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【自然環境部会コラム】自然を訪ねて(5)伊佐沼で子孫をつなぐキタミソウ
伊佐沼でキタミソウを見たいと思ったら座椅子の持参をお勧めします。小さな小さな生物を見るには腰を曲げ、頭を下げて地面に顔を摺り寄せなければその姿は見えません。一息いれながらゆっくりと落ち着いて観察しましょう。
寒帯性のキタミソウは真夏の地上は苦手です。種子の姿で冷房の効いた沼底で仮眠中のはずです。4年前の2018年11月11日に伊佐沼の定例の野鳥観察会のときに偶然に発見されました。誰もがいつも通る木道のそばでした。ず〜っと以前からそこで生きていたのです。キタミソウについては月刊かわごえ環境ネット2021年11月号(No.181)「川越の自然をたずねて」及び本会発行の「新訂版 川越の自然」等でも紹介されていますのでここでは詳細は省きますが、実のところその生態については調査が始まったばかりで詳しいことはわかっていません。
キタミソウが見られるのは10月末から翌年3月末の間です。伊佐沼の形は周囲約2.5km、南北に長い長方形、満水期は4月から9月中旬。水の管理は荒川右岸改良区できちんと行われていますので、見方を変えればキタミソウはそのおかげで長い歳月を平穏に生きてこられたことになります。そしてなお、今後も安全な農業用水の管理下で生きていくことになります。
キタミソウは水際でよく目立ち繁茂しています。そして毎期とも花を咲かせる時期が2回ほど訪れます。最初が10月(①)で次が翌年の3月ごろになります。本年も最初はもちろんですが、3月に2回目の繁茂期を迎え白い花が咲きました。そこには発芽直後の10mmぐらいの細い糸状の葉を持った幼体と、成長して果実を付けた大人になったキタミソウ(②)が群落をなしていました 。一方では、水はないが湿地の土壌にも2回目の果実を付けた群落がありました(③)。
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そして4月5日、すでに伊佐沼に取水が始まっており間もなく満水を迎えようとしていました。キタミソウは水没し姿を見ることはできませんでした。水底の説明を付け加えれば、沈んだキタミソウのそばには1回目で結実したが2回目の発芽には進まず残った「種子1」と2回目の発芽に進み見事結実した「種子2」の両者が混在して眠りについたと考えられます。
水かさが増えつつある水面には浮遊したごみが集まり始め、その中には細いキタミソウの赤ちゃんたちが多数紛れ込んで浮いていました(④)。発芽したばかりキタミソウは根が浅く、流れ込んで来る水の浮力で持ち上げられ流されたのでしょう。その中に果実を付けた固体も混じっていました。
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以上述べたように、成長を重ねたキタミソウ群団は、冠水した伊佐沼の底に眠っています。次期となる今年の10月には、両方の種子「種子1」「種子2」に関係なく同時に発芽し、再び白い花を輝かせてくれることを待ちわびています。
(稗島英憲)