フラワーシンドローム 第一話 治療代わりのファーストキス【創作大賞2024 漫画原作部門】
■ あらすじ
平凡な高校生すずはある日、自分の身体の異変に気づく。
汗が花びらに変わり、胸には見覚えのない花の形をした痣。
それはフローラシンドロームの「フローラ」の症状だった。
フローラシンドローム、必ずペアで発症する病。
全身に花を咲かせて死に至ってしまう「フローラ」フローラの特効薬になれる「アピス」
フローラを救うためには、
定期的にアピスがキスをすることが必要!?
フローラになったすずのアピスは、学園の王子の綾野颯だった!
颯はアピスとしてすずを助ける代わりに、恋愛を教えてほしいと頼む。
恋愛未経験×恋愛未経験
キスから始まる、絶対秘密のラブレッスン
新しい「運命のつがい」のカタチ
■ 登場人物
主人公 大久保すず(17)
少女漫画が好きな恋に憧れる高校二年生。
明るく素直でお人好し。
ある日突然フローラシンドロームを発症。
キスで命を救ってもらうかわりに恋愛を教えることに……!?
容姿:茶髪セミロングかわいい雰囲気
ヒーロー 綾野颯(18)
学校の王子。
親に強制されて物心ついた頃から芸能界に。
長年売れない子役だったが最近ブレイクした。
ほとんど表情が変わらないクールなひと。
人情深く天然なところがある。
女性が得意ではなく恋愛経験がない。
初めての恋愛物に挑戦するためにすずに恋愛レッスンを依頼する。
容姿:クールな雰囲気の黒髪
当て馬くん 明人(17)
すずの幼馴染で同じマンションに住んでいる。
容姿:茶髪爽やかわんこ系
友達 希実(17)
すずのクラスメイトで友達。
同じく漫画が大好き。容姿:黒髪ボブ
・四話以降に出てくる予定のひとたち
綾野母
元売れない女優。
自分の夢を颯に押し付けてきた。
容姿:美魔女系
ライバル 美山リリ(17)
人気アイドルグループに所属しながら演技力が評価されている。
颯のドラマのヒロイン役。
颯のことを好きになる。
容姿:ふわふわ系の美少女
■ 一話 治療代わりのファーストキス
プロローグ
〇ヒキ・誰もいない教室・放課後夕方
カーテンが揺れる窓際に颯(はやて)とすずが立っている。
モノローグ(一日一回。私はキスをする――。)
颯、すずに近づき肩に右手を乗せる。すず、息をのんでぎゅっと目をつぶる。
無表情の颯少しかがんで、すずの唇にそっとキスをする。
【表紙絵・タイトル】
第一話 治療代わりのファーストキス
〇すずの部屋・朝
着替えをしているすず。
シャツを着ようとして胸元に違和感を感じてじっと胸元を見る。
すず「あれ?」
胸元に花の痣があるのを発見する。
すず「こんなところに痣なんてあったっけ」
すず考える仕草をするが、思いつかない。
すず「どこかぶつけたかな。ってもうこんな時間!」
時計を見上げて慌てた表情になり、急いでシャツのボタンを留めて、部屋をバタバタと出ていく。
すずが走った後に花びらがいくつか舞う
すず(この痣が私の生活を一変させるなんて。この時は全く気付いていなかった)
〇ガヤガヤとした学校の教室・午後
窓際の席に座っているすずが荷物を机に入れている。
希実「すず、おはよー!」
すずの友達・希実(のぞみ)が登校して、すずと明人がいる席のもとにやってくる。
すず「おはよう」
明人「はよ」
希実「すずが貸してくれた漫画、すっごくよかった!」
すず「でしょ。クールな先輩がヒロインだけに見せる笑顔、最高だよね」
希実「最高だったー!」「これありがとうね」
二人は楽しそうに盛り上がる。
明人「お前らのときめき漫画ばっか」
呆れてる表情の明人。
希実、カバンから漫画を取り出してすずに返す。そしてさらに漫画を取り出してすずに渡す。
希実「今回、私が紹介する漫画はこれ!」
すず「花蜜病、運命のつがい。あ、これ最近流行ってるやつ?」
すずは渡された漫画を見る。ドレスを着た女性の瞳から花びらがこぼれている表紙。
希実「そうそう、お伽話が元なんだって」
すず「わあ、ありがとう」
すず嬉しそうにパラパラと漫画をめくろうとすると、クラスメイトがきゃあきゃあと騒ぎながら窓辺に押し寄せてくる。
クラスメイト1「颯先輩がきたみたい!」
クラスメイト2「はあ、ほんとかっこいい」
すず自分の席から窓の外を見る。窓の外の颯のアップ。
すず(綾野颯先輩。彼を知らない人はこの学校にはいない。モデルとして活動していて、最近ドラマにも出始めたみたい)
希実「わ、たくさん人が集まってきた」
歩いている颯に生徒たちが集まっている。無表情で歩き続ける颯。
希実「目の保養だよねー」
明人「すずもあーいうのがすきなわけ?」
すず「んー私には関係のない人だけど!
