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なぜ写真を撮り始めたのか。

 火事になって3ヶ月が過ぎました。いつか誰かの役に立つだろうと、その経験をnoteに書き続けています。今回は、写真を撮ることについてです。

 火事をきっかけに、写真を撮るようになりました。僕は写真を撮るプロフェッショナルではありませんが、撮りたいものが沢山あって、いつもカメラを持ち歩いています。家族の日常や路傍の花、散歩で出会った犬。火事にあい、会社を休み、家族と多くの時を過ごすようになって、何気ない日々を愛おしく思うようになったからです。

 火事の直後は、iPhoneで撮っていました。でもある時に、それでいいのだろうか、と思い始めました。一眼レフ、ミラーレス、結構高いけど、中古ならなんとかなるかもしれないと、漠然と考えました。でもあまりに予備知識がなく、どこから調べたらいいのか、わかりません。しかもまだ火事から日がたっておらず、調べる気力もなく、Facebookにこんな投稿を投げました。

「わりとちゃんとした写真を撮りたいんですけど、コンデジとかだとダメなんですかね。むしろiPhone11?」

 僕の周りにはプロのカメラマンが何人かおり、その知識にすがろうと思いました。まずEKIDEN Newsの西本武司さんから書き込みがありました。

「ちゃんと撮れればなんでもいいんじゃないんですか?」

 西本さんは、EKIDEN Newsで陸上競技の劇的な瞬間を撮りまくってる人です。それがなんでもいいって、どういうことなんだろう?

 続いて、プロカメラマンのたかはしじゅんいちさん。

「時代的にはミラーレス一眼...ですが、今は11proで撮れない写真が思いつかない...時代です」

 大混乱です。

 プロのカメラマンがなんでもいいって、どういうことなんだろう?

 しばらくして西本さんとお会いした時に、彼が陸上写真を本気で撮ろうと決意したときに買ったという、Leicaも触らせてもらいました。素直に一眼レフってかっこいいなぁと思いました。でも今の僕には手が出ません。そこで西本さんは、SIGMA FPというミラーレス一眼を勧めてくれました。これもすごくカッコいい。カメラマンのワタナベアニさんがnoteに書いてた、Hasselbladのミラーレスもいいなぁとか。つまりこの時、僕は一番大切な問いを考えずに、ただただ目移りをしていました。

 すると西本さんは一転、SONYのRX100というコンデジを勧めてくれたんです。プロも愛する人が多い名機です。

「河瀬さんの場合、記録がテーマでしょうから...本当のことをいうと普段の持ち運びにレンズが邪魔です」

 ハッとしました。カメラが欲しい訳じゃなくて、記録がしたいんだということに気づいたんです。SIGMAもLaicaもHanselbladも、もちろんかっこいい。でもそれは僕が何を撮りたいかに基づいて選んでいるわけじゃない。日常を記録していくには、小さくて軽くて、持ち歩けるやつがいい。

 すると、プロのカメラマンのワタナベアニさんからこんな書き込みが。

「俺の使い古しを使っていただけるなら、RX100を大作戦しますよ」

 そして、続けざまにアニさんからこんな問いかけが。

「もっとちゃんと撮りたいのならミラーレス一眼ですが」

 少し前ならアニさんの問いの意味がわからなかったかもしれません。でも西本さんとやりとりしていた僕はこう答えました。

「僕が撮りたいのは、僕の置かれているこの状況です。焼けた家、借りぐらし、日々出会う笑顔と涙」

「じゃあ、常に持ち歩けるコンパクトでいいですね」

 そんなこんなで、僕はワタナベアニさんからカメラを頂くことになりました。

 そのやりとりから10日ほどたった金曜日。アニさんは、僕が当時、出演していた渋谷のラジオの「渋谷のテレビ」という番組にゲストとして遊びに来てくれました。そのオンエアー中にSONYのRX-100をご本人から手渡しでいただきました。まだ緊急事態宣言が発令される前の3月20日でした。火事があり、そしてコロナが重なり、先が見えず、気持ちがザワザワしていた頃でした。これからこのカメラと世界を見つめていくんだと、修学旅行の前の日の子供のような気持ちで、カメラを箱から取り出したのを覚えています。

 家に帰る道すがら、この夜のことを、記録しておきたいと思いました。自分にとってはすごく大切な夜に思えたからです。バス車窓から見える渋谷の街。セルフポートレート。そして、通りがかったテニスコート。

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 この3枚の写真を見ると、あの夜の高揚感と不安が入り混じった複雑な感情が蘇ります。どこにでもある日常、それはカメラで撮影された瞬間に、時に撮影者の気持ちすら記録するのだと思います。

 こうして僕は日常をカメラで記録し始めました。

 僕がカメラを手にするまでの過程で、写真を撮ることについて、期せずして、大切なことを教えてもらいました。プロフェッショナルな先輩たちに導かれ、広大なフィールドの入り口に立った気分です。そして今も、ワタナベアニさんの「写真の部屋」を貪り読みながら、写真の深遠なる世界をワクワクしながら彷徨っています。写真の神様からすれば、不肖の生徒かもしれません。でも、時を止めて、記録する、そんな魔法の道具が、ただただ面白いんです。いろんな災禍が起きるけれど、この不確定な世界を、自分なりに愛するために、SONY RX-100のシャッターを押し続けていきたいと思います。

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河瀬大作
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