見出し画像

各社の還元率比較 ~ 年収だけでは計れない見極めポイント ~

単価評価制度――お客様から頂く単価によってエンジニアの待遇を決めている会社が年々増加しています。

『どの新SES企業に入社するかによって、100万円以上の年収差が出る』といった噂もありますが……はたしてそれは本当なのでしょうか?

単価評価制度を導入しているSES企業やエンジニア派遣企業の情報を数百社以上研究している私が、その噂の真相についてお答えいたします。


6社を比較することで見えるもの

ITエンジニアに対する待遇を調査するにあたり数社をピックアップし、その企業情報を調べてみることにしましょう。

調査方法と調査対象の基準

一口に『企業情報を調査する』といっても手法はさまざまです。例えば下記のような方法が考えられます。

  1. 各社が社外に出しているさまざまな情報から調べる
    (求人広告、HP、ブログ etc……)

  2. 内部情報を知る社員などにインタビューする

  3. 決算書(PL/BS)の数値から調べる

これらの方法の中から、もっとも客観的で現実に即した結果が得られる可能性が高いと考えられる『3』の方法で調査を進めることにします。

ただ闇雲に調べても有益な情報は得られませんので、今回は下記の条件に該当する企業を6社ピックアップして調査を進めることにします。

  • 単価評価制度を導入している企業であること

  • エンジニア派遣会社 または 新SES企業であること

  • 社員数が200名を超えている企業であること

エンジニア人件費率の比較

それでは決算書(PL/BS)をもとに、各社のエンジニア人件費率(※)を比較してみましょう。

※この記事では『給与』、『社会保険料』、『交通費』、『福利厚生費』を含めたものを『エンジニア人件費』と定めます

表1:エンジニア派遣会社&新SES企業6社の比較
(エンジニア人件費率)

この表を見ると『A社』のエンジニア人件費率が突出して高くなっています。

例えば『A社』と『C社』と比較してみると、両者の差は「約4%」

その『約4%』分、『A社』のほうがエンジニアに多く還元していることが分かります。

年収の比較

この『約4%』の違いは、年収にどの程度の影響を及ぼすのでしょうか?

下記の式でその年収差を算出することができます。

単価 × パーセンテージ × 12ヶ月 = 年収差 

参考までに、『単価60万円』のITエンジニアの場合で計算してみると……。『4%の差』が及ぼす影響は『28.8万円/年』ということが分かります。

60万円 × 4% × 12ヶ月 = 28.8万円

『A社』は『C社』と比べて約30万円ほど――月収換算にして2.4万円ほどの差となります。

こうしてみると、思ったほど大きな差ではありませんね。

年収の違いが及ぼす影響

他社よりも『月収2.4万円』ほど高い状態を実現している『A社』ですが、その実現のためにさまざまな保証を薄くしているようです。

わかりやすいところで言えば、『待機時の月収』に大きな違いがありました。

表2:エンジニア派遣会社&新SES企業6社の比較
(エンジニア人件費率、待機時の月収)

新SES企業であるC社~F社の4社は『待機時でも月収は変わらないが、賞与額が下がる』という制度を導入していました。

一方、他社よりもエンジニアに多く還元している『A社』は、『月収が4割にダウン(有期雇用契約の場合は『0円』)』という制度のようです。

あなたが『月収40万円』のエンジニアだったとしましょう。

もし『A社』で1ヶ月間の待機状態となった場合、あなたの月収は『16万円』となります。
有期雇用契約なら『月収0円』です)

ちなみにこの『A社』、毎月10~15名ほど待機者がいらっしゃるようですので……。

月収が4割にダウンしてしまっているエンジニアも、毎月10~15名いらっしゃるということになります。

『A社』は他社よりも年収が約30万円ほど高い分、待機時に月収が大幅に下がるリスクがある――そう考えると、求職者の判断は分かれそうですね。

財務状況の差

最後に『月商(※)に対する内部留保』という観点で、各社の財務状況の安定性を比較してみましょう。

※『月商 = 売上高 ÷ 12ヶ月』で算出した金額

『財務の安定性』を比較する上で、『純資産 ÷ 月商』で算出される数字は良い指標となります。

あくまでも1つの目安ではありますが、私としては『SESという業態の場合、月商1.0ヶ月分を下回ってるようなら健全な財務状況とはいえない』と考えています。

表3:エンジニア派遣会社&新SES企業6社の比較
(エンジニア人件費率、待機時の月収、財務の安定性)

『A社』と『B社』は『月商1.0ヶ月分』という基準を下回っていますから、この2社の財務状況には注意が必要です。

財務状況が不健全な状態では、リーマンショック級の不景気がきたときに社員を守ることができません。

不景気の際、待機になるエンジニアを切り捨てるような施策を打たざるを得なくなるかもしれません。

反面、新SES企業のC社~F社は財務状況が健全な状態のようですので、もし不景気が来たとしても『社員を守る』施策を打つことができます。

各社の違い(まとめ)

これまでの結果を振り返ってみましょう。

  • A社 および B社

    • 稼働しているうちは、他社よりも年収が高い

    • 待機時や不測の事態への備えがあまりなく、財務状況の安定性に不安

  • C社~F社

    • A社やB社と比較すれば、多少年収が低くなる

    • 待機時や不測の事態への備えがあり、安定性がある

なお、新SES企業であるC社~F社の4社は会社ホームページに決算書を公開しており、その情報に基づいて調査を行いました。

エンジニア派遣A社と新SES企業B社については決算書が非公開となっているため、独自に入手した情報を基に今回の調査を行いました。

還元率だけでは計れない

今回の調査結果からは、

  • 各社の差は大して大きくない

  • 方針の違いによって待遇の違いが多少ある

という2点が言えるかと思います。

もしあなたが従来型のSES企業にお勤めなら、今回ピックアップしたA~F社の6社のどこに転職しても『年収100万円以上アップ』は実現可能です。

そういう意味で見れば、この6社はどの会社も『良い会社』といえます。

しかし、それ以外の部分――例えば待機時や不景気の時などにおける考え方/スタンスには大きな違いが見られます。

他社よりも年収は大きくアップすることが期待できるが、待機時や営業日数が少ない月は月収が大きくダウンするリスクがある企業。

年収のアップ率は多少下がるが、待機時の保証や下限保証制度などの安心して働ける施策が整っている企業。

『不景気が来たときにどうなるか分からない不安を抱えるとしても、年収が少しでも高いほうが良い』と考えるなら、前者のスタンスを取る企業を選んだ方が良いでしょう。

エージェントグローは後者のスタンス――『年収をとにかく高くする』のではなく、『待機時の保証』や『下限保証』などを導入し、『従業員が安心して高待遇を受けられる環境を用意するのが最善』と考えている企業です。

どちらのスタンスが良いのかは求職者が決めることです。

とにかく『還元率が一番高いところ』と考えるのではなく、自分の考え方にマッチした企業を選ぶことをおすすめいたします。

そうすれば、必ずや良い転職ができることでしょう。