夜の室戸岬 夏の新潟沖
中学生の頃だったろうか、、、
先生が出した宿題は天気図を作ることだった。
NHKの短波放送で気象通報を聞いて、各地の気圧をプロットし、それを線で繋げて天気図を作るのだ。
夏の夜、1人で机に向かってラジオを聞く。
NHKの男性アナウンサーが淡々と読み上げる各地の気圧や風力。
室戸岬、南南西の風 風力5 雨 26ミリバール、、、、
行ったことも見たことも無い室戸岬の風景が浮かんでくる。
真っ暗な海に突き出した岬に雨が降っている。
なんだかその場に居る様な気がしてきて、心細い気持ちになってくる。
真っ暗な岬の高台から黒い海を見つめてみる。
誰もいない山肌に雨が静かに降っている。
砕ける波の音も聞こえてくる。
中学生の想像力は、500キロ彼方の風景を頭の中いっぱいに広げるのだった。
それから20年後、自分はダイバーの仕事をしていた。
殆どは工事の仕事なのだけれど、たまに海洋調査の仕事も入って来る。
チャーターした小さい漁船に乗って沖に出る。
そして、記録を取る。
天候 晴れ、雲量3 気温23度、、、、と声を出しながらノートに書いていく。
「あ、前線がはっきり見える」の声に目を上げて沖を見ると、
雲がモクモクと立ち上がって、長い壁を作っているのが見えた。
あー、あれが前線かー。
低気圧と高気圧の境界線。
雲が斜めに反り上がってその姿を見せている。
眺めていると、濃い空気と薄い空気がせめぎ合って斜めに入り混じっている風景が頭の中に広がった。
高気圧が低気圧の下の方に潜り込んで斜めの境目を作っている。
その境目に沿って、雲がモクモクと湧き上がっている。
飛行機であそこに行ったらどんな風景なんだろう。
想像の中でそこへ行ってみると、遠くから見ていたよりずっと雲は薄く霧のようになっていて、どこが境目なのか見ることは出来ないのだった。
空はでっかいなあ、、、
台風のシーズン、気象情報で室戸岬とか足摺岬という地名を聞くと、あの頃の事をふっと思い出すのだった。
気象通報 19921130 18時(ミリバール最後の気象通報)
https://youtu.be/ban66z0gavk?t=86