変な着信音の劉さん(仮名)
前回の上海記事がたくさんスキを押されたようで、お知らせが表示されました。(スクショするの忘れました)
ありがとうございます。
前回の記事↓
世界的に変なウィルスが流行っているこのご時世、海外旅行はハードル高めですしね。旅行の話は需要があるのかな?
今回はほんのり何やかんやあったのかもしれない10年以上前の上海での思い出パート2です。
上海旅行は2泊3日の日程でした。
その間、空港からホテルまでの送迎や上海スポット巡りなどをツアーのオプションで組んでいました。
送迎からツアーまで大手旅行会社の現地スタッフの方が私たちの面倒を見てくれていました。
名前は確か劉さん(仮名)だったかなー?
うろ覚えです。眼鏡を掛けた背の高い茶髪の青年でした。
劉さんに連れられてサーカスを見て、有名店で夕飯食べて、新天地に行って……他のツアー参加者と同じバスに乗ってホテルに帰ります。
劉さんとはそんな感じで伝達事項のみの一方的なやり取りしかなく。
現地スタッフの劉さんからしても、私たちはツアー参加者の一人。ただそれだけです。
ひとつだけ、彼の携帯の着信音が非常に独特でそれがとっても耳に残っています。
くっちゃらぺっちゃらふにゃふにゃ
みたいな機械的な着信音でした。
伝わるかな?この感じ?
劉さんにはよく電話が掛かってくるので、そんなトンチキな着信音を度々聞くのでした。
着信音がとにかく個性的で面白かったのです。今でも覚えています。
劉さんはバスでの移動中も私たちに「明日の午前中に○○観光に行きますか?オプショナルツアーの料金は日本円で現金払いできます。その他は市場巡りもあります」などと追加の営業活動をしていました。
特に予定も無かったし、とりあえず上海の街を上から眺めてみたかったので午前中の数時間だけ「上海テレビ塔見学」を申し込みました。
上海テレビ塔…上海のシンボルみたいな超メジャーな観光地。スカイツリーができる前はアジアで一番の高さだったとか。
翌日、ホテルのロビーで劉さんと待ち合わせです。
上海テレビ塔の見学は私たちしか申し込まなかったので、劉さんと私と友達2人の合計4人で移動です。
ホテルから歩いてやたらとトンネル内がピカピカしている電車?に乗って、上海テレビ塔へ。彼について行くだけなので楽ちん。
劉さんは背が高く、歩幅もあるので先を歩いては時々振り向いて立ち止まってくれます。テレビ塔までは徒歩での移動だったので劉さんと少し会話をする機会がありました。
一緒に行った1つ年上の友達Mさんはとても積極的で誰にでもぐいぐい行く感じの子です。
くっちゃらぺっちゃらふにゃふにゃ
と劉さんのトンチキな着信音が鳴って、着信相手を確認してから劉さんは手慣れた手つきでピッと音を消しました。
「その着信音すごい面白いんですけどw劉さんって何歳なんですか?」
「○○歳です」
「え、汐見と同い年じゃん!何だー同年代だったんだ。タメ口で良いよね?ねぇ、日本に行ったことある?」
「まだなくて……」
劉さん、はにかみながらぽつぽつと話してくれるのです。それがちょっと可愛かった。そして友達の押しの強い会話よ。劉さん実は少し困っていたかもしれません。
「そうなんだー、東京に来たら私たちが案内できるのにね。日本の物で好きなものとかあるー?」
「ドラえもんとか……」
そう言って携帯についているドラえもんのキーホルダーを見せてくれました。
「ホントだ!可愛い!他にはどんなグッズ持ってるの?」
「ぬいぐるみとか、服とか……」
「えー、ドラえもんの服?見てみたい!劉さん明日でお別れだから明日、着て来てよ」
「…………」
特にうんともすんとも言わずに、苦笑いをして私たちを展望室へのエレベーターに並ぶ列に送り出します。
「じゃあ後で、ホテルロビーに17時」
その日は夜景を見るツアーが旅行者の全員に盛り込まれていたので、そのことを劉さんは言っています。手を振って一旦お別れをしました。たぶん他のツアーのお客さんのところに向かったんじゃないかな。
エレベーターに乗る列を待っている間も
「劉さん、ドラえもんとか可愛い。すごい似合いそう」
「結婚とかしたら真面目に働いて、優しそう。良い旦那さんになるよー絶対!」
