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予備試験で身につきやすい能力と法科大学院で身につきやすい能力

1 はじめに(記事の目的あるいは問題の所在)


司法試験を受験するためには、予備試験に合格するか、法科大学院を修了する必要がありますが、多くの受験生がどちらのルートを目指すか迷うと思います。私もそうでした。

昨今は予備試験の受験者数が増加傾向にあり、予備試験の難易度も上がってきていると感じます。
そのため、予備試験を過度に重視してそれのみを目指していると、予備試験合格まで時間がかかり、場合によっては法科大学院を修了した場合よりも多くの時間を費やすリスクがあります。

他方で、法科大学院修了者の司法試験合格率が低い現実からすれば、試験対策を法科大学院のみに依存するのも危険です。

私自身は、予備試験に合格した一方で、法科大学院も修了したので、両者の違いを身近に感じてきました。
そこで、今回は、予備試験合格ルートと法科大学院修了ルートのそれぞれのメリットを検討し、司法試験に合格し法律家になるという目的を達成する上で有効かつ適切な手段を探っていこうと思います。

2 予備試験

予備試験の合格を目指すメリットを見ていきましょう。

⑴  網羅的な知識の獲得

まず、短答7科目の勉強と論文8科目、口述2科目の勉強を通じて網羅的な知識を獲得することができます。これにより、司法試験でも、問題を解くために必要な条文や論点に辿り着きやすくなり、合格可能性が高まるメリットがあります。

⑵  大量の知識の詰め込み

次に、試験前の短期間に大量の知識を詰め込む力が身につきます。短答前なら一元化教材を一気に詰め込みますし、論文前なら典型論点の論証や定義を一気に暗記しますし、口述前なら要件事実や構成要件を暗記することになります。個人的にこれは意外と大事なんじゃないかと思っています。ロースクールでは予備試験ほど大規模に知識を詰め込む機会がないように思います。おそらく、このような大量の知識の詰め込みは既習入試が最後ではないでしょうか。
少し脱線しますが、知識を詰め込む機会の多さは、予備試験>ロースクール既習>ロースクール未修の順番であり、これが司法試験の合格率に繋がっているのではないかと思ったりします。

⑶  未知の問題に対する対応力

さらに、未知の問題が出たときの対応力が身につきます。本番はやはり緊張します。しかも、緊張で前日も質の良い睡眠は期待できません。つまり、普段通りの力を発揮するのは困難です。そんな最悪のコンディションで未知の問題に対処する必要があります。そのためには、常日頃、考える訓練をしたり、未知の問題が出た場合の処理手順を確立したりなど勉強法を様々に工夫することになるでしょう。その結果、未知の問題が出たときの対応力が身につきます。

⑷  答案作成力

最後に、時間内に答案を作成する力が身につきます。予備試験は、同じ試験時間内に複数の科目の答案を書かなければなりません。また、途中答案を書いてしまうとそれだけで他の受験生と差がつくおそれがあります。そのため、自分が問題を読んで答案構成をし答案を作成するのにどれくらいの時間がかかるかをあらかじめ把握しておくことや、事前に条文や要件、定義や論証、当てはめをどのナンバリング(第1→1→⑴→ア等)で論じるかをある程度と決めておくことなど、タイムマネジメントの工夫が必要になってきます。こうした事前準備をすることでおのずと時間内に答案を作成する力が身につきます。

3  法科大学院

次に、法科大学院に通うことで得られるメリットについてみていきましょう。

⑴  判例の深い理解

まず、判例を深く理解することができます。法科大学院では、教授と学生が判例について対話を重ねるソクラテスメソッドが採用されています。学生は、緊張感のある状態の中、教授に対して、判例を自分の言葉で説明しなければなりません。実は自分の言葉で説明をするという過程の中で判例に対する理解を深めることができます。また、法科大学院では、判例が事案を解決するためにどのような枠組みを用いたかに加えて、事実をどのように評価したのかも学べるので、答案の中の当てはめを充実できるようになります。このように、判例を深く理解することができます。

⑵  思考プロセス

次に、教授の思考プロセスが学べます。例えば、私自身は、ソクラテスでの教授の質問の順番から、民法については、条文を読んでそこから要件を抽出し必要に応じて定義や規範を考え事実を当てはめ結論を出すという思考プロセスを学びました。行政法については、レジュメの内容から、どの違法事由類型に該当するかを検討し、それを訴訟で主張していく場面においては訴訟要件(処分性や原告適格、訴えの利益等)を検討することなどを学びました。こうした思考プロセスは、未知の問題が出たときにも使えるのでとても有益でした。

⑶  最先端分野の問題意識

さらに、最先端分野の教授が持っている問題意識なども学べます。最新の判例を取り扱う講義もありました。知的好奇心を満たせたり、モチベーションを高められたりする点でメリットといえるかもしれません。

⑷  実務に触れる機会が多々あること

他にも、エクスターンシップや実務科目など実務に触れる機会が多々あります。エクスターンシップでは弁護士の方の仕事を間近で見聞でき、また、訴訟記録など洗練された書面を読み込む機会にも恵まれます。実務科目でも、裁判官や検察官の貴重な体験や考え方を教えていただけたりします。このような経験を通じて、自分が働いている姿をより具体的にイメージできるようになり、それがモチベーションを高めることにつながったのでメリットといえるかもしれません。

⑸  司法試験の受験資格が取得しやすい

予備試験の場合に比べて受験資格を取得しやすいのもメリットです。人によっては、予備試験に何年もかけて合格して司法試験の受験資格を取得するよりも、法科大学院に2年から3年かけて通い合格資格を取得する方が確実かつ容易といえるかもしれません。

⑹  自主ゼミを組みやすい

クラスでコミュニケーションを取る機会が多いので、自ずと自主ゼミを組みやすいです。自主ゼミでは問題演習をする機会を強制できたり、モチベーションを高めることができたりするので試験対策的な観点からみても有効です。また、司法試験合格後にも付き合いが続くことがありますし、それは一生の財産といえるかもしれません。法曹業界において、知り合いの同期が多くいることは、仕事をする上でもプラスになるでしょう。

4  結論

こうしてみると試験対策に特化しているのが予備試験ルートで、やや試験対策の要素が薄まり実務や学問の要素が混ざってくるのが法科大学院ルートといったところでしょうか。

ここで注意すべきなのは、法科大学院ルートだけでは、基礎的な法知識や考え方、答案の書き方、タイムマネジメントなど試験に役立つノウハウが身につきにくいということです。そのため、法科大学院に通う場合にも、予備試験の合格を目指すか、あるいは上記試験に役立つノウハウを身につけるべく別途対策を行う必要があります。私の経験上、法科大学院に試験対策を期待することはあまりオススメしないです。

そこで、①司法試験対策の観点から予備試験の合格を目指し、②勉強に対するモチベーションを高めるとともに、予備試験対策で培った知識や考え方を強化する観点から法科大学院に通うというルートが司法試験の合格を目指す上で有効かつ適切ではないかと思います(あくまで私見です)。

今回は以上となります。
なお、あくまで私の経験をベースに論じているので参考程度に留めていただけると幸いです。

それでは!

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