少女漫画のヒーローみたいな人、現実にもいるんだなって思えてちょっと嬉しい」
高校二年生になって初恋もまだな私だけど。いつか私も、漫画みたいな素敵な恋が出来たらいいなあ)
窓の外をぼんやりと見つめながら夢を膨らませるすず。デフォルメ絵のすずが漫画をぎゅっと抱きしめる
すず(でも今の私は漫画があればそれでいいもんね)
〇すずの部屋・夕方
すず、ベッドに正座している。希実から借りた漫画に一礼する。
すず(今日一日これを読むのずっと楽しみにしてたんだよね♪)
崇め終わると、わくわくして漫画を開いていく。
すず(むかしむかし花蜜病という奇病がありました。)
漫画のイラスト。中世ヨーロッパの雰囲気のドレス姿の女性が涙をこぼすと、花びらになる。
すず(花蜜病は、人間が花に変わってしまう病気。最初は香水のような花の香り。
進行すると涙や汗が花びらに変わる。次は爪や髪など身体の一部が花に変わる。
そして末期になると身体中に花が咲き誇り、花がすべて散ると人間ごと消えてしまう)
漫画のイラスト。全身に花が咲いているドレス姿の女性→花びらとドレスだけ残って人間の姿がなくなる。
すず(必ずペアで発症する病。症状が現れるのは『フローラ』だけ。
もう片方の『アピス』は病を患うのではなく『フローラ』の特効薬となる。
『アピス』がキスをすると毒素を吸い出すことができ、進行を止められる)
漫画のイラスト。ドレスの女性にキスをしている王子様のような男。
二人の背景には模様が描かれていて、女性の後ろには薔薇の模様。男性の後ろには六角形の模様。
すず(あれ……? 花の痣……?)
すず「いたっ」
紙で指を切るすず。血のかわりに花びらが数枚出てくる。
すず「なに……これ……」
すずが驚いて見つめたところで、扉をノックする音と同時にすず母が慌てた様子で入ってくる。
すず母「すず。大事な話があるとお客様が来ているの。下まで来てくれる?」
すず母、思いつめた表情。すず、動揺しながらも頷く。
〇すずの家のリビング
スーツ姿の男女がダイニングテーブルに座っている。その後ろには、白衣を着た男女二人組も立っていた。
ただごとではない異様な空気にすず不審に思いながらもテーブルに座る。隣に座った母の顔色は悪く小さく震えていた。
スーツ姿の男「はじめまして、大久保すずさん。私たちは国立保健研究所の者です。私は山田と申します」
真面目そうな中年男性がすずに微笑みかけながら名刺を渡す。すず、戸惑う表情。
山田「単刀直入に申し上げます。あなたがフローラシンドロームの『フローラ』だということがわかりました」
すず「フローラ……?」
すず(その名前、どこかで……)
すず「あ、花蜜病」
すずが思いだして呟くと、男性はニコッとすずに笑いかけた。
山田「ご存じでしたか。そうです、その花蜜病と同じです」
すず驚いた顔になる。焦った表情で
すず「それで……血が……」
山田「心当たりがあるようですね?」
すず「でもこれはお伽話では……」
山田「いえ。現代にもあるのです。年に一組ほどだったのですが。ここ数年で年間二十組ほど見つかるようになりました」
スーツ姿の女性「そのため周知目的で最近花蜜病の漫画を発刊していたのです」
山田「いや、あなたが読んでいてよかった。話が早い」
クールな表情の三十代の女性とにこやかな山田。すずは目を見開いたまま。
すず「つまり、えっと……」
山田「そうです。あなたはこのままでは、全身が花に変わり死んでしまいます」
すずとすず親、真っ青になる。
すず母「そんな……どうしたら……!」
山田「大丈夫ですよ。この病気は必ずペアで発症します。あなたのペアの――アピスがいます」
すず(そこからは内容を淡々と伝えられた)
すずが黒塗りシルエットとキスをしているイラスト。
すず(フローラである私は定期的にアピスとキスしないといけないこと)
薬と注射器のイラスト。
すず(過去は永続的にキスをしなくてはいけなかったけど、今は早ければ三ヵ月ほどで特注の特効薬が完成すること)
すず(だから数ヵ月の間だけ、キスをする必要があること)
すず母「そんな……すずは大丈夫なんですか……?」
山田「はい。相手のアピスもすぐに感知できるようになっています。数日で見つかるかと」
すず青くなりながら黙っている。
山田「では今後の特効薬開発のためにこの場で採血などをいたしますね」
山田はニコッとすずに笑顔を向けて、後ろに控えていた白衣の男女に指示を出す。
事務的に手続きを進める山田。すずの採血をするために動く白衣の人間たち。
すず茫然としながらそれを見つめている。
すず(それは私の人生が一変した瞬間だった)
〇翌朝・学校の廊下
ほとんど人がいない廊下をすずはうつむきながら歩いている。
すず(フローラシンドローム……)
漫画のイラストを思い出す。肉体が消えてドレスと花びらだけになったイラスト。
すず(どうしてこんなことに……)
すずの目から涙が……流れたのは涙ではなく花びらだった。
すず(……本当に、フローラなんだ)
自分からこぼれた花びらを一枚手にとるすず。
すず(……!)
