【プチ小説】オレ。生きる
謝罪の行方
オレは26歳の営業マン。皆、オレのことを「カワヲロ」と呼ぶ。
市内のオフィス街で働いており、オフィスビル5階建ての3階に入居している会社だ。社員は50名。オレは、営業課長をしている。
部下は10名。その中でモヒャシとサキプシコ、そしてキプラネと仲が良い。歳は皆同じで同期。仕事中でも敬語を使わない。
モヒャシは社長の息子。長身で細身のイケメン。髪型はツーブロック。ブランド物のスーツを着ている。仕事ができないのが欠点だ。
サキプシコは、長身の細身で、長髪のサラサラヘアー。眼光鋭く、メガネをかけ美人である。いかにもキャリアウーマン"というイメージがある。
キプラネは、小柄でスタイルが良い。髪型はモブで、二重で目がクリッとしている。美人というよりは可愛い系か。癒しのオーラを放つ美人である。
オレは太ってはいないが、痩せてもいない。まさに普通である。顔も不細工ではないしいイケメンでもない。
まさに普通である。彼女はおらず、募集もしていない。筋トレを趣味にしているので、体つきは良くなった。
ある日、モヒャシが「カワヲロ、ミスって得意先を怒らせた。謝罪に行くから付いてきて欲しい」と言った。
オレは「いや、オレは行かない。1人で乗り切れ」と言った。モヒャシは「いや、1人じゃ無理だ」と言った。
サキプシコは「少しは勉強したほうが良いよ。1人で行け」と言った。
キプラネは「いや、一緒に行ってあげたほうが良いかも」と言った。
最終的に判断するのはオレだ。オレは「分かった。今回は1人で行ってもらう」と言った。
オレは「片道2時間の電車の旅。楽しめ」と言った。モヒャシは「いや、そんな気分になれないよ」と言った。
オレは「1人で無理なら、オレが行くから。とりあえず1人で行ってくれ」と言った。
モヒャシは「でも・・・」と言いそうになったが、言うのを堪えて出ていった。
今は11月。朝晩はかなり涼しくなり、日中は半袖で大丈夫だ。暑くもなく、寒くもない良い季節だ。
モヒャシは、1人、出ていった。キプラネは、心配そうに見送った。
モヒャシは、特急電車に乗り、2列シートの座席に座った。隣は誰もいない。気を使わなくて良い。
モヒャシは「そうだ、謝りに行くのは止めよう」と思った。既に電車は走り始めている。しかし、「もう現地で適当にビジネスホテルに泊まって、週末を楽しもう」と思った。
今日は金曜日。"華金"である。
オレの会社は平日9時〜17時までが仕事。基本的に残業はない。
土日祝日が休み。GWやお盆、年末年始など、大型連休も休みである。とても働きやすい会社である。
モヒャシは、適当にスマートフォンでビジネスホテルを探した。その結果、あるビジネスホテルにした。すぐに予約を取り、得意先には行かず、ビジネスホテルに直行した。
彼は、小説の執筆を趣味としている。ホテルの部屋で小説の執筆をする計画である。コンビニで買い出しをして、5階の客室に入った。
持ち込みOKで、缶ビールを3本と、お菓子、弁当などを買った。彼は至福のひとときを過ごしただろう。
16時頃、得意先から電話がかかってきた。応対したのはキプラネである。キプラネは「少々お待ちください」と言い、電話を保留にした。
キプラネは「カワヲロ、多分、モヒャシは行っていない」と言った。
「オレが代わる」と言い、電話応対した。オレは「モヒャシが行っていない。オレが今から行く」と言った。
サキプシコは「分かった。では、モヒャシに電話する」と言った。サキプシコは「ダメだ、やつはスマートフォンの電源を落としている」と言った。
オレは「分かった。もう、ほっといていい」と言った。続けて「では行ってくるので、17時になったら"上がるように"」と言った。
現在、16時だ。2時間の旅。楽しみだ。17時発の特急電車に乗り、地方の得意先へ。売店で弁当を買い、1人席に座った。
隣に人がいないので、気が楽だ。オレは早速、弁当を開けた。うまそうである。本当は、缶ビールも飲みたいが、これから謝罪に行くので無理だ。
缶ビールはお預けだ。その後は、趣味でしている小説の執筆。最近、燃え尽き症候群でスランプだが、なんとか気楽にやっている。
それにしても、車内は静かだが、皆、パソコンと睨めっこしたりとか、スマートフォンをいじっている。
オレもスマートフォンで小説の執筆をするので、いじっているわけだが。座ると窮屈なので、できればスタンディングデスクがあると助かる。当然、電車にその設備はない。
18時過ぎ。得意先の最寄駅に着いた。地方の都市で、駅直轄のショッピングモールがある。
駅前はロータリーになっていて、バスやタクシーの往来が多い。それなりに栄えているか。
ビジネスホテルや観光ホテルもあり、中々、栄えている。住むと良い場所かもしれない。とは言え、オレは住まないが。
得意先からタクシーで15分。田園風景あふれる場所だ。その中に、コンクリートでできた建物がある。それが得意先である。
木造の家が並んでいて、おそらく農家か。その中で、コンクリートの建物は少し浮いている。
得意先に入り、受付をした。ワンフロアになっており、1番奥が応接室である。パーティションで区切っているだけの簡易的な応接室。
中の会話が聞こえると思うが、社内は騒ついているので、わざわざ聞かないだろう。
オレは、入り口付近にあるパイプ椅子に座って待っていた。安そうな長机もある。
ほどなくして。
担当者が来た。オレはすぐに立ち上がり、「この度は、申し訳ありませんでした」と言った。
担当者は怒って批判する。オレは適当に合槌を打ち、そして、とにかく「申し訳ありません」と言っていた。
1時間ほど経つと、ほとぼりが冷め、担当者は冷静になっていた。担当者は「もういいです。契約を破棄します」と言った。
オレは「そうですよね。私もそう思います」と言い、解約申込書を出した。担当者は驚いている。
オレは「御社の言うことは全面的に正しいです。私が御社の担当者なら、同じことを言うでしょう」と言った。
担当者は「少々、お待ちください」と言い、社内に消えて行った。
15分ほどして。
担当者の上司と思われる人がきた。その人にも、「この度は、申し訳ありませんでした」と言った。
そのあと名刺交換し、話した。その結果、契約は続行となった。ただ、今後の担当はオレである。
得意先を出ると、もう真っ暗。「今日は、泊まろう」と思った。最寄駅に着いて、ホテルを探した。今回は観光ホテルにした。
一泊2万円である。高い。しかし「滅多に来ないし、贅沢だ」と思った。
素泊まりだが、持ち込みOK。コンビニで酒類やつまみを買って、部屋に入った。
2人で余裕に利用できる部屋。上品な雰囲気。言うこなし。ただ、観光ホテルなので、スーツ姿の人はいない。皆、私服だ。
ただ、オレもネクタイを外し、上着をきないなら、観光客"ぽく"見える。オレはこの部屋で過ごす。
