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『ブルックリンの死』

 アディラルーに引き続き、早川書房のツイートで知って読んでみました。たしかに、これはどういう話なのか、どこへ向かっているのかと、不思議な感覚で読んでたなー。

・主に寝る前にちょびちょびずつ読んでたので、名前がわかんなくなるのがつらかった。見返しに登場人物紹介あるんだけど、そこに載ってない人も結構出てくるのよね。
 物語の構成は、シドニーという黒人女性とセオという白人男性のパートを交互に語られるんだけど、合間にアワーフッドっていう、ご近所SNSみたいなパートがあって。そこでのいろんな住人の書き込みに「あれ、これ誰だっけ? 話には出てない人かな。あ、前にあそこで出てきた人か」みたいになっちゃってたよ。

・読んでてとにかく、シドニーがつらすぎる。
 この前に読んだ『人はなぜ物語を求めるのか』からちょっと引用。

 人が「なぜ?」と問うときは、不本意な状況にいることが多い。だから、ストーリーの出発点は、主人公が不本意な状況にあるということが多いのです。ストーリーの出発点にはしばしば、幸福の欠如が置かれます。それ自体が「望ましからぬ、特筆すべき事態」なのです。

『人はなぜ物語を求めるのか』P.79

 たぶん、物語論として基本的なところなんだろうけど、この部分の現代的な感覚がいまの自分にはちょっくら堪えるんだよなあ。

・解説に「『裏窓』と『ゲット・アウト』の遭遇だと絶賛された」(P.492)と紹介されてた。『裏窓』は、いま読んでる『スラヴォイ・ジジェク』でも言及されてるところあったけど、名作を知らないと見逃す文脈がたくさんあるんだなあ、たくさん見逃してるんだろうなあ、と。

・この本の大きなテーマに黒人差別があって、繰り返し「ぼくたち。/あの人たち」という構図が描かれる。『ファルコン&ウィンターソルジャー』の感想でも「正直にいって黒人(差別)について、自分が何か言えることはほとんどない」って書いたけど、ひとつ思い出したことがある。
 自分はイングランドフットボール、プレミアリーグを見るのが趣味のひとつなんだけど、昨年こんなニュースがあった。

 リバプールFCを応援しているので、当該のシーンを見たときには、驚いたし衝撃だったし、優勝の喜びに冷水をぶっかけられたような悲しさがあった。レスターが、リーグとしても歴史的で奇跡的な優勝を果たし、その中で活躍していた岡崎のときもそうだった。このときもあまりの不自然さに絶句した。

 自分と近いところで起きたときに、かなりのショックを受けた覚えがある。
 日本で暮らしてて、あまり黒人差別を意識することがない(というこの言い方自体に問題があるんだろう)けども、これ自体はもう勉強不足を恥じるしかない。

・ラストの展開に、これまでのリアリティから飛躍した、乱暴にいえば荒唐無稽さを感じるかもしれない。なんていうか、一気にものすごい展開になる。死体と強制排除と人体実験と黒幕の陰謀と銃撃戦。
 これは、あとがきで「ホラーやファンタジーの手法を取り入れてあるが、本質的にはこれがアメリカで軽視される非白色人種が経験してきた現実であり、わたしたちが途方もないテーマと向き合って感情を処理するにはこの手法が必要なのだ」(P.493)と書かれていたとおり、ある種の物語化(たぶん異化作用とかいえる気がするが)によると思うけど、まあ……この辺も語ることばが出てこなくてキィーってなってるところです。学生時代、真剣に本を読む時間があったころなら何か適当なことばが出てきたかもしれないけど……あの頃からだいぶ経って、あらためて、ものごとを考えたいなと思っている今日この頃です。キィー!

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