胃の調子が悪い夏目漱石による旅行記「満韓ところどころ」
岩波文庫『漱石紀行文集』に、夏目漱石の旧満州訪問記「満韓ところどころ」が収められています。
これ読んでみると、行く先々で満鉄総裁や旧友などが歓迎してくれる接待旅行なんですね。現地でブイブイ言わせていた当時の日本人社会の雰囲気が分かります。温泉地がけっこうあるのは意外でした。今でも残っているのかしら。ただ、漱石の斜に構えた文体が、接待旅行の贅沢感をやわらげています。
あと旅の間じゅう、漱石はずっと胃の調子が悪いんですよね。胃の話が多い。後年、胃潰瘍で倒れてますから、ほんとうに苦しかったのだろうけど、これも文体のせいなのか、おかしみすら感じてしまいました。
黒い影法師が何人も駆けていくのが汽車の車窓から見えたシーンや、「怪しい音楽」を奏でる人々の姿など、ところどころに出てくる幻想的な描写も美しいです。
巻末の注解が詳しいのも助かりました。当時の事情がよくわかります。