すぐにシャワーを浴び、終わったら缶ビールを開け、一気に半分ほど飲み干した。
至福のひととき。
オレはひたすら、小説の執筆をした。かなり良いのである。
21時過ぎ。
サキプシコから電話がかかってきた。「うまくった?」と聞いた。オレは「もちろん。なんの問題もない」と言った。
サキプシコは「今どこ?」と聞いた。オレは「現地で1泊。中々いいぞ」と言った。サキプシコは「では月曜日に」と言い、電話を終えた。
それにしても、モヒャシはどこに消えたか。「電話してみるか」と思い、電話してみた。
モヒャシは「カワヲロ、今日はごめん。逃げた」と言った。オレは「まぁ、いいぞ。契約はそのままやし」と言った。
モヒャシは「ぼく、どうなる?」と聞いた。オレは「まぁ、お咎めなしやろ。お前の親父は社長なので、なんとでもなる」と言った。
オレは「ただ」と前置きをして「多分、処分されるのはオレやな」と言った。
モヒャシは「なぜ?」と聞いた。オレは「監督不行き届きでペナルティだ」と言った。
モヒャシは「親父に言っておくので大丈夫」と言った。オレは「それはありがたいが、別に良いと思っている」と言った。
モヒャシは「なぜ?」と聞いた。オレは「まぁ、今の仕事、どの道、辞めるつもりなんで」と言った。
モヒャシは「そうなんや」と一言。オレは「なので、気にするな。お互い、好きなことで過ごそう」と言い、電話を終えた。
オレは、目標がある。それは「小説の執筆で飯を食う」ということだ。今、会社を辞める機会が到来した。
貯金あるので、1年くらいは何もしなくて良い。今がやめ時かもしれないと思いながらビールをクイッとひと口飲んだ。
月曜日。
モヒャシが来た。皆、白い目で見ている。人事部長が来て、オレとモヒャシが呼ばれた。
ワンフロアの1番奥の一角が社長室である。
3人で社長室に入り、社長は「モヒャシ、お前は解雇だ。とっとと出ていけ」と言った。続けて社長は「カワヲロ、悪かった。この通り」と言い、頭を下げた。
少し社長の頭頂部は禿げていた。オレは「いえ、社長、私が解雇にして下さい。私の指示で、なってしまいました。私の責任です」と言った。
社長は「それも聞いている。が、君のおかげで契約が続いている。そこを評価してのことだ」と言った。
オレは「承知しました」と言った。それを言うしかなかった。モヒャシは「お世話になりました」と言い、社長室を出た。
オレも「失礼します」と言い、社長室を出た。モヒャシは、清々しい気持ちになっていた。
オレに「これで小説の執筆に専念できる」と言った。オレはモヒャシに「羨ましい」と言った。
モヒャシは「お世話になりました」と言い、会社を出て行った。
退職のあとに
27歳の秋。朝晩はかなり涼しくなり、過ごしやすい季節になった。暑くもなく、寒くもない。ただ、服装に迷うか。
モヒャシが退職して1年。今はもう、誰も何も思っていない。
彼は、小説の執筆で成功し、今は小説家として活躍している。
オレは、未だ、会社員。モヒャシが羨ましいと思っている。
ある日、サキプシコが「モヒャシ、どうしているかな」と言った。キプラネは「そうだね。音沙汰なしやね」と言った。
オレは「まぁ、モヒャシは、小説家で活躍しているよ」と言った。続けて「結構、稼いでいる」と言った。
サキプシコは「1度、皆で飲まない?」と聞いた。オレは「いいね。そうしよう」と言った。
キプラネは「では、モヒャシに電話してみる」と言った。
ほどなくして。
キプラネは「今週の金曜日、どうやろ。モヒャシに言ったら、金曜日なら大丈夫」と言った。
オレは「よし、ではそれで行くか」と言った。サキプシコは「私はやめておく」と言った。
オレは「了解。無理に誘わない」と言った。キプラネは「残念やけど、仕方ないね」と言った。
サキプシコは、何を思っているのか。
そんな事を思った。
金曜日。
市内の某所。
18時に待ち合わせた。場所は居酒屋である。
大通りから路地に入り、突き当たりを左に曲がる。また突き当たるので、そこを右に曲がれば、居酒屋がある。
個人経営の居酒屋で、カウンター席が7席、テーブル席が10席ある。
ログハウスを改造したような居酒屋で、木の温もりを感じる。壁はガラス張りで、中の様子を見ることができる。
店員が「いらっしゃいませ、何名さまですか?」と聞いた。
キプラネは「予約しているキプラネです」と言った。店員は「こちらへどうぞ」と言った。オレらは、1番奥の4人席に案内された。
タブレット型のタッチパネルで注文し、ほどなくして品が届いた。
3人は乾杯した。モヒャシの様子を見ると、やつれた感じになっていた。オレは「大丈夫か?」と聞いた。
モヒャシは「全然、大丈夫」と言った。いや、大丈夫そうには見えないが。
キプラネは「ちゃんと、ご飯、食べている?」と聞いた。モヒャシは「あまり食べてないかな」と言った。
オレは「無理したら体を壊すぞ」と言った。モヒャシは「食べる時間がないよ」と言った。オレは「ではどうやってご飯を食べている?」と聞いた。
モヒャシは「適当に、おにぎりや菓子パンをかじりながら仕事をしているね」と言った。
キプラネは「それは悪い。食事の時間くらい取らないと」と言った。モヒャシは「分かっているけど、締め切りが」と言った。
オレは「お前は、向いていないかもな」と言った。続けて、予定を組んで仕事をしないと」と言った。
モヒャシは「綺麗ごと」と言って笑った。オレは「なんか、カチンと来た。帰る」と言い、店を出た。
キプラネは「あーあ。帰ってしまった。どうする?」と聞いた。モヒャシは「まぁ、もう、友達でも何でもないので、痛くも痒くもないよ」と言った。
モヒャシは「大体、1年も連絡せず、いきなり説教をする方がおかしい」と言った。キプラネは「そうだけど、もっと、大人にならないと」と言った。
モヒャシは「お前も説教か。オレも帰るね」と言い、店を出た。テーブル席はキプラネだけである。
キプラネは「まぁ、どうでもいいけど。サキプシコを呼ぼう」と思った。キプラネはサキプシコに電話し、サキプシコが来た。
サキプシコは「な、こんな事だろう。もう、縁の切れた人間に会う必要はない」と言った。
キプラネは「前みたいに、4人で飲みたかっただけ。裏目に出たね」と言った。サキプシコは「そういうこと。もう、モヒャシに連絡をしないほうがいいよ」と言った。
キプラネは「そうするよ。もう、こりた」と言いながらビールをクイッとひと口飲んだ。
キプラネは「それにしても、会社にいた頃のモヒャシが豹変して驚いた。もう、なんかピリピリしていたね」と言った。
サキプシコは「まぁ、1年も会っていないし、人は変わる」と言った。そんなことを話していたら、モヒャシから電話がかかってきた。
モヒャシはキプラネに「さっきはゴメン。もう、カワヲロはいないよね?」と聞いた。
キプラネは「もう、いない。代わりにサキプシコがいる」と言った。モヒャシは「もう1度行っていいかな?」と聞いた。
