類体論 ――『代数的整数論』(河田敬義)の補足
類体論の証明本、『代数的整数論』(河田敬義)の分かりにくいところなどを補足していこうと思います。
今回は5章の定理5・1の証明(p71~72)です。
分かりにくいのは次の命題です。
*****
K/kを有限次ガロア拡大,そのガロア群をGとおく。
[K:k]=n(≧2)とすると
① K=ω1・k⊕ω2・k⊕……⊕ωn・k (ωi∈K)
となるような {ωi} がとれる。その上で、
n次正方行列A=(Aiτ)をAiτ=τ(ωi) (τ∈G)により定義する。
このとき、det A ≠0となる。
*****
K=k(θ)とおくと
K=k⊕ (θ・k)⊕( θ^2・k)⊕ …… ⊕( θ^(n-1)・k)
と表されるので、ωiとして
② ωi=θ^(i-1)
がとれます。
このとき、AはVandermonde の行列式となり、その値は
③ ±Π(σθ-τθ) (σ,τ∈G,σ≠τについての積。σθ-τθとτθ-σθは一方だけを掛ける)
となります。
④ σθ≠τθ (σ≠τ) (証明は後述)
なので③の値は0にはなりません。
よってdet A ≠0となります。
{ωi}として別の基底をとった場合は②の場合との変換行列をPとすると det Aは det P 倍になりますが、Pが正則行列であることから det P ≠0。
よってやはり det A ≠0となります。
④の証明
一般に、Kの元 α はθを用いたk係数多項式で表されます。すなわち、
⑤ α=a0+a1・θ+a2・θ^2+a3・θ^3+・・・ (ai∈k,0≦ i ≦n-1)
仮に σθ=τθ ならば σ(θ^i)=τ(θ^i)であり、また σ,τ ともにkの元は動かさないので
⑥ σα=τα
Kの任意の元 α について⑥が成り立つので、σ=τとなります。
従って σ≠τ ならば④が成り立つことが示されました。
以上により、目的の命題が証明されました。
次回は 5・1・2 節に移ります。