「エコファクトリー」「屋上緑化」「再エネ100%」溝の口の脱炭素アクションをリードするノクティの思考
溝の口駅直結の商業ビルで、溝の口の“顔”ともいえる「ノクティ」。地域住民の声を取り入れながら、環境問題改善に向けて積極的に取り組み、なかでも地下のゴミ分別エリアを明るいスペースにする「エコファクトリー」は注目されています。そういった環境問題に対する取り組みについて、ノクティの運営を行うみぞのくち新都市株式会社、総務部マネージャー渡辺博子さん、営業部チーフディレクター和泉克彦さんにお伺いしました。
地球温暖化、ごみ、生物多様性に対応
――環境問題改善のために行っている取り組みについて教えてください。
渡辺さん:「みんなの未来に向けて環境問題に飛躍的に取り組んでいこう」というシンプルなテーマを掲げて、地球温暖化、ごみ、生物多様性、というこの3つの柱で目標を設定しています。ここでいう「みんな」というのは、社員はもちろんテナントの皆さんやお客様、ノクティにかかわるすべての方、という意味です。具体的な取り組みとしては、まずCO2排出量の約9割は、電力使用が原因とされているため、地球温暖化に対しては電力使用量の削減が不可欠だと考えました。そこで2018年度から省エネルギー対策を進め、2021年度には「木質バイオマス発電」という再生可能エネルギー由来の電力利用100%を実現しました。これによって、温室効果ガスの排出量は2013年度に比べて2021年度は88パーセント減、省エネに努めたことで電力料金も24%削減となりました。
和泉さん:再生可能エネルギーの導入前には、「良い事ではあるが、お金がかかるのではないか」という社内の意見もありました。そこで、中期的に省エネ対策を並行したんです。相殺するとコスト削減につながりました。それを実証できたことは大きいですね。
――具体的に省エネはどのような対策を行ったのでしょうか?
渡辺さん:ノクティでは電力使用量のうち、約半分を空調で使用しています。そこで、施設内の大型の空調は、自動で温度調整するインバーター式にして、テナントごとの空調も新しいものに変えました。温度が効率的に調整されることで、電力使用量の削減につながりました。
和泉さん:環境省等が省エネ設備導入の補助金を積極的にPRされているので、その活用ができたこともよかったですね。大型の空調は施設内に約50台あるのですが、まず実験的に1台をインバーター化したところ、その1台では電力使用量が約5割減ったんです。そこで、50台の導入を決めて、全体では2割削減されました。
地元アーティスト・オキジュンコさんと叶えた明るい空間
――ごみ問題に対しては、『エコファクトリー』が注目されていますね。
渡辺さん:ごみ置き場をリニューアルして、暗いイメージを払拭した「エコファクトリー」として、視覚的にも楽しい印象になるような空間にしています。「エコファクトリー」へ続く廊下のイラストは川崎市在住のオキ ジュンコさんによって、壁に直接描かれたもの。ライトもテナントと同じ明るさにして、店頭と同じように音楽が流れています。
入口から入ると、最初にごみを計量するところからはじまります。これで、テナントごとのごみの排出量がわかります。
和泉さん:その先は床が色分けされていることで、計量したごみをどこに運ぶのか、一目でわかるようになっています。
細かいものまでどこに置くのかがわかりやすい、というのはとても重要です。せっかくごみを持って来ても、そこで混ざってしまうと意味がないですから。さらに、分別後も工夫されていて、発泡スチロールは溶かしてかたまりにする機械を導入しました。さらに匂いが気になる生ごみ置き場は冷蔵状態の部屋で、臭わない工夫がされています。
渡辺さん:廊下には、オキジュンコさんからの感謝のメッセージもあります。ノクティにかかわる「みんな」で取り組むことで、ゴミのリサイクル率が1年間でおよそ2倍と、飛躍的に向上しました。
――「生物多様性」の面での取り組みを教えてください。
