中国の作家・残雪〜テンポの良さが気持ちいい
さてノーベル文学賞発表(10月10日)を前に「今年は中国の残雪氏が有力!」という世評を聞き、慌てて彼女の作品を読み始めた私ですが、前回ご紹介した短編に続き、もう一つ短編を読んでみました。
手元にあるのは2年ほど前に中国で買って未読だった短編集《西双版納的女神》(シーサンパンナの女神)です。中国語ネイティブではない私でも短編集なら読みやすそうだと思って買っていたのでした。
前回の投稿ではこの本の冒頭に収められた短編「宝蔵地帯」をご紹介しました。氷雪に閉ざされる北の街が舞台でした。今回は表題作の「シーサンパンナの女神」です。舞台は中国南部・雲南省のシーサンパンナです。
物語は平屋建ての家に住む主人公がアリ、カタツムリ、ナメクジ、蚊、毛虫などに悩まされる場面から始まります。南国情緒が満点です。主人公はシーサンパンナに引っ越してきて3年ですが、熱気と湿気になかなか慣れないようです。意を決して向かいの高層マンションに引っ越します。25階の部屋は虫もいなくて快適なはずですが…。主人公が引き払った平屋の家に住み始めた覆面の女性を軸に、じわじわと周囲に変化が広がります。
前回ご紹介した「宝蔵地帯」もそうなんですが、やっぱり夜の情景と夢にうなされそうなイメージが印象的です。それでいてネチっとしていないのが残雪の良さでしょうか。凝った語彙や言い回しに頼らず、テンポの良い文章で物語を展開します。この「シーサンパンナの女神」の最終盤の場面など、スピード感を覚えるほどの気持ちよさです。
ところで、シーサンパンナという地方都市にいる主人公がいきなり高層マンションに住むことに違和感を持つ日本の読者もいるかもしれません。タワマンの25階に住むといったら、日本ではなんとなくリッチで都会的なイメージもあります。ただ私は中国の地方都市の高層マンションに、ちょっと土着な印象すら感じるのです。中国はどこに行っても高層マンションがある。こんな田舎の不便なところに、という場所で大規模なマンション群をよく見かけます。そして建物のクオリティがあまり高くない。主人公も上階の足音が大きくて難儀しています。安普請で見かけもちょっと朽ちた印象の高層マンションが林立している…それは中国の典型的な地方の風景になっていると思います。
さて残雪がノーベル文学賞を取るのかどうか。私としてはどちらでもいいかもしれない。こうして少しずつでも読み始めることができたから。でも受賞をきっかけにもっと多くの人が読むことになれば、ほんとに素晴らしいことだと思います。
前回「宝蔵地帯」の感想を書いた記事はこちらです。↓