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土産物の作法 11/8

岩手の話を聞いてもらったことだし、職場でお土産をあげたくなった。
宮沢賢治にゆかりの、光原社のくるみクッキー。
数には限りがあるし思い入れがあることもあるから、職員室で近くに座ってる人たち全員に配って歩くわけにはいかない。
タイミングをはかるのもとても変な話だと思いつつ、人が少なくなる時間帯かつ、ねらいを定めた人がいる時を選ぶ。
でもふと思う。この人にはあげたいけどこの人にはあげたくないって何なんだろう。
あげたくないっていうか、そもそもみんなが私から土産物をもらいたいに違いないと決めつけるのがかなり傲慢だ。もらう方だって困るだろう。そんなに話したことがない人もいる。好き嫌いだってあるはずだ。

気を落ち着けて、(あげたい人を含め)その場にいる人にもらってもらえばいいやと思いながらわたしに行く。偶然、同じ教科の人が続いた。わたしながら、尋ねられるまま嬉々として岩手のことしゃべっていると、近くに座っていたまだあげてない人がスーッとどこかに行くのが見えた。
あ、これは気を遣わせたかもしれない。もしかして、同一教科内でお土産ワイワイしてるのを尻目に、自分には回ってこないだろうと思ってそこに居続けるのがいたたまれなくなったのかもしれない。
と、出たまたみんなが私の岩手の土産物待ちわびてる設定!
自意識過剰?
考えすぎ?
でも。

何か悪いことしたなと思った。
たしかに「あげたい人」のなかには入ってなかったけど、席の並びの流れでそのままわたすつもりではあったんだ! わたすっていうかもらってもらうって意味!
いやいや、そんな、別にいらないって。っていう声もどこかから聞こえてくる。声は続けて、だから、私が気にすることが傲慢なのだと言う。
でも万が一、同じ場所にいる人に嫌な思いをさせていたらいけないなとも思う。
もっと何か、できたことがあったのではないか。
もっと明るく、さあみなさん!ほら!どうぞ!全員に!みたいなキャラで?
神様みたいだな。
そんなんになれたらな。

お土産って何なんだろう。わからない。

じゃあ初めから誰にもあげるなよ、まして職場なんかで。
職場に夢を持つなよ。
持つよ!1日何時間居ると思ってんだ!

私はあげたい気持ちを抑えられない。土産物屋で手に取りながら、この旅の話をみんなにしたいなと思う。だから私の荷物は多くなる。
買って職場に持っていってもわたせないこともある。わたすときはすごく緊張する。

あげる人とあげない人が出現するならあげない方がいいし、あげるならそこにいるみんなにあげるべきだ。それが土産物の作法じゃないか?

同一教科の人たちとの土産物ワイワイが終わって一人になり、少しくよくよしてから、席が遠くの好きな人にわたしに行った。岩手で行った場所の話をしてその多さに驚かれた後、「岩手いつか行ってみたいところの一つです~」と言ってくれた。素敵な会話ができて、やった!とは思ったが、つくづく、お土産はわたした方よりもらった側が気を遣うアイテムなんだな。わたす方は、あげたい気持ちと旅行話を聞いてもらうという欲求を満たせる。もらう側は果たして嬉しいのかな。だんだんわからなくなってきた。

さっきの人のことは(偶然かもしれないが)気になり続けている。もらっても困るなと思ってスッと立ち去ったのだったらいい。その可能性も考えたから、その人がしばらくして席に戻ってきた時にはもう渡さなかった。

土産物の作法は永遠にマスターできない気がする。

2022/11/8 めぐみ


昼食





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