キプラネは「少し待って。サキプシコに聞いてみる」と言った。
キプラネは、サキプシコに「モヒャシが来たいって言ってるけど、どうやろ?」と聞いた。
サキプシコは「ダメだ。会わない。キプラネと2人で会え」と言った。キプラネは「モヒャシ、ゴメン。無理やわ」と言った。
モヒャシは「分かった。ではサキプシコに"よろしく。また会おう"と言っておいて」と言い、電話を終えた。
一方。オレは。
オレは「少し大人気ないことをしたか」と思った。しかし「もう、今さら悔やんでも仕方がない」と思った。
オレは、モヒャシに電話した。出るかどうか分からなかったが、電話をしてみた。電話が繋がり、モヒャシが「さっきはゴメン」と言った。
オレは「いやいや、オレこそ悪かった。どうだ?これから飲みに行かないか」と言った。モヒャシは「ごめん。締め切りが迫っていて」と言った。
オレは「分かった。では、時間が空いたら言ってくれ。飲みに行こう」と言った。モヒャシは「了解。では、今から一緒に飲もう。明日頑張ればいいだけなので」と言った。
オレは「無理してないか?」と聞いた。モヒャシは「大丈夫。友達の方が大事やから」と言った。
しかし、夜も更けて22時。近所の居酒屋は空いていない。オレは「良かったら、モヒャシの家に行っていいかな。ここから近いので」と言った。
モヒャシの家の住所を知っている。なぜ行かなかったのか。そこを悔やんでいる自分がいる。
モヒャシは「いいよ。散らかっているけど」と言った。オレは「分かった。では、今から向かう」と言った。
スーパーで酒類を大量に買い、つまみや惣菜、そしてジュースやお菓子も買った。5000円程度かかったが、居酒屋で飲んでもそれくらいかかる。
高いとは思わないのである。
ほどなくして。
モヒャシの家に着いた。中に入ると、かなり片付いている。モヒャシに「あれ?かなりスッキリとして綺麗やん」と言った。
奥からサキプシコが出てきた。オレは「え?なぜ、ここに?」と聞いた。
モヒャシは「実は同棲をしていて」と言った。オレは「まじか。それは知らなかった。サキプシコは「隠してごめん」と言った。
オレは「いや、安心した。しっかり者のサキプシコがいれば安心だ」と言った。モヒャシは「さっきはごめん」と言った。オレは「いやいや、こちらこそ」と言った。
サキプシコは「まぁ、上がって」と言った。オレは「お邪魔します」と言った。モヒャシは「サキプシコがいるから何とか大丈夫」と言った。
オレは「でも、食事はおにぎりや菓子パンって言ってたけど、サキプシコは料理をしないのか?」と聞いた。
サキプシコは「いや、作るって言っているけど、食べながら仕事ができるし、おにぎりや菓子パンばかり」と言った。
オレは「そうか」と言った。何か言おうかと思ったけど「綺麗ごと」と言われるかもなので、言うのはやめた。
オレは「色々と買ったので、飲み会をしよう」と言った。酒類は、ビールや酎ハイ、ワインなどである。
ビールをグラスに注ぎ、3人で乾杯した。オレは、一気にビールを飲み干した。2人は「相変わらず、飲みっぷりがいいな」と言って笑った。
オレは、喉が渇いていたので、一気飲みしたのである。またビールをグラスに注ぎ、ビールをクイッとひと口飲んだ。
オレは「で、いつから付き合っているの?」と聞いた。モヒャシは「辞める前から。もう、かなり長い」と言った。
オレは「全く分からなかったな」と言って笑った。サキプシコは「まぁ、特に隠すつもりはなかったけど、何となく言いにくかった」と言った。
オレは「そうか」と言った。モヒャシは「キプラネにも知らせていない。キプラネは「怒るかな?」と聞いた。
オレは「キプラネは大丈夫だと思うよ」と言った。サキプシコは「キプラネと2人で飲んで、付き合っている」と言った。
オレは「そうか。それでは大丈夫やな」と言った。
オレは「今からキプラネも呼ぶか」と言った。時間は24時を回っている。サキプシコは「さすがにまずいぞ」と言った。
しかも電車でくる必要があるので無理である。サキプシコは「ダメ元で電話するか?」と聞いた。モヒャシは「やめとけ。迷惑になるぞ」と言った。
サキプシコは「いや、電話する」と言った。案の定、無理だった。今回は3人で飲んだのである。
何はともあれ、モヒャシと友達関係が続けて良かった。
そんな事を思った。
キプラネの思い
冬。
1日中、寒くなり暖房器具が必要だ。雪が降る日もあるし、風が強く、外に出るのが億劫になる。
会社は相変わらず。毎日9時から17時まで働いている。営業部は、毎日、寒空の中、外回りにでかけ、大変な季節だ。オレは、役職なので、外にあまり出ない。
役職は担当を持ってはならない。主に、部下を監督する立場である。日報や報告書の確認をしている。
部下の1部は「課長は楽でいいね」と言い、愚痴をこぼす。悔しいなら、自分が課長になればいい」と思っている。かと言って、簡単に座を譲ることはないが。
今、同期で仲間はサキプシコとキプラネだけである、モヒャシは、相変わらず、小説の執筆をしている。
ある日。サキプシコが「私の家で飲まないか」と言った。オレは「いいね」と言った。キプラネも「いいね」と言った。
今週の金曜日に、飲み会が決まった。モヒャシの家は会社から徒歩10分。近いのである。
仕事終わりに、スーパーで缶ビールやツマミ、惣菜やお菓子を買った。総額で1万円くらい。飲みに行ってもそれくらいかかるので、妥当な金額だ。
チェーンのスーパーで24時間営業である。駐車場が100台程度あり、割と大きな規模か。コンビニより品数が多く、安いモノが沢山ある。
19時頃、モヒャシの家に来た。正確には、モヒャシとサキプシコの家だが。モヒャシは忙しいそうに仕事をしている。モヒャシは「今、手が離せないので、先に始めておいて」と言った。
オレらは「ごめんな。先に始めておくわ」と言った。3LDKのマンションで、モヒャシは6畳の部屋で仕事をしている。
オレらはリビングで飲み始めた。
20時頃、モヒャシが来た。モヒャシは「お待たせ」と言った。
オレらは「お疲れ」と言った。ビールをグラスに注ぎ、皆で乾杯した。モヒャシは「この感じ、久しぶり」と言った。少し、目に涙を浮かべている。キプラネは「そうだね。久しぶり」と言い、また目に涙を浮かべている。
いくらか感傷的になっている。キプラネは「実は、私も小説の執筆をしていて」と言った。
モヒャシは「ほんと?仲間やん」と言った。サキプシコも「ほんまに」と言った。
オレも「スマートフォンで小説の執筆をしているよ」と言った。
モヒャシは「ほんと?皆、仲間やん」と言った。ただ、ガチで仕事にしているのはモヒャシだけである。
キプラネは「私も専業になろうかな」と言った。
オレは「え?先越される」と言って笑った。サキプシコは「小説家は甘くないよ」と言った。
オレは「まぁ、仕事は大体、シンドイ」と言った。
