【俳句小説】抜け殻からサナギ
抜け殻に魂灯す数え日よ
「ありがとう」と、あの日わたしは幸せを受け取った。
「おめでとう」の拍手降り注ぐ祝いの席で、人生で最高の瞬間。
そのときわたしは妊娠6か月で、子育てをしたいという理由で円満退職したのだった。
妊婦健診も順調だったし、胎動もはじまっていた8か月の年末に異変は起こった。
「なにか身体の中で問題が起こっている」という虫の知らせのような感覚だった。
実家の母へ電話して「なにかおかしいんだよ、なんだろう、大丈夫かな」と伝えると、「そんなの、よくあること。大丈夫よ」と笑いながら言われたのだった。
それでも安心したかったので、12月30日に病院で検査をしたら、その予感は的中してしまった。
「今は原因がわかりませんが、亡くなっています」と言うことだった。
うそ、、、
あたまが真っ白になるというのはこういうことなのか。
さらに先生は「胎内で亡くなっているので、急いで出してあげないと母体に良くない」と、言われるままに入院することになった。
お別れもできないまま、亡くなってしまっていた。最後の日にせめて抱きしめてあげたかった。
幸せを受け取り損ねたわたし。抜け殻のまま生きていた。