり変えていた。
小さな電気屋さんがあった場所にはアパートが建ち、竹藪は住宅街になり、スーパーは駐車場になっていた。
折からの雨もあり、通りすぎる風景は新しいのに灰色がかって見える。
若干のモヤモヤを胸に留めたまま、ウインカーを出した。
元実家のあった場所には、立派な二世帯住宅が建っていた。
対照的に、斜向かいにある彼の家は、当時と何も変わらない。
この地区も、段々と世代交代が進んでいるのだろう。
坂の上から見下ろすと、古い家屋を取り壊して建てたであろう真新しい家がちぐはぐに建っていた。
おっちゃんの家の前で、おっちゃんが雨の中植木の手入れをしているのが見えた。
窓を開けると、私に気付かなかったおっちゃんは笑顔で会釈してきた。
「おっちゃん、わかだよ!」
短い沈黙の後、
「わか!?わかか!よう来たやないかはよう上がれ!」
と、おっちゃんはバタバタ家に入っておばちゃんを呼んだ。
訳もわからず緊張気味の娘と家に上がる。
おっちゃんの趣味であるDIYで作られた雑貨と熱帯魚の大きな水槽が相変わらず鎮座していて、懐かしい匂いが鼻をくすぐった。
「久しぶりやなぁ、元気しちょんの?」
おばちゃんがコーヒーを出してくれたが、最近病気がちらしくあまり顔色がよくない。
彼の言う通り、二人ともすっかりお年寄りになっていて正直動揺した。
私の仕事の話、娘の話、一通り近況報告をしながらコーヒーを啜る。
おてんば娘は私の隣でずっとモジモジしている。
「賢そう」「大人しいなぁ」と言われる度、心の中で「どこがやねん」とツッコミを入れた。
父の件さえなければ、こんな久しぶりに会うような事態にはならなかったし、普通の親戚付き合いもできていただろう。
いや、父の件など気にせず、私が会いに行けばよかっただけの話なのかもしれない。
おっちゃんの口から、下の弟がちょくちょく仕事帰りに寄っていたという話を聞かされた。
初耳だった。
「なんだかんだ、こっちのこともあいつは気にかけてくれちょったんやわぁ」
と、おっちゃんが嬉しそうに話す。
弟のコミュ力の高さが心底羨ましいと思った。
一時間ほどお邪魔して、娘の退屈がピークに達したのでおいとますることにした。
「また来いよ」と言って、おっちゃんとおばちゃんは見送ってくれた。
もっと早く来ればよかったな、と後悔に苛まれつつも、どこかすっきりした気持ちでもあった。
子どもの頃駆け回った辺りを、ぐるぐるとドライブして帰った。
通っていた小学校の前を通り、友達の家の近くを通り、よく遊んだ公園の前を通り、一人で懐かしい懐かしいと連発して娘を辟易とさせてしまった。
どうしてだろう、短大以降の記憶はあまり思い出せないのに、小学生の頃の記憶は鮮やかに甦る。
恐らく、あの頃が何にも煩わされず、ただ純粋に楽しく過ごせていたからなのだろう。
その分母は、色々なことに振り回されて苦悩していたのであろうが…。
過去を振り返らないのもいいし、たまには振り返ってみてもいいのかもしれない。
こうしている瞬間も、過去を紡いでいるのだから。
↑これ、娘が見たら「ちょっと何言ってるかわかんない」って言われるな…
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