梅雨に取り残されたナメクジ
ポケットに入ったライターを取り出して
火をつけた。
近くにいたナメクジにその火を近づけた。
ナメクジはその火に怯えたように触覚を縮ました。
僕はそれに気を良くしてあざけ笑った。
徹夜明けの早朝に憂鬱な気持ちを払拭するために外に出た。何ともなしに手にしていたタバコに火をつけた。外は朝日の木漏れ日で照らさせているが土砂降りだった。
初夏なのにまだ梅雨から抜け出せていない。
何だか自分だけ夏から取り残されている気がした。
それが何だか苛立たしい。
近くにはナメクジが顔を出していて少し救われた気がした。でも、次の瞬間には今の自分を見ているようで無性に怒りがこみ上げてきた。
そんな気持ちを拭いさりたくてライターの火を近づけて八つ当たりしてしまったのかもしれない。
人は誰かに必要とされないと自我を失ってしまうものらしい。なのに、人に期待を押し付けられると窮屈に感じる。なんて傲慢なんだろう。
「お前は俺の気持ちが分かるか?」
男には分からないこのジレンマを教えて欲しくてナメクジに目を落とした。
ライターの火が遠のいて自分の身の危険が遠ざかったナメクジはもうさっきの事なんてまるで忘れてしまったかのように既に呑気に触覚を踊らせながら動き出していた。
「お前は自立して生きてるみたいで羨ましいよ。俺はお前に八つ当たりしないと生きていけないのにさ。」
1人でひと通り自己嫌悪に酔いしれたのか、
それとも一服してタバコの煙に酔いしれて満足したのか、はたまたさっきまでの苛立ちを忘れてしまったのか
男はタバコの火を消してその場を立ち去った。
ナメクジノロノロ這いつくばりながら触覚をゆらゆら揺らして男の呑気な姿を見上げながらあざけ笑っているようだった。
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