キプラネは「そうやんな」と言った。モヒャシは「まぁ、僕みたいに切羽詰まることもあるし、今は"兼業"で良いと思うよ」と言った。
オレの会社は、副業OKである。オレは「そうそう、兼業でいい。今、抜けられると困る」と言った。キプラネは「いや、出来れば専業にしたい」と言った。
モヒャシは「あくまで、僕の場合はだけど、休みはないし1日12時間働く。
それに耐えることは出来る?」と聞いた。キプラネは「できる。休みの日はそうしちる」と言った。
オレは「ガチやな」と言って笑った。
サキプシコは「まぁ、本人がしたいって言っているなら、私らにに止める権利はない」と言った。正論である。
キプラネは「そう言うことだから、私、退職する」と言った。酒の席で、酒が回って、大口を叩いているのか、はたまた、本心か、それを見極めたいが、分からなかった。
3人はベロベロに酔っている。
オレは酒に強い。接待で自分が酔っていたら接待にならない。自分の限界を知っているから調整出来る。
24時頃、お開きになった。とは言え、キプラネは「家に帰ることができない。電車が走っていないからだ。
オレは、会社から5分程度の賃貸マンションで、1人暮らしをしている。
家賃は高いが、贅沢しなければ暮らしていける。通勤ラッシュがないので楽である。
モヒャシの家から結構近い。キプラネに「これでタクシーに乗るなり、ビジネスホテルに泊まるなりしろ」と言い、1万円を渡した。キプラネは「カワヲロの家に言ったらダメかな?」と聞いた。
オレは「まぁ、いいけど。朝まで飲むか」と言った。キプラネは「了解。では朝まで飲もう」と言った。
オレの家に入ると、キプラネは「部屋が散らかっている」と言った。洗濯、乾燥した服はフローリングに無造作に置かれ、ダイニングテーブルは食器て溢れている。
シンクも洗い物があるし、フローリングはゴミだらけ。
キプラネは「カワヲロ、かなり酷いところに住んでいるね」と言って笑った。オレは、まぁ、独身男性のリアルだ」と言って笑った。
キプラネが「ちょっと片付ける」と言った。オレは「いいよ。これで全然暮らせるので」と言った。
キプラネは「いいから」と言い、掃除を始めた。深夜1時の頃である。
2時になり、掃除が終わった。見違えるように綺麗になった。
オレは「ありがとう」と言い、缶ビールを渡した。2人で乾杯した。
ほどなくして。
キプラネは「さっきの話やけど」と前置きをして「退職するのでよろしく」と言った。
オレは「分かった。では辞表を出してくれ」と言った。
オレは、基本的に退職したい者がいたら形式的に止める。「ちゃんと止めました」という、実績が欲しいだけだ。
人事にも言えるし仕事を真っ当していると思われるからだ。
キプラネは「カワヲロも辞めて小説家になろうよ」と言った。オレは「まぁ、甘い世界でないし、今は兼業と言うか趣味で小説の執筆をするよ」と言った。
キプラネは「そっか。寂しいね」と言った。続けて「実は、実家に帰ろうと思っているよ」と言った。
オレは一瞬、眉間にシワを寄せた。オレは「そうか。実家って確か地方やな」と言った。
キプラネは「そうそう。実家で小説家でご飯を食べる事ができるようになりたい」と言った。
実家の方が、コスパが高い。小説の執筆に専念できる。
オレは「そっか。では気軽に会えなくなるね」と言った。キプラネは「そうそう」と言った。オレは、一瞬の沈黙のあと「まぁ、頑張れ。応援しているぞ」と言った。
キプラネは「ありがとう」と言った。
6時になり、キプラネは「ありがとう。また来週」と言い、朝の街へ消えて行った。
しばらくして。
キプラネが辞表を持ってきた。人事で承認され、退職が完了した。キプラネは、実家に帰ったのである。
前日に4人で送別会を行い、サキプシコとキプラネは泣いていた。モヒャシも軽く泣いていた。
オレは普通だ。冷静に皆の態度を見ていた。なぜか寂しい気持ちは起きず、ただ見守っていただけである。
こうして同期が辞めていったのである。
それもまた、いい。
サキプシコと別れ
30歳の秋。
暑くも寒くもない季節。過ごしやすい気候だ。オレは、役職だが、キプラネの仕事を引き継ぎ、後任がいない。
役職だが、得意先を持っている。営業成績はビリだ。と言うのも、営業に専念できず、事務仕事の方が重要だ。
上層部も知っており、とくに何も言われない。とは言え、「営業で本気出すか」と思っている。
今、トップはサキプシコである。かなり仕事ができて、オレの後任にと水面化で動いているらしい。
それもまた、いい。
ある時、サキプシコはオレに「もう少し、営業を頑張ってくれないと、私が課長の座を奪うよ」と言って笑った。
オレは「どうぞ」と言った。サキプシコは「本当、カワヲロは何を考えているのか分からない」と言った。オレは、基本的にポーカーフェイスだ。
サキプシコは「では、遠慮なく課長を狙う」と言った。オレは「実はもう、サキプシコに課長になるようになっている。明日、内示されるので、良かったな」と言った。
サキプシコは「え?本当に?」と聞いた。オレは「そうだ。良かったな」と言った。
サキプシコは「なんで急に?」と聞いた。オレは「まぁ、オレの推薦かな。オレは、営業に専念したいので、降格を申し出た」と言った。
サキプシコは「そうなのか。分かった」と言った。サキプシコは、相当嬉しかったらしく、表情に表れている。
翌日。
正式にサキプシコが正式に課長になった。オレは、一般社員である。
一般社員は、いきなり同僚になるので、複雑だろう。
サキプシコは、オレに「エコ贔屓をしないのでよろしく」と言った。オレは「了解。よろしく」と言った。
オレは「外回りに行ってきます」と言い、外に出た。オレは「まぁ、適当に仕事をしながら小説の執筆をするか」と思った。
オレもまた、小説家を目指している。外回りをすれば、時間も作りやすいし、それもあって、降格を希望した。もっとも、これは、ここだけの話であるが。
オレと違って、サキプシコは容赦ない。成績の悪い社員がいたら怒るし、部内はギスギスしだした。
もっとも、1番怒られているのはオレである。本気を出せば、すぐにトップの座を狙えるが、忙しくなるので、嫌である
サキプシコは「カワヲロ、あんたなら、すぐにトップになれるはず。サボっているやろ」と言った。
オレは「いや、最低限はこなしているので、文句いわれっる筋合いはない」と言った。
メンバーは課長にタメ口を聞いている、オレに驚いている。
サキプシコは「とにかく、来月からもっと頑張るように」と言った。
オレは「了解。頑張るよ」と言った。本当は頑張る気はゼロだが。今、とにかく小説の執筆をしたい。
仕事はルート位営業である。サキプシコから引き継いだ得意先を回る。新規開拓をしてもいいが、シンドクなるので、ルート営業のみ。
20社の担当で、1日1社のみ営業に行っている。あとはひたすら、カフェなどで小説の執筆をしている。これくらいがちょうど良い。
