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著者の死後に出された名著──名取洋之助『写真の読みかた』

今日紹介するのは、1963年に岩波新書から出ている名取洋之助『写真の読みかた』。

写真は文字に比べるとあいまいな記号です。一枚の写真はいろいろに読むことができる。読む人の経験、感情、興味によって、同じ写真でも、解釈が違い、受け取り方に差がある。

p.55 名取洋之助『写真の読みかた』

著者は「学校で読み書きや計算は学ぶが、写真の見方は教わらない」と指摘した上で、写真の読み方を伝える本を書いた。ただ、スルッと本が出たわけではなく、著者が忙しくて結構放置されていたらしいし、生前には出版されなかったそうだ。なので、世に出してくれた編集者さんには感謝をしたい。あまりに脱稿までに時間がかかったので、新書じゃなくて旧書じゃないか!とからかわれたというエピソードも付随している。面白い。

本書を通して、著者が繰り返し述べているのは2つ。1つめは、撮影者あるいは編集者の作為を見抜けるようになってほしい。2つめは、いかに自分の知っていることを通してしか写真を読み取っていないかに気づいてほしい。この本を読むと、世の中に出回っている写真は全て"嘘"だらけ、そんな気持ちになりそうだ。

ドイツに渡ってライカで報道写真を中心に仕事をするようになった著者が、帰国後に設立した日本工房や創刊した雑誌「NIPPON」(※1)のエピソードを含んだ自伝なども後半には出てくる。しかし、一章に彼の伝えたいことが全て書かれていると言っても差し支えないし、そこだけ読むのもいいと思う。「疲弊した医者のニュースを伝えるためにどうイメージが作られていたか」「戦地の恐怖を煽る写真がどう作られていたか」「アイドルの写真は微笑んでいるが、文豪は前を向いていないのはなぜか」などなど、撮る側の種明かしが繰り広げられるので、なんだ、そういう演出だったのか、と目を見張ることになる。

個人的には、過去の展覧会の解説も面白かった。MoMAのキュレーター、エドワード・スタイケンが企画した1950年代のマイルストーン的な写真展「ファミリー・オブ・マン展」について語っている場面は貴重だ。読むと企画展の作り方の勉強になる。「日本だけでも100万人以上の観客を動員した」(※2)と書かれていたが、本当の話なら腰が抜けそうな数字だ。

もっと話したいが、眠たいのでこの辺で終わりにしたい。この本は2017年時点で31刷にまで達している。これからも読み継がれる名著であることは間違いないだろう。

※1 国書刊行会から2002年に出された復刻版(金子隆一さんの監修)が約10万円以上の高値で売られているのをインターネットで見た。
※2 1954年に企画された写真展。詩人が序詞を書いているため、抒情的だし、この序詞を作家の吉田健一が訳していたのも驚いた。

2023年1月24日



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