最後のボトルメール

最後のボトルメール

サクッと2分で読めるショートショート小説です!

テーマ「片想い×遠距離×島」

 海に来ると、毎年彼女と遊びに来ては、ふざけ合って、びしょびしょになって、母親に怒られたことを思い出す。暗い時間に、通学路だった神社前の道を通るとき、彼女が足早になる姿がなんとも可愛かった。島で生まれ育った僕たちは、幼い頃から何をするにも一緒だった。僕の見ている世界は狭い。そう分かっていても、僕はいつの間にか、彼女のことが好きだった。
 中学を卒業して、彼女は本島の高校に行くことになった。僕は、家業を手伝うために島に残った。いつも僕の胸の中には後悔がいっぱいだ。彼女と同じ高校へ進めばよかったと。彼女に想いを伝えておけばよかったと。
「どうせ、私がいなくなったら寂しいんでしょ~!ちゃんと、向こうに行っても連絡するから!」
「そんなに寂しくないよ。仕事忙しいし。向こうに行ったら、僕のこと考える暇なんてないよ。ていうか、お前は自分のことを考えろ。」
「ふふ~ん。へぇ~。」
「なんだよ。」
「ふふっ、ありがとう!」
最後の精一杯の彼女への言葉がコレだなんて、自分でも呆れる。なんにも出来ない意気地なしだ。そして、彼女が島から離れた後、約束通り、何度か連絡が来た。
―一人暮らし!初めての夜!ドキドキ……(笑―
―制服かわいいでしょ~。どう?羨ましい?―
―吹奏楽部入ったよ~!クラリネットとフルートどっちがいいと思う?―
―GWは、みんなでカラオケに行くんだ~!―
―久しぶり!友達と、夏休み海行きたいねって話が出て、島のこと思い出したから連絡してみた!―
日に日に彼女からの連絡は少なくなっていった。でもそれは、彼女が向こうの環境に慣れてきたという証でもあった。
 僕は海辺を歩いていた。ここに来るとどうしてだか、彼女に会える気がした。記憶の中の彼女の背中を目の前に映しては、胸が締め付けられて涙が出そうになる。僕が会いに行けばいいだけの話だと思うだろう。でも、会いに行っても、今更彼女との距離は縮まないのだ。だからせめて、今日は僕の小さな心で悪あがきをしようと、紙とペンと、それからビンを持った。これで、終わりだ。僕の心を紙に書き写して、ビンにその想いを詰めよう。そして、その想いを海に溶かそう。
 僕はそう決意をして、想いの詰まったビンを、どうか届いてしまいませんようにと思いながら、海へと送った。

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