地方におけるインバウンド誘客の費用対効果について考えてみる
コロナ禍において、訪日外国人旅行者数はほぼゼロとなっており、インバウンド業界においてその影響は甚大なものとなっています。
一方、旅行消費額全体でいえば、27.9兆円のうちインバウンド旅行消費額は4.8兆円(17.2%)であり、またアウトバウンドの旅行消費額が国内に向けられる可能性を考えると、国内旅行の機運さえ盛り上がれば、インバウンド減のダメージを小さくしていくことはできそうです。
自治体の観光予算について、インバウンド誘客予算を国内向けに振り替える動きがある中、地方におけるインバウンド誘客の費用対効果について考えてみました。
定住人口1人当たり換算データ
インバウンド誘客の重要性について語られる時、必ずといって良いほど用いられるのが次のデータ。
定住人口の減少を交流人口でカバーする場合、定住人口1人当たりの年間消費額は、旅行者の消費に換算すると外国人旅行者8人分、国内旅行者の宿泊客25人分、国内日帰り旅行者81人分に相当する、というデータですね。
※中部運輸局資料:訪日外国人旅行者の動向について
人口減少が進んでいく中、地域経済の縮小を防ぐためにはインバウンド誘客に力をいれるべきだ、という根拠に使われる数字です。
上記データは平成29年のものなので、最新の令和元年(2019年)のデータで確認してみましょう。
令和元年総務省人口推計によると、日本の定住人口は1億2,616万7千人です。
また、令和元年家計調査年報によると、1世帯当たりの消費支出は月平均で249,704円。つまり1年間では2,996,448円となります。
これを世帯平均人員の2.30人で割ると、定住人口一人当たりの年間消費額は1,302,803円となります。
〇定住人口1人当たりの年間消費額:1,302,803円(2019年)
次に、訪日外国人旅行者のデータです。
観光庁が公表している2019年訪日外国人消費動向調査によると、訪日外国人旅行消費額は、4兆8,135億円。
また、同調査によると、訪日外国人旅行者一人当たりの旅行消費額は、158,531円とのことです。
〇訪日外国人旅行者一人当たりの旅行消費額:158,531円(2019年)
続いて、国内旅行の消費額データを確認してみます。
観光庁が公表している2019年旅行・観光消費動向調査によると、日本人国内宿泊旅行消費額は17兆1,560億円、同日帰り旅行消費額は4兆7,752億円でした。
同調査より、日本人国内延べ宿泊旅行者数は3億1,162万人、同日帰り旅行者数は2億7,548万人なので、それぞれの旅行消費額を割ると、日本人国内宿泊旅行の1人1回当たり旅行単価は55,054円、同日帰り旅行の1人1回当たり旅行単価は17,334円となります。
〇日本人国内宿泊旅行の1人1回当たり旅行単価:55,054円(2019年)
〇日本人国内日帰り旅行の1人1回当たり旅行単価:17,334円(2019年)
定住人口1人当たりの年間消費額を、それぞれの旅行消費額で割ると、次のような数字となります。
・訪日外国人旅行者:8人分(8.2人分)
・国内宿泊旅行者:24人分(23.7人分)
・国内日帰り旅行者:75人分(75.2人分)
平成29年のデータと比べ、大きく変化していないことが分かりました。
1泊当たりの数字でみると、実は同じ。
ここで注意したいのが、上記の数字は「1泊当たりの数字ではない」ということです。
訪日外国人旅行者の場合、平均泊数は8.8泊です。単純計算すると、1泊当たり17,156円。
一方、国内宿泊旅行者の場合、平均泊数は2.26泊なので、1泊当たり24,360円となり、訪日外国人旅行者よりも高くなるんです。
この数字(1人泊)で、定住人口1人当たりの年間消費額換算を再度計算すると、次のようになります。
・訪日外国人旅行者:76人分(75.9人分)
・国内宿泊旅行者:54人分(53.5人分)
・国内日帰り旅行者:75人分(75.2人分)
北海道、東京、京都、沖縄といった長期滞在が想定されるエリア以外の、いわゆる地方においては、外国人旅行者が泊まるのはせいぜい1泊か2泊。
であれば、地方の人口減少にともなう地域消費減額分を旅行者で穴埋めするのであれば、外国人でも日本人でも変わらない、ということです。
って、普通に考えれば当たり前の話ですよね。
日本人であっても外国人であっても、同じホテルで1泊するだけなら消費額に大差ないだろうし、ゲストハウスに泊まる外国人バックパッカーよりもリゾートホテルに泊まる日本人の方が消費額が高い、というパターンもあるわけです。
※訪日外国人旅行者データについて、「旅行前支出」と「旅行中支出」を合算した「旅行総支出」は1人当たり221,477円であり、平均泊数で割ると25,042円になりますが、日本国内における旅行消費額(旅行中支出+パッケージツアー参加費の国内支出分)としては、前述した158,531円となります。
日本全体では、インバウンド誘客は必須
もちろん、日本全体でみた時にはインバウンド誘客に力を入れるべきです。
セントラルフロリダ大学の原先生が、「インバウンドは外貨獲得なので、国富増大につながる輸出産業」と言われるとおり、日本が衰退していかないためにはインバウンド誘客は必須の取組です。
なので、観光庁の施策がインバウンド事業ばかりになるのは当然のことと言えます。
国内での富の移転である国内観光と外貨により国富が増大するインバウンドは経済効果が決定的に異なる。
政府や自治体がインバウンドを振興する真の目的は、外貨収入を得て、その国や地域に住む人たちの生活水準の質の維持または向上を実現するため。
なお、原先生はnoteにて次のようにも書かれています。
地方で旅館・ホテルを経営されている方からすると、例えば一泊1万円を消費してくれる客が来てくれたら、それが日本人だろうと外国人だろうと同じと感じられるでしょう。管理会計上は同じです。
しかし、その地方、例えば東京や大阪から高知県、山形県、島根県に日本国内の富が移転したのと、世界から高知県、山形県、島根県と同時に日本国に富が移転した経済効果は国家レベルで見たら決定的な差がある訳です。
ちなみに、この原先生のnoteは必読です!
数字に踊らされずに考えることが大事
上述した通り、一人一泊当たりの旅行消費額で考えれば日本人も訪日外国人旅行者も変わりありません。
一方、プロモーションにかかる費用は、一般的に海外向けの方が高くなることを考えると、地方においては国内向けプロモーションの方が費用対効果は高い、といえるかもしれません。
ただし、間違いなく国内市場は縮小していきます。
一方、インバウンド市場の伸びしろは大きく、観光庁やJNTOがインバウンド誘客に力を入れていく中、地方においてインバウンド対応をしていかなければ取り残される可能性も大きいと思われます。
そうやって考えてみると、地方においては、DMOが中心となってブランディングに地道に取り組み、ブランドやライフスタイルに沿ったコンテンツを造ることに注力すべき、ということのような気がします。
正解なんてどこにもないので、大事なのは、国の数字に踊らされることなく、自エリアにおける観光資源や環境変化を踏まえ、自分たちで学びながら考え続けることなんだと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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