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みえない場所での素振り。

 いきなりですが、素振りって、ぼくは苦手でした。中学に入り、テニス部という名の、軟式庭球部にはいった時に、とにかく素振りをさせられました。ラケットを握って、フォームを固めるための素振り。あれが本当に意味があったのか、と思って、ググってみるといろんな意見があるようで、ここではその有用性について、言及することはさけておきます。ちなみにぼくはテニスという名の軟式庭球はあまり上手にはなりませんでした。

 話がずれてしまいました。素振りですね。ここでは「基礎力を高めるための努力」という意味で使っています。セルフトレーニング的な意味ですね。いまはとにかく効率を求められる時代です。こうした努力はしないほうが、スマートだという雰囲気があります。

  確かに効率はいいほうがいい。ETCができたことで、大幅に渋滞は緩和されたでしょうし、ググれば近所の美味しいお店が検索できるって、便利ですよね。

 しかしこうした効率を、自分のキャリアに当てはめてしまうと、いろんなことが難しくなります。そもそも”何かを生み出す”ことにおいて、効率的な道筋って、とても難しいです。

 だれもがSNSで発信できる時代。多くの人は、どう見せれば、自分を魅力的にみせることができるかを考えます。それはある程度は必要なことです。しかし本当に大切なことは、目に見えない部分にあります。

  ぼくは長い間、ドキュメンタリーの現場に身をおいてきました。取材をし、ロケをし、編集をし、ナレーションをかき、音楽をいれ、と何段階もの工程をへて番組は出来上がります。なかでもディレクターの手腕が問われるのひとつがロケです。
 ぼくはロケが苦手でした。カメラマンや音声さんに助けられながら、思うようにいかないなぁと頭をかきむしる日々でした。なかなか思うようなシーンが撮れず、もっと撮らなきゃと、撮影テープはどんどん増えていきます。その結果、今度は編集が大変になります。50分の番組で、40分テープが100本をこえることもザラにありました。

 べらぼうにロケの上手い先輩がいました。いつも緊迫したシーンをきちっと撮りおさめ、カメラマンからの信頼も絶大でした。

 ある日、その先輩と雑談をしていたときにずっと気になっていたことを尋ねました。

 「先輩はいつもロケの撮れ高がすごいですけど、どうすればロケが上手くなりますか」

 すると先輩は逆にこう問いかけてきました。

 「河瀬は、ロケは好き?」
 「はい、苦手ですが、いろんな人に会えるので好きです」
 「オレはさ、ロケって大嫌いなんだよね」

 あんなにロケがうまいのに、嫌いだなんて。あれほど撮れるなら面白くてしかたがないはずなのに。

 先輩は、こう続けました。

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