ある時、サキプシコは、オレのところに来て「人事部に行くよ」と言った。オレは「もしかして解雇とか?」と聞いた。
サキプシコは「そうやで。もう庇いきれない」と言った。人事部に行くと、人事部長が来た。
人事部の会議室に入った。ガラス張りの壁で、外からも中からも様子がわかる。
ドアがあるので、それを閉めれば、中の会話は聞かれない。ざわざわしているので、なおさら、聞かれるしんぱいはないだろう。
人事部長は「カワヲロさん、今月末で退職をしてもらいます」と言った。オレは「承知しました」と言った。ポーカーフェイスである。
人事部長は「なにかないのかね?」と聞いた。オレは「もし、何か言ったら、退職の話はなしになりますか?」と聞いた。
人事部長は「いや、それは何も変わらない」と言った。オレは「で、あれば、時間の無駄ですので、お先に失礼します」と言い、会議室を出た。
オレは「やっと、自由になれた。モヒャシと同じく、小説家で頑張ろう」と思った。
サキプシコは「カワヲロ、本当にそれでいいの?」と聞いた。オレは「人事をひっくり返すのは、サキプシコでも無理やろ」と言った。
サキプシコは「まぁ、そうなるね。仕方ないか」と言った。オレは「そういうこと。では、退職の挨拶に行くので」と言った。
ただ、またサキプシコが担当するので、顔繋ぎをしないといけない。
半月ほどで挨拶を終え、あとは退職を待つばかりだった。
そんな時、人事部長が来て、オレに「私と一緒に社長室に来てくれ」と言った。オレは「ん?なんで?」と聞いた。
人事部長は「社長がお呼びだ」と言った。オレは「了解。行こうか」と言った。人事部長は「なぜ、そんな言い方を。私は人事部長だぞ」と言った。
オレは「だから?間もなく、オレは解雇になる。お前に偉そうに言われる筋合いはない」と言った。
人事部長は「まぁ、そうだが」と言った。人事部長は「とにかく来てくれ」と言い、人事部長と社長室に行った。
社長室に入った。オレは「社長。人事部長が偉そうなので、指示てくれ」と言った。社長は「それは済まなかった」と言った。
オレは「で?なんかあるんやろ?」と聞いた。社長は「まぁ、君の解雇は無しにする」と言った。オレは「なんで?」と聞いた。
社長は「息子に言ったら、酷く怒られて」と言った。息子はモヒャシである。今も小説家をしている。
オレは「息子の言いなりか」と言って笑った。社長は「引き続き、営業部で頑張ってくれ。最低限の成績で良い」と言った。
オレは「それであれば了解。もう、話はいいかな?」と聞いた。社長は「もういいぞ。引き続き頼む」と言った。
人事部長とオレは社長室を出た。人事部長は「社長にタメ口なんて、前代未聞だ」と言った。
オレは「前例を作ったな」と言った。オレは、基本手的にポーカーフェイスだが、時と場合による。
営業部戻り、オレは「サキプシコ、オレ、解雇取り消しだ」と言った。サキプシコは「え?そうなんや」と言った。
しかし、「ここに辞表を置いておく。ではお世話になったな」と言い、会社を出た。
今、外回りの時間で、メンバーはほとんどいない。サキプシコは「え?ちょっと待って」と言った。
オレは「まぁ、どの道、会社を辞めるつもりだったので」と言った。サキプシコは「まぁ、本人が辞めたいと言うのであれば、止めはしないけど」と言った。
サキプシコは、人事部に辞表を持っていき、受理された。これでオレの退職は完了したのである。
オレは、モヒャシに電話した。「モヒャシ、オレ、会社を辞めた。社長に言ってくれたのに裏切って済まない」と言った。
モヒャシは「いやいや、カワヲロの人生やし、好きにしたらいいと思うよ」と言った。
オレは「この先、オレも小説家になるよ」と言った。モヒャシは「本当に?それは嬉しいけど、敵が増えるな」と言って笑った。
オレは「とりあえず、引っ越す。今の賃貸は高いので、少し郊外で安い賃貸がないか探すよ」と言った。
モヒャシは「そうか。気軽に会えなくなるな」と言った。オレは「まぁ、日本に住むし、会おうと思えば会える。リモートもあるしね」と言った。
モヒャシは「そうやな。気軽に会えるね」と言った。オレは「ところで、サキプシコと上手くいっている?」と聞いた。
モヒャシは「いや、あまり上手くいってない。いつもカリカリしているよ」と言った。
オレは「会社でも、なんかイライラしているし、ストレスが溜まっているかもな」と言った。
モヒャシは「まぁ、元々、気が強いし、少しエスカレートしている状況かな」と言った。オレは「まぁ、仲良くやってくれ」と言った。
モヒャシは「分かった。ありがとう」と言い、電話を終えた。
まぁ、これで良かったよ。ぶっちゃけ、サキプシコの下で働くのは嫌だったし、良いタイミングだった。
一方。
サキプシコはいつも18時に帰る。が、最近は23時頃に帰るなど、時間が遅くなっていた。モヒャシは「仕事が忙しいのだろう」と思っていた。
ある時、モヒャシは「サキプシコ、おつかれ。仕事、忙しい?」と聞いた。サキプシコは「忙しいから、帰る時間が遅くなっている」と言った。
続けて「モヒャシは、いいね。家で仕事ができて。羨ましい」と言った。モヒャシは「いや、家で仕事するのもシンドイ」と言った。
サキプシコは「では、小説家を辞めて、外で働いてほしい」と言った。モヒャシは「いや、それはできないよ」と言った。
サキプシコは「では、私と別れて。好きな人ができた」と言った。
モヒャシは「分かった。いますぐ荷物をまとめて出ていくね。3時間くらいくれたら大丈夫なので」と言った。
サキプシコは「冗談だよ。好き人はいないし、今もモヒャシが好きなので」と言った。
モヒャシは「いや、もう別れる。試されるなんてことは嫌いなので」と言った。
サキプシコは「ごめん」と泣く。しかし、モヒャシは、出て行ったのである。
モヒャシは「とりあえず、カワヲロの家で泊めてもらうか」と思った。
30分後。
モヒャシが来た。オレは「どうした?」と聞いた。モヒャシは「サキプシコと別れた」と言った。
オレは「まぁ、あがれ」と言い、家にあげた。荷物をたくさん持っている。
オレは「モヒャシ、家出やな」と言って笑った。オレは「まぁ、頭が冷めるまで、オレの家にいたらいいよ」と言った。
スマートフォンが鳴った。相手は、サキプシコである。しかし、彼は電話を取らない。修羅場である。出来れば首を突っ込みたくなかった。
しかし成り行きで仲裁する立場になった。何回目かの電話で、オレが取った。
サキプシコに「今、オレの家で預かっている。あとは2人でどうするか考えろ」と言った。そのあと、リモートで対面した。
サキプシコは「悪かった」と言った。モヒャシは「いや、許せない。でも、会うことはない」と言い、リモートを切った。
これまもう、終わりだ。そのあと、サキプシコがオレの家に来た。モヒャシとサキプシコの対決だ。