突然その場に花の香りがむせかえる。
驚いた表情のすずが周りを見渡すと、一人の男性が立っていた。
男性も驚いたようにこちらを見つめている。
その男性が近づいてきて、すずは颯だと気づく。
すず(綾野……先輩だ)
すずの近くまでやってきた颯、すずの瞳から落ちた花びらを拾う。
すず「あ……これは……」
目を手で隠して、取り繕うすず。
颯はすずの手を顔から外して、瞳から落ちる花びらを見つめる。
すず「これは違うんです、えっと」
颯「こっちにきて」
颯、すずを促して進んでいき、空き教室に入る。
すず、困惑しつつも颯の後をついていく。
〇空き教室
机が並んでいるだけの空き教室。
すず(なんで綾野先輩と……それからこの香りは?)
颯、教室の奥まで進むとおもむろにシャツのボタンを外し始める。
すず「えっ、ええっ? なにして……」
颯の行動にあわてふためくすず。
颯「あんた、フローラだろ、俺の」
颯みっつほどボタンを外したところで胸元を見せる。
そこには六角形の痣があった。
すず(綾野先輩が、私のアピス……?)
颯「フローラとアピスが出会えばわかるっていうのは本当なんだな」
颯、真面目な顔で呟いている。
すず「出会えばわかる、というのは」
颯「この香り、わかんない?」
すず「それはわかります!……アピスとフローラだから……?」
颯は頷く。
すず、むせかおる花の香りに納得する。
颯、すずの元までやってきて、すずの顎に手をかける。
颯の胸元が顔目前まで迫り、すずは慌てる。
すず「あの、えっと、なにを」
真っ赤になってしどろもどろになるすず。
颯「キス。あんた、症状出てるんだろ」
颯、すずの顔に貼り付いていた花びらを取り、見せる。
颯「国の手続きする前に一回しといた方がいいと思うけど?」
すず(そういえば……一度爪や髪が花に変わってしまったら、もう戻らない)
颯「どうする?」
すず「……お願いします!」
すず、ガチガチに固まりながら気を付けをする。震える手をもう片方の手で抑えている。
颯、すずの肩に手をかける。すずの震えに気づく表情。すず、ぎゅっと目をつむる。颯は顔を近づけていく。
すず(憧れていたファーストキスがこんな形で……)
すぐに顔をはなすと、すずは涙目になっている。
すずの目からぽろりと涙が落ちる。
すず「あ、涙に戻ってる」
ほっとしているすずの涙を颯も観察するように見ている。
颯「泣くほど嫌だった?」
すず「す、すみません……!そういうわけじゃなく! ほっとしたり、いろんな気持ちで……失礼でしたよね、気に障ったならすみません」
すずが慌ててぺこぺこと謝る。
すず「特効薬が出来るまで協力してもらうことになってすみません……!」
颯「国からの依頼だから別に」
すず「ありがとうございます!」
颯、ポケットからスマホを取り出し、すずに見せる。
颯「連絡先。俺、学校に来ない日もあるから」
すず「ありがとうございます!」
すずもスマホを取り出し、二人は連絡先を交換する。
すず(二、三日に一度はキスしないといけないんだった)
すず「連絡先、数カ月間大切に預からせていただきます! 薬が出来上がればこちらはきちんと削除しますので……!」
颯、意外な顔ですずを見つめる。
すず「本当に今回はご迷惑おかけします! アピス側にはメリットもないのに、忙しい先輩を煩わせてすみません!」
颯「変な病気になったのはお互い様でしょ。俺もあんたに死なれたら気まずいし」
すず「すみませ」
颯「謝るの禁止」
考えるような仕草になる颯。
颯「でも確かに俺はメリットがない」
すず「ですよね。アンバランスな病気ですよね」
颯「じゃあ、俺のお願い聞いてくれる?」
颯、ほんのわずかに口角を上げてすずを見上げる。
颯「俺に恋を教えてよ」
■ 二話
■ 三話
Illust:aki様
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