- 運営しているクリエイター
#短編小説
「たきび」(新潮文庫『ふなうた』所収)三浦哲郎著 :図書館司書の短編小説紹介
竈の火。囲炉裏の火。仏壇の火。盆の迎え火。野焼きの火。そして、不謹慎ながら、盛大に燃える火事までが好きだったと言う男性。
わかる気がする。私も、火の揺らめきを見るのが好きだった。どんな火でもよかった。
ろうそくの火でも、ライターの火でも、花火の火でも。
本文にも書かれているように、「人間は誰でも火が好き」なのだろうと思う。
気を抜いて扱うと、危険と紙一重の特性を持ちながら、形を一
「夏のアルバム」(講談社文庫『随筆集春の夜航』所収)三浦哲郎著 :図書館司書の短編小説紹介
本作は短編小説ではなく随筆なので、短編小説案内としては番外編となるのだけれど、一読してふと思い出されることがあった。
この小文の中で著者は、幼い時に祖母が亡くなった折、棺桶の中に向かって笑顔を送った、と書いている。
こちらが笑い掛ければ、白い花の中の祖母も目を覚ますだろうと考えたのだ。
幼さのために時宜を得ず、場違いな行動をとってしまったことは、おそらく誰にも経験があると思う。
そし
「ランゲルハンス島の午後」村上春樹著(新潮文庫『ランゲルハンス島の午後』所収):図書館司書の短編小説紹介
ダッフルコートにしろ、革ベルトの腕時計にしろ、リュックサックにしろ、かれこれ十五年以上は同じものを使い続けている。
元々それらに格別な思い入れはなかった。その時々で、「あ、これいいな」と思ったものを、価格以外はそこまで念入りに調べることなく財布をはたいて手に入れてきた。
布がほつれたり、型が古くなったり、壊れたりしたら、仕方なく買い替えることになるのだろう、と思いながら。
けれど、数少ない