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超絶技巧の美...本のコロッセオ...金沢デザイン旅(無料記事)
初夏のある日、ブロンプトンを持って金沢にでかけた。大好きな街のひとつで、これまで何度も出かけているが、今回はひとつのテーマを持って旅をしようと考えた。それは「デザイン」だ。加賀百万石という豊かな土地は、工芸をはじめさまざななデザインを産んできた。今回はデザインという目線で金沢を自転車で巡る旅だ。
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ルートは金沢駅を起点。この駅も美しい。金沢はシェアサイクルも整備されていて場所によってはヘルメットも貸してもらえる。自転車輪行が面倒だという人はぜひ利用してみてほしい。
まずはこの街のへそである、金沢城址近くの広坂を目指そう。石川門、兼六園、21世紀美術館など観光名所がぎゅぎゅっと固まっている。金沢の市街地には自転車レーンがしっかりと整備されていて走りやすい。大通りは混雑するが一本裏に入れば、わりと空いている。
金沢城の周りはかなり再開発が進み、気持ちの良い空間が広がる。特に南側、21世紀美術館とのあいだは大きな公園となっていて、市民にとっても、観光客にとっても憩いの場となっている。古きへのリスペクトを持って、リデザインされた古都・金沢はとても過ごしやすい。
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21世紀美術館の近くにある広坂。この周辺は文化施設が密集していて、坂を上がると県立美術館、県立能楽堂、県立歴史博物館などが建ち並ぶ。なかでも今回のお目当ては、国立工芸館だ。もともとは東京の北の丸公園にあったのだが2020年に移転した。
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工芸館の入り口の正面にあるのは3メートルをこえるオブジェ。現代芸術、現代陶芸をアメリカで学んだ金子潤の手によるものだ。その巨大なオブジェは圧倒的な存在感で来場者を出迎えてくれる。
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訪ねた時には「おとなとこどもの自由研究 工芸の光と影展」の最中で、ため息の出るような超絶技巧によって作られた作品群が惜しげもなく展示されていた。黒田辰秋から四谷シモンまで、近現代の工芸作品群に圧倒される。アートやデザインに興味がある人には超おすすめ。ちゃんと見ようと思ったら半日は必要。2024年8月18日までの開催。
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続いて向かったのは鈴木大拙館。金沢出身で禅についての著作を多数英語で書き、日本の禅文化を海外に紹介した仏教学者。ユングやハイデーガーとも親交があり、大拙がいなかったらスティーブ・ジョブズが禅と出会うこともなかったかもしれないといわれるほどだ。
鈴木大拙館はそのあり方がとても独特だ。展示は大拙の写真や文章が、極力説明なしに展示される。ハイライトは「水鏡の庭」。「静寂」と「自由」という鈴木大拙の精神を表した空間だと説明されている。来館者はこうした空間のなかで、自ら思索を深めることができるよう設計されているのだ。
鳥のさえずりが響き、風がザザザと木々の葉をならす。
ここでは、ゆっくりと時間が流れる。
金沢に行くことがあったら、時間に余裕を持って訪れてほしい場所だ。
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次は、犀川をこえ坂を上がって「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」へ。さきほどの鈴木大拙館を設計した谷口吉生、そしてその父であり、やはり建築家である谷口吉郎を記念して作られた。父・吉郎は慶應義塾幼稚舎から東宮御所、そして東京国立近代美術館などを、そして吉生は、東京都葛西臨海水族園、ニューヨーク近代美術館新館、GINZA SIXなどを手がける。
ぼくはこのふたりの建築が大好きで、前回金沢に来た時にも訪れたのだが休館日だったので、再度訪れたのだが、この日はなんと「関係者内覧会」でまたしても入場は叶わなかった。次回は必ずや、と心に誓う。
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次は街の中心から少し離れた小立野にある石川県立図書館。2022年7月に完成、そのユニークなデザインが話題を呼んだ。設計は、仙田満+環境デザイン研究所。国立成育医療研究センター 病院や広島のマツダスタジアムなどを手掛けている。
外観は図書館らしく静謐さをたたえているが、一歩中に入るとその独創的な空間に心を奪われる。本の円形劇場とも表されるそのデザインは、本との出会いのワクワク感をかき立ててくれる。土曜の午後に訪れたのだが、中高生が勉強をしていたり、サラリーマンやシニアが読書に耽っていたり、市民たちの生活の一部になっていた。こんな図書館が近所にあるなんて心底羨ましく思う。
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閑話休題。少し遅いお昼に、写真家の友人に紹介してもらったお寿司やさんに。看板もでておらず一見さんは絶対に訪れることのできない。かなり控えめにいってミラクル美味でした。
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尾山神社から近江町市場をかすめ、デザイン旅の最後の目的地は、「柳宗理記念デザイン研究所」。日本を代表する工業デザイナーとして数々の定番を生み出してきた柳宗理。バタフライスツールはもとより、フライパンやカトラリーなど私たちの暮らしに欠かせない道具を数々デザインしてきた。入場無料で、柳のデザインした生活用具がそれぞれのシーンで展示されている。鈴木大拙館と同じく先入観なくデザインを見てほしいとの思いで展示には一切の説明はない。
柳は約50年にわたり金沢美術工芸大学で教鞭をとった。その縁からこの施設が金沢につくられたのだという。
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この街には、日本のデザインを牽引してきた人々の”手ざわり”が残されている。そのひとつひとつを繋いでみるには、自転車のような手軽な移動手段が向いている。
ひとつの街を、ひとつのテーマで旅をする。時には、そんな旅も面白い。
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