「Mさん、劉さんお気に入りだよね?w」
「文化が違うから実際は難しいと思う」
「あー……それはあるねぇ」
「今は仕事に生きてる感じがする。あの着信音何だろうね。中国で流行ってるのかなー」
「ホントうけるww私もあの着信音にしたいw」
とか何とか好き勝手に適当な会話をした記憶があります。
上海タワーを楽しんでから、豫園に向かいました。(そこで↑の記事のタクシーに遭遇)
豫園の後はホテルに迎えに来た劉さんにぼったくりタクシーの件や怪しい土産物屋の話を愚痴りながら、車移動です。
劉さんは「その値段だと高過ぎる。へぇ、怪しい業者だね。そんなところで買っちゃダメ」などと走る車の中でも後ろを振り返ってわりと親身に私たちの話を聞いてくれたのでした。
何だかその時はちょっと打ち解けた気がしました。
午前中に行った上海テレビ塔が光っています。
遊覧船の先頭の方にはデッキがあって、そこはVIP席でした。お金持ちそうな成金カップルがお酒を飲みながらゆったりしていました。
「何で中国のお金持ちっぽい人ってみんな太ってるんだろう」
「女の人はスタイル良くて美人だけどねー。さっきから自撮りすごいしてる」
「ポージングがさぁ、すごくない?真似は出来ないなー……あ、ほら!撮影も別料金だよ!新婚旅行じゃない?」
「へー」
夜景を堪能して、上海良いところだねーなんて数日間の旅行の思い出をみんなでベッドでぺちゃくちゃ喋りながら寝て最終日を迎えます。
ホテルロビーで空港までの送迎をしてくれる劉さんを待っていると、この日の彼はやや蛍光色寄りの目立つ黄色のポロシャツを着て登場です。
「車が来るまでここで待ってて下さい。もうすぐ来ます」
と言ってる劉さんのその背中にはどーんとドラえもんのイラストが!背中いっぱいにどら焼きをくわえているドラちゃんの絵が!
「えーっ!劉さんドラえもんだ!着てくれてる!」
「すごいー!似合ってる!」
「わー!可愛いっ!」
歓喜です。大喜び。私たちのグループだけ劉さんを取り囲んでやいのやいの騒いでました。
たぶん友達は特に深い意味もなく、言ってみただけだったと思うのです。
「ドラえもんの服を着て来てよ」って。
それなのに忘れずにドラちゃんを遂行してくれた劉さん。劉さん株が爆上がりした瞬間でした。やだ、ちょっと劉さんったら!
たぶんこの時、3人ともちょっと劉さんにときめいてたと思う。私は少なくともそうだった。ほんのちょっとね。ほんのちょっと。1センチくらい。
「劉さん下の名前、フルネームはなんていうの?ここに書いてよ」
と、Mさんは手帳に名前を書いてもらっていました。
劉さんと一緒に記念撮影をして、ホテルを後にします。
上海の街並みとさよならです。
崩れているのか工事中なのかよくわからないビルをいくつか通り過ぎて、空港までの高速道路を進みます。
そんな風景を見ていると寂しく、しんみり。
上海良かったなぁ…劉さんともお別れかぁ…次は本物のペニンシュラに泊まりたいなぁ…
空港に到着すると、劉さんは乗客のスーツケースやら荷物やらを下ろすのを手伝ってくれます。
「また会えると良いね」
「劉さんありがとー」
なんてお別れの言葉を言ってさよならです。
劉さんのお陰で私たちの心の中は良い思い出しか残っていませんでした。上海なんて楽しいところなの!ビバ!上海!
「劉さんすごく良い人だったね」
「ホントホント」
「まさか着て来ると思わなかったー」
そんな会話をしつつ、手荷物検査場へと進むのでした。
隣国に対してはいろいろと思うところはありますが、何かある度にあの時の劉さんは元気にしているだろうかと頭をよぎります。日本への不買運動とか、今回のウィルスとかさ……。
私の旅行画像データの中に劉さんとの写真が残っていたのを先日みつけました。
ちょっと恥ずかしそうに、ドラちゃんの背中を見せてくれている写真です。たぶん友達が「写真撮りたいから背中向けてー」って言ったんだと思います。言った通りに律儀に背中を向けてくれる劉さん。何て良い人……惚れてまうやろ。
彼の着信音が時々、頭の中を駆け巡ります。
くっちゃらぺっちゃらふにゃふにゃ
私と同い年の彼が何事もなく元気に幸せに暮らしていれば良いなぁと思っています。