「膝枕」外伝 Jumping Knee
2021年8月7日、Clubhouseで今井雅子作「膝枕」朗読を行い、膝枕er番号67番に認定されました。
多くの膝枕erから刺激を受けて、私も膝枕iterとしてこんなのを書きました
本作品は膝枕外伝第五弾となります。
「膝枕」外伝 Jumping Knee
休日の昼。独り身で恋人もなく、打ち込める趣味もなく、その日の予定も特になかった男は、寝転がっていた。いったん起き上がり、着替えて朝食もとったが、男は布団をかけずに寝転がった。男の頭の下には、女の膝から下が正座した格好の物が、枕として置かれていた。
かつて男が溺れ、一度はくっついて離れなくなってしまった膝枕。
メーカーから代替品が送られ、ヴァージンスノーの膝といい、吸いつくようなフィット感といい、以前の膝枕と全く変わりはないのだが、男は何とも言えない違和感を禁じ得なかった。
「あーあ、こんなときにヒサコの膝枕があれば、こんなことでモヤモヤしなくなるんだろうけどなあ・・・・・」
男がそんなことを思ったそのとき、膝枕は突然ガタガタと動き出し、男は振り落とされた。男は何が起きたかわからず、あんぐり口を開けていたら、正座の格好で固定されている筈の膝枕が、突然二本脚で直立し、歩きだした。
「う、ウソでしょ・・・・・ワーッ!」
男は逃げようとしたが、立ち上がった膝枕はジリジリと男に近づき、大きく跳び上がるや、右膝を鋭角に曲げて高く上げ、男の横っ面を直撃した。
「グギャーッ!」
悲鳴を上げて男が倒れると、
「オーッ!」
口もない膝枕から叫び声が聞こえた。
「な、何なんだよ、沢村忠の真空飛び膝蹴りか?」
再び「オーッ!」と膝枕が叫んだ。
「えっ、ジャンボ鶴田のジャンピングニーパット?」
顔にジャンピングニーパットを食らった痛みに加えて、西から太陽が昇るよりもありえない出来事が起きた衝撃で、男は立ち上がれなかった。するとさらにありえないことが起きた。膝枕は両膝をたたんで元の正座の形に戻ったと思いきや、プロペラもジェットエンジンもロケット噴射もないのに、突然浮き上がり、天井まで届いた。
「フャーッ!キェーッ!」
先程とは違う奇声を放った膝枕は、正座の姿のまま男に向けて落下し、きれいに揃った両膝が男の腹部を直撃した。
「××××××!」
男はもはや悲鳴を上げることすらできなかった。
「き、キラー・カーンのアルバトロス殺法?」
そんなことを男が思い出したのもつかの間、
「ワウッ!ワウッ!ワウッ!」
と、また違う叫び声がした。
「え、ブルーザー・ブロディ?」
と男が気づいたとき、膝枕は再度直立して走りだした。
「ワァーッ!」
と叫んで大きく跳び上がった膝枕は、膝頭を男の肩口にめり込ませた。
キングコング・ニードロップを食らった男は、泡を吹いて失神した。
「フン。今日はこのへんで勘弁してあげるわよ」
そんな光景をスマートフォンで見ながらつぶやいたヒサコは、リモコンのスイッチを切って、男の部屋に入った。
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