渡辺さん:屋上の緑化を図りました。床はチップで作られた運動場になっているので、地元保育園の運動会の練習に貸し出したり、ハロウィンなど様々なイベントを開催したりと、地域の交流の場にもなっています。
和泉さん:改修する前は少ししか緑がなかったのですが、それでも生き物調査をしてもらった結果、蝶々や鳥など予想以上に生き物が来ていることがわかりました。それで、より緑を大事しないといけないという想いが強くなり、屋上広場を囲むように緑を増やしていきました。
また、最近ではノクティ1の1階に「ビオトープ」を作り始めました。2018年12月に高津区の児童の皆さんと環境活動発表をする場があって。市内の小学校ではビオトープが盛んで「私たちが頑張っているのに、なぜビオトープをやっていないの?」と質問があったんです。そこで、やるしかない、と。
渡辺さん:今はまだ試行錯誤しながらですが、水を替えたり、メダカにえさをあげたりと手入れをしながら作っているところです。
失敗してもいい、率先して活動したい
――こういった環境問題に取り組むことになったきっかけは何だったのでしょうか。
渡辺さん:まず、未来に溝の口の地域環境を残したいという思いがありました。また、開業以来、環境問題に取り組んできてはいましたが、2017年度、川崎市内の商業施設の中でゴミのリサイクル率がワーストワンになってしまったんです。アンケートを取ったところ、環境への関心の高いお客様から、さまざまな意見をいただいたことも、後押しになりました。
――ほかにも、環境問題やSDGsに関わるさまざまなイベントも行っていますね。
和泉さん:毎年恒例で、夏休みには親子で「エコファクトリー」の見学をしていただいているんです。今回はごみを計量器ではかる体験をしていただき、とても喜んでくださって。「家でも分別に取り組みたい」とか、「ペットボトルを持ち歩いているけど、水筒にしようかな」と、ありがたい感想文をいただきました。行動変容ってなかなか難しいですが、そういうところから1歩が始まるんだろうなと参加したご家族から教えてもらいました。
また、ガチャガチャのカプセルを使った工作のワークショップや、飲食店でフードロス削減を目的にした「食べ残し撲滅」イベントも行っています。
環境問題へ取り組みは、私たちだけが一生懸命やっていても、なかなか難しいので、一人でも多くの方に参加していただけたらと思っています。
――今後の環境問題への取り組みでのお考えを教えてください。
渡辺さん:地域社会の一員として、「みんな」と一緒に行動を変えて「みんな」の幸せを一緒に作っていくことです。ノクティは実験台で構わないので、率先して行動を起こして、それを他に真似していただいて、世の中に環境への取り組みが広がっていけば良いと考えています。
和泉さん:先日、川崎市は脱炭素先行地域に認定されました。川崎市の取り組みの中心地となるのが溝の口です。これまでの「脱炭素アクションみぞのくち」などの活動実績がけん引となって認定を受けたと聞いています。少しでも発信源になれるよう、失敗を恐れずに官民一体となって活動をしていきたいですね。
誰もがリサイクルについて楽しく考えるきっかけに
今回「エコファクトリー」を取材させていただき、オキ ジュンコさんのイラストのパワーが感じられる、明るい雰囲気にびっくり。実際にごみ捨ても体験させていただきましたが、ごみの計量から分別まで、初めてでも迷うことなく、それも楽しく行うことができました。何より「エコファクトリー」にいるスタッフの皆さんが、にこやかにお仕事をされている姿が印象的でした。いま、他の企業の方が参考にしようと見学に来ることも多いそう。これがモデルケースとして広がれば、もっと楽しくごみの分別やリサイクルについて考えるきっかけにもなりそうです。
書いた人・松井みほ子
川崎市在住。出版社でファッション誌の編集に携わる。その後は編集プロダクションにて書籍、WEB、広告など媒体やジャンルに関わらず、幅広く制作。現在はフリーランスで編集・ライターとして活動中。