オレはそれを見つつ、ビールをクイッとひと口飲んだ。サキプシコは「ごめん。もう一度やりなおしさせてほしい」と言った。
モヒャシは「いや、絶対に嫌だ。家で仕事をしている事を馬鹿にされたような気分になって、もう嫌だ」と言った。
オレは「あ、サキプシコは言ってはいけないことを言ったな。もう終わりだ」と言った。オレは、いつの間にかモヒャシ側になっている。
サキプシコは「私が改めるので、この通り」と言い、頭を下げた。
モヒャシは「だから、もう無駄。話はない」と言った。サキプシコはうなだれて家に帰っていった。
オレは「サキプシコと別れて本当にいいのか?」と聞いた。
モヒャシは「だってね、ぼく、キプラネが好きでね。ちょうど良いタイミングだった」と言って笑った。
恐ろしい。モヒャシは中々やりおる。腹黒さはある。
人間さ。腹黒さはある。
数日後、モヒャシとサキプシコは別れた。結局、今の家は、モヒャシが住むことにした。広いので、家賃をオレが半分払い、同居が始まった。
野郎2人だが、職業が同じなので、話があう。また、モヒャシが先輩なので、色々と助けてれる。素晴らしい場所に住んでいる。
もっとも、これで収入は発生していない。今、小説のネット販売で頑張っているところだ。
しばらくして。
風の噂で、サキプシコは退職していた。どうやらモヒャシと別れて、やる気がなくなったらしい。
今はどこで何をしているのかわからない。モヒャシはまだ、キプラネに思いを告白していない。
「小説のネタにちょうど良い」と思っているところだ。
キプラネとサキプシコ
キプラネは今、実家暮らしである。ご飯の用意は母親がしてくれるし、自分がする家事は、せいぜい、自分の部屋の掃除くらいである。
今、小説のネット販売で、そこそこ稼げるようになり、一人暮らしを考えてるところだ。
ある日、キプラネは、オレに電話をした。キプラネは「カワヲロ、元気?仕事辞めたって聞いたけど」と言った。
オレは「久しぶり。そうそう。今、小説家をしているよ。小説のネット販売で稼いでいるところ」と言った。
キプラネは「そっか。お互い頑張ろうね」と言った。オレは「ちょっと待って、モヒャシが話したがっているので」と言った。
キプラネは「いや、いい。ではまたね」と言い、電話を終えた。
モヒャシは「なんでだよ」と言った。オレは「嫌われているな」と言って笑った。
キプラネは、モヒャシとサキプシコが別れたのを知っていて、サキプシコの味方である。
キプラネは、サキプシコに電話した。2人は今も交流がある。キプラネは「カワヲロとモヒャシって一緒に住んでいる?」と聞いた。
サキプシコは「そうそう。一緒に住んでいるはず。元々、仲が良かったから、うまいこと生活をしているかと思うよ」と言った。
キプラネは「まぁ、私らは私らで仲良くしよう」と言った。サキプシコは今、キプラネと一緒に住んでいる。
キプラネの実家にサキプシコが居候をしている。キプラネの家は、父親がいない。母親だけである。
母親は「娘が増えた」と喜んでいる。また、サキプシコも、小説の執筆をしている。
キプラネが先輩となり、サキプシコに教えている。
同期の4人組は、皆、小説の執筆をしている。サキプシコは「カワヲロに電話して、モヒャシの様子を聞こうかな」とキプラネに言った。
サキプシコは、まだ、モヒャシのことを忘れていない。
キプラネは「未練がましいから、向こうから何か言ってくるまで放置でいいよ」と言った。
サキプシコは「そうかな。でも、一度電話してみる」と言った。
サキプシコは、オレに電話をした。「カワヲロ、久しぶりやな」と言った。サキプシコは「久しぶり。元気?」と聞いた。
オレは「まぁ、元気やで。ようやく、小説のネット販売で売れるようになった」と言った。
サキプシコは「モヒャシは元気かな?」と聞いた。オレは「ヤツは、かなりすごい。出版社と契約して、バリバリやっているよ」と言った。
サキプシコは「そっか。よろしく伝えておいて」と言った。オレは「ちょっとまって」と言った。
モヒャシは「サキプシコ、久しぶりやな。その節はどうもでした。良かったら、リモートで会わない?」と聞いた。
サキプシコは「え?いいの?」と聞いた。モヒャシは「もちろん。リモートで飲み会をしよう」と言った。
サキプシコは「やった」と言った。モヒャシは「カワヲロも参加するよ」と言った。サキプシコは「ではキプラネも呼ぶ」と言った。
キプラネに声をかけると「私はいいや」と言った。サキプシコは「わかった。では3人でリモートで飲むね」と言った。
キプラネは、「ごゆっくり」と言い、自分の部屋に行った。
ほどなくして。
3人はリモートで久々に会った。いい時代である。スマートフォンがあれば出来る。
モヒャシは「サキプシコ、久しぶり。元気そうやな」と言った。サキプシコは「久しぶり。あの時はゴメン」と言った。
モヒャシは「まぁ、お互い悪かったよ」と言った。続けて「もし良かったら、一緒に住まない?結婚を前提に付き合ってほしい」と言った。
オレは「では、オレが出て行こう」と言った。サキプシコは「でも、カワヲロに悪いし」と言った。
オレは「大丈夫。オレは何とでもなるよ」と言った。サキプシコは「だったら、一緒に住みたい。結婚前提でお願いします」と言った。
キプラネは「私は反対だね」と言った。突然、入ってきたのである。キプラネは「モヒャシは都合が良すぎる。世話になっているカワヲロを追い出して、サキプシコと住むなんて有り得ない」と言った。
オレは「でも、大丈夫。オレが出ていけば、収まる。これでいい」と言った。
キプラネは「わかった。では、明日中に出て行ってくれる?サキプシコを、今日で追い出すので、あとはよろしく」と言い、リモートの画面を切った。
オレもそうだが、サキプシコも驚いたはずだ。キプラネは「サキプシコ、では準備をして出て行ってくれるかな。もう、会うことはないよ」と言った。
サキプシコは「なんで?」と聞いた。キプラネは「ハッキリ言って迷惑やった。お母さんも色々と疲れていたし、ちょうど良かった」と言った。
実際は嘘である。強がりを言っているだけだ。サキプシコは「そっか。迷惑をかけていたか。これ、少ないけど、家賃ね」と言った。
サキプシコは「今までありがとう。付き合いが長いので寂しいけど、お互いがんばろね」と言った。
サキプシコは、少し泣いている。キプラネも少し涙を浮かべている。
サキプシコは「お母さん。今日までお世話になりました。お体に気を付けてお過ごしください」と言った。
母親は「え?出ていくの?」と聞いた。キプラネは「そうそう。住むところ決まったから引っ越しをするところ」と言った。
母親は「ちょっと待って。まぁ、お酒でも飲みましょう」と言った。サキプシコとキプラネは椅子に座った。
ほどなくして。
3人で酒を飲んだ。サキプシコから内容を聞いた母親は「それは辞めた方がいいよ」と言った。サキプシコは「え?なんでですか?」と聞いた。
