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坂本花織はアスリートである。


タイトルの“アスリート”なんですが……ぱっと見フィギュアスケートの選手には、あんまりアスリート感ってないですよね?
女子選手の場合はなおさらで、煌びやかな衣装で優雅に氷上を舞う姿と、その言葉はあまり馴染みません。

…が、普通に考えるなら、国内外のGPシリーズに出場するようなレベルのトップ選手の日常的な練習風景は、黙々とルーティンをこなした後は自分をとことん追い込む、もろアスリートのそれだと思うのですけどね。

そもそも氷上ではスピードも半端なく、ジャンプ等も失敗すれば大きな怪我をしやすい危険と隣り合わせです。
高難度のプログラムになればなるほど、練習の前後には毎回必ず地味〜な基礎トレーニングや反復練習なんかがついて回るはずです。
でも「本番」のリンクに立った選手の姿からは、あんまりそういう部分は想像できませんよね?

また、メダルを手にした選手の歓喜の表情も、失意と後悔に頬を濡らす涙も、全てが等しく美しいのは他のスポーツと同じですが、たとえ会心の演技が出来ても、フィギュア選手に許されるのは“小さくガッツポーズ”するぐらいです。
一般的なスポーツと同じように、その場(リンク上)で飛び跳ねて大喜びしたり、拳を高々と突き上げて勝利の雄叫びをあげるなどもってのほかです。
煌びやかな衣装も、演技が終わると観客席に向かってポーズをとりながら礼をするのも、フィギュアが社交ダンスなんかと同一のカテゴリに分類される競技スポーツだからでしょう。

そんなフィギュアの選手ですが、技術や完成度の高さから、中には氷上を華麗に舞う姿がアスリートそのものに見えてしまう選手がいます。
例えばもう引退しちゃった(たぶん?)ネイサン・チェンのスケーティングは、高い技術力にバレエ要素を織り混ぜた芸術性の高さだけでなく、鍛え抜かれたアスリートっぽさをも感じさせました。

これはわたしの勝手な妄想なんですが、チェン君のコーチは見るからに気難しそうというか、めちゃ厳しそうな雰囲気のひと(本当のところは知らないけど)でした。
だとすると、選手は普段からなるべくコーチに怒られないようにしようとするはずです。
チェン君もアスリートのごとく毎日ひたすら黙々とルーティンをこなし、生真面目に基礎練やジャンプの練習を繰り返し、でも時には別の専門コーチのもとでのバレエのレッスンを密かに楽しんでいたり……なんて勝手な想像をしつつ応援してたのです。
彼のパフォーマンスもプログラムも、それらを支える技術も、そうした徹底した努力や管理なしには到達できないレベルの完成度でしたからね。

坂本花織さんも、むろん地道なトレーニングや厳しい練習に取り組んでるんだろうけど、こちらはふとした拍子に冗談や笑い声がリンクに飛び交っていそうな、楽しげな笑顔あふれる練習風景が思い浮かぶんですよね。
これはもう当人やコーチのキャラクターの為せるわざで、指導者と選手がいい関係を築けているかどうかは見ていればわかるし、本番での精神的な支えや気持ちの余裕にも大きく関係しているようです。
男子トップの宇野昌磨とランビエールコーチのコンビも、そこかしこで微笑ましいやりとりや笑顔が垣間見られ、不調の時でさえ、悲壮感とは無縁の楽しげな雰囲気を感じさせます。

これとまさに真逆の印象なのが、プーチンがウクライナに戦争をしかけたせいで世界からハブられたロシアの若いフィギュア選手たちです。
たぶん彼女たちは幼い頃から厳しいコーチのもとで口答えすらも許されず、迂闊に冗談も言えないぐらい徹底的に管理や指導されているのでは?
私的見解ですが、試合中のコーチとのやりとりや張りつめた雰囲気からしても、そんな印象が否めませんでした。
現在の日本フィギュアのトップクラスの選手の練習環境が、そんな殺伐とした代物と無縁であるのはとても良いことだと思いますね。


ところで、指導方法は異なれど、ロシアの若い女子選手たちが目指す方向性は、じつは宇野昌磨やネイサン・チェンたち男子選手と同じです。
すなわち高得点の獲れる多彩な4回転ジャンプを数多く跳ぶことをメインに組まれた高難度プログラムです。

おそらくそのせいだと思われるのですが、だからロシアの選手たちの真逆をゆく坂本花織のプログラムと演技がぶっちぎりの高得点を叩き出したことに、疑問をもったり納得できない人達が一部にはいるようです。
坂本花織の凄さは「何種類の4回転ジャンプをいくつ跳んだら勝ち」なんてところにはないんだよ〜ん…という部分にこそあるのですけどね。

フィギュアのトップ選手に求められるのは、「レベル4を獲れる技術の獲得と完成度」はもちろん、ほかには「高い芸術性」や「高い表現力」だの「高いスケーティング技術」等です。
がしかし、この『高い』は必ずしも『高難度を意味しない』のです。
そこらへんが、フィギュアスケートが一般的なスポーツとは一線を画する部分で、ようするに「高難度のジャンプやプログラムのほうが高得点を獲れる」けれど、「高得点を獲れる要素は他にもある」わけです。

たしかに誰にも簡単には跳べないようなジャンプをいくつも決められるのはスゴいけれど、誰にも簡単には真似できないクオリティのスケーティング技術だって同じくらいスゴいのです。
だって、「簡単には跳べない」のも「簡単には真似できない」のも、当人の努力と研鑽の末に到達して手にしたもので、本当にスゴいのはワザでも技術でもなく「そこまで到達したこと」じたいなのですから。

坂本花織の場合は、ジャンプの飛距離や高さ、エッジワークなんかが、ダントツで群を抜いて優れているのです。
タイトルでも言ってるように、彼女はアスリート(レベル)なんです。
女子選手のなかに男子が混じってるぐらい圧倒的なレベルというか、とにかく