母親は「楽しく暮らせそう?彼氏の顔色を見て暮らすことになるよ。きっとしんどい」と言った。
キプラネは、沈黙している。母親は「結婚前提だから一緒に住まないといけない理由はないよ」と言った。
キプラネは「そうそう。もう少し、モヒャシから離れないと。今だと、モヒャシと結婚しても後悔するだけ。やめたようがいい」と言った。
母親は「うちだったら、いつまで居てもいいし、"娘が1人増えた"ので、楽しいし嬉しい。この家からは出さない」と言って笑った。
サキプシコは、少し泣いた。サキプシコにも両親はいるが、厳格な父親と、それに怯える早親。実家にだけは帰りたくない。
もう何年も実家に帰っていない。電話で話すこともないし、関係は希薄である。
今回の件も、もちろん知らない。サキプシコは「分かりました。今後もお世話になります」と言った。
キプラネと母親は喜んだ。キプラネは、オレに電話をした。「カワヲロ、サキプシコは引き続き、"うち"で預かるので。モヒャシにも言っておいて。じゃあ」と言い、電話を終えた。
オレは、「一方的やな」と思った。モヒャシに「サキプシコ、来ないぞ」と言った。モヒャシは「え?なんでやろ?」と聞いた。
オレは「まぁ、今はまだ、時期尚早。ジックリ行け」と言った。
モヒャシは「分かった。では引き続き、一緒に住むか」と言った。オレは「悪い、オレ、本当に出ていく。今後は1人で暮らしてみる」と言った。
モヒャシは「そんな・・・。1人は寂しい」と言った。オレは「まぁ、お互い別々のフィールドで頑張ろ」と言った。
モヒャシは「仕方ないね。お互い頑張るか」と言った。
1ヶ月後。
オレは、引っ越した。日本の南国の離島である。格安の賃貸の平屋で、海が身近に見えて最高である。
スマートフォンと無線キーボードがあれば、どこでも仕事ができる。便利な世の中だ。
ある日のこと。
サキプシコとキプラネとリモートで飲み会をした。2人は仲が良さそうである。まるで姉妹だ。
サキプシコが「今度、遊びに行く」と言った。キプラネも「行きたい」と言った。オレは「いいぞ。ホテル代が浮くしな」と言って笑った。
サキプシコは「あれから、モヒャシと色々と話したけど、婚約はせず、1人の友達として付き合う事にした」と言った。
オレは「そうか。まぁ、上手くしてくれ」と言った。キプラネは「こっちに用事があったら、遊びに来てね」と言った。
オレは「分かった。ではお言葉に甘える」と言った。サキプシコは「カワヲロが結局、離れたか。会社員時代から、"一匹狼"やったから、今がお似合いかもね」と言って笑った。
オレは「まぁ、元々、群れるのは嫌いなんで」と言った。キプラネは「皆、小説家。1番、儲かっているのはモヒャシかな。誰が抜くだろうか」と言って笑った。
オレは「まぁ、ボチボチ、小説の執筆をするよ」と言った。
2人も「そうやな。地道に行くしかないね」と言った。
サキプシコは「ちゃんと、ご飯食べている?」と聞いた。オレは「まぁ、食べてないな。おにぎりや菓子パンをかじりながら。酒は飲むけど」と言った。
キプラネは「あかんな、それは」と言った。オレは「まぁ、対策するよ」と言った。
3時間のリモートが終わり、また1人になった。これが最高だ。もう、誰にも干渉されたくない。離れていたら大丈夫だ。
親兄弟とも離れ、1人で今、暮らしている。1人が最強だ。
今後も小説家で生きるだろう。
モヒャシの奮闘
32歳の春。
出会いと別れの季節。少しずつ暖かくなり、桜も咲き始めた。花見のシーズンである。
モヒャシは今日も出版社の仕事と、ネット販売をしている。十分な生活が出来ている。
本当はサキプシコと結婚して住みたいが、サキプシコはまだ、キプラネと住んでいる。
モヒャシはオレに電話した。モヒャシは「カワヲロ、元気か?」と聞いた。オレは「おう、元気やぞ。忙しそうやな?」と聞いた。
モヒャシは、小説家の界隈でちょっとした有名人になっている。
オレは「モヒャシに電話をするか」と思った。
ところが、電話をしても繋がらない。呼び出し音はするが、出ないのである。
「忙しいのか」と思った。しかしようやく電話が繋がった。モヒャシは「ごめん、電話くれていたのに」と言った。
オレは「いやいや、忙しいところ悪い。どうしているかなって思ってさ」と言った。
モヒャシは「まぁ、何とか。かなり辛いけど」と言って笑った。売れっ子になると、辛いらしい。オレも辛くなるくらい仕事が欲しいが。
モヒャシは「ところで、今、急ぎの仕事はある?」と聞いた。オレは「とくに。小説のネット販売をしているだけ」と言った。
モヒャシは「実は、出版社が新しい小説家を探していて、カワヲロの名前を出したら、会いたいって言っていて」と言った。
オレは「まじで?それは助かる」と言った。モヒャシは「リモートになるけど、会ってもらっていいかな?」と聞いた。
オレは「もちろん。いつ?」と聞いた。モヒャシは「今、出版社の人が来ているので、このままリモートでいいかな?」と聞いた。
オレは「もちろんだ」と言った。オレは、部屋着だが、まぁ、いいだろう」と思った。
ほどなくして。
担当者は女性だった。リモートであるが、会議が始まった。
オレは「突然ですが、ギャラはどうなりますか?」と聞いた。モヒャシは「いきなり本題」と言って笑った。
担当者は「連載小説を5本であれば生活に支障はないと思います」と言った。
金額を聞いたオレは「いいですね。やりましょうか」と言った。担当者は「ただ」と前置きをして「弊社でテストライティングさせて頂きます」と言った。
オレは「テストですか。ギャラは出ますか?」と聞いた。担当者は「いえ、出ません」と言った。オレは「ならばテストを受ける必要はないですね。一円の価値にもならないモノは書きません」と言った。
担当者は「これを足がかりにすれば、モヒャシさんみたいになれる可能性があります」と言った。
オレは「それはあなたの意見。あと"可能性がある"と言いましたね。可能性の問題であれば、可能性が"ない"という流れもありますね」と言った。
担当者は「まぁ、そうですが。乗り気でないなら、お話は以上になります」と言った。
モヒャシは「カワヲロ、少し考えろ。連載小説を5本持てることが出来れば、生活に潤いが出るはずだ」と言った。オレは「まぁ、確かにそうだが」と言った。
モヒャシは「なら、オレがテストライティング代を払う。なので、テストを受けてみろ」と言った。
オレは「まぁ、受けてみるか」と言った。担当者は「1週間以内にメールに添付ファイルで送ってください」と言った。
オレは「分かりました。1週間以内に送ります。テーマは?」と聞いた。
担当者は、「とくにありません。自由です。3万字程度で構いません」と言った。オレは「分かりました」と一言。
リモートで会議を終え、担当者が帰っていった。モヒャシは「チャンス到来やな」と言って笑った。オレは「まぁ、あまり乗り気じゃないけどな」と言った。モヒャシは「え?なんで?」と聞いた。
オレは「かったるいし、好きなように書きたい。ただ、テストは自由のテーマなので、好き勝手書いてみる」と言った。
モヒャシは「できたら、ぼくに見せてね」と言った。オレは「いや、見せない。自分の実力がどのようなモノになるか試してみる」と言った。
モヒャシは「分かった。応援しているぞ」と言った。
オレは「まぁ、テスト代はいらないので」と言った。
モヒャシは「いやいや、払うよ」と言ったが、オレは「いや、いいので」と言った。
モヒャシは「分かった。では思うようにしてくれ」と言い、会話を終えた。
1週間後。
オレは結局できた。しかし、テストは不合格。"お祈り"メールが来た。「これで小説のネット販売に全力を注ぐ。
モヒャシから電話があった。「カワヲロ、まだチャンスはあるよ。最終選考まで残ったらしいので」と言った。
オレは「そうか。それだけで十分。実力があるみたいやな」と言った。モヒャシは「そうそう。そのまま頑張れ」と言った。
モヒャシに「ありがとね。ではまた」と言い、電話を終えた。
オレは、才能がある。これだけで十分だ。小説のネット販売に全力を注ぐ。これしかない。
そして
35歳の秋。
朝晩、かなり涼しくなり、日中でも薄手の長袖で大丈夫になった。夏は終わり、今年も海に行けなかった。
今、オレは市内のマンションに住んでいる。賃貸のワンルームマンションである。小説のネット販売を収益源にして、実は、出版社の仕事もしている。
モヒャシとサキプシコは結婚し、近所に住んでいる。彼らは色々あったが、ようやく幸せになれた。
キプラネは、実家で暮らしている。たまにリモートで会うが、まだまだ美人である。
オレは、キプラネが好きだ。出会った時から。しかし、恋愛は奥手で、未だ、告白できていない。
それもまた、いい。
ある日のリモートで。
今日は、4人で飲み会である。スマートフォンやパソコンでできる。
皆、スマートフォンだが。食べ物や飲み物は各自で用意。好きなものを好きなだけ用意できる。
開始は22時。普段着で参加できる。サキプシコとキプラネは化粧をしているようだが。
オレは、ジャージの上下。有名ブランドのジャージである。皆、部屋着であり、スーツを着ている者はいない。
モヒャシは「カワヲロ、そろそろ、なんとかした方がいいな」と言った。
オレは「え?なに?」と聞いた。サキプシコは「キプラネのこと好きやろ?キプラネ、ずっと待っているし」と言った。
キプラネは少し、顔が赤くなっている。これは酒なのか、気持ちによるモノなのかは分からない。
キプラネは「カワヲロ、好きなので付き合ってほしい」と言った。モヒャシは「どうなんだ、カワヲロ」と言った。
オレに追い込みをかけているのか。オレは「まぁ、付き合って良いけど、付き合い長いし、結婚するか」と言った。
キプラネは「いいの?私らの付き合いって10年近くあるから、お互いのことはよく知っているしね」と言った。
オレは「では、一緒に住むか。問題なければ、そのまま結婚だ」と言った。キプラネは「OK。ではそれで」と言った。
サキプシコは「良かった。カワヲロがらみで、相談に乗っていたから、ホッとした」と言った。
モヒャシは「カワヲロ、ようやく身を固めるか」と言った。オレは「その時が来たようだ」と言った。
最後は4人でリモート越しに乾杯をして、幕を閉じた。
しばらくして。
オレは、キプラネの実家に住んでいる。結婚はしていないが、キプラネが「お母さんを1人にするのは心配」と言った。
お母さんは「私のことはいいから、2人で住みなさい」と言った。
オレは「いえ、心配です。私たちと一緒に住みましょう」と言った。オレの両親は反対し、絶縁になったが、今はもう、後悔はない。
キプラネは「ありがとう。3人で暮らそう」と言った。オレは「まぁ、お義母さんなので当たり前だよ」と言った。
しかし、事態は一変する。オレは「あ、もう、小説の執筆ができない。バーンアウトした」と言った。
キプラネは「まぁ、貯金があるし私も働いているので大丈夫」と言った。オレは「少し旅に出る」と言い、家を出た。
オレは今、関西のある町に来た。駅前は賑やかで、商店街や駅直結のショッピングモールがある。飲食店もたくさんある。
昔は自然が好きだったが、今は都市が好きだ。駅周辺でビジネスホテルを探し、1泊1万円のビジネスホテルに来た。
金額は妥当か。あまり高くはない。1週間滞在し、小説の執筆をした。空気が変わると、執筆意欲が増すか。そんなことを思った。
適当に起きて、外に食べに行き、戻ってきて、適当に過ごす。小説の執筆もしながら、伸び伸びしていた。
オレは「そうだ、もう、家に帰るのはやめよう」と思った。
スマートフォンの電源を切り、自由に過ごした。おそらくキプラネとお義母さんのことで頭がいっぱいになっていたのだろう。
ただ「やはりスマートフォンの電源を落とすのは問題」と思い、電源を入れた。
すると、キプラネから電話がかかってきた。
「今どこ?」と聞いた。オレは「今、関西の町に来ているよ。あと3日で帰るので、ご心配なく」と言った。
キプラネは「了解。ではゆっくりしてね」と言った。オレは「ありがとう。そうする」と言い、電話を終えた。
「このまま、行方をくらましたらどうなるか。それはそれで楽しみだ」と思った。
しかし、それはできない。3日後、オレは「家に帰ってきた。2人は出迎え、オレを歓迎した。
お寿司やピザ、チキンなどが並び、オレを祝福した。お義母さんが「あんたら、2人で暮らせ」と言った。
キプラネは「なんで?」と聞いた。お義母さんは「カワヲロさんが、疲弊しているのは、私に気を使っているから。それがよくわかる」と言った。
オレは「いや、たまに外泊できたら十分なので」と言った。お義母さんは「いや、あんたら2人で暮らすべきだ」と言った。
キプラネは「いや、私はお母さんをほって出るわけにはいかない」と言った。オレは「では1番良いのは、私とキプラネが別れることですね」と言った。
キプラネは「そうなるね」と言った。お義母さんは何も言わない。
キプラネは「悪いけど、私たち分かれましょう」と言った。オレは「了解。では別れようか」と言った。
お義母さんは「あんたら、それでいいのか?」と聞いた。オレは「このまま結婚しても、わだかまりがあるので、別れて正解です」と言った。
キプラネも「そう。別れた方がいい」と言った。
キプラネは「それに気になる人がいて、別れたい」と言った。
オレは一瞬、眉間にシワを寄せた。しかし、それもまた、いい。
結果、オレらは別れたのである。
風の噂で、キプラネは、その人と結婚したらしい。同居で上手くいっているとか。
幸せになって欲しいものだ。
今、オレは、小説家で生きている。スマートフォンを片手に小説の執筆をするだろう。
オレは、都会の風景を見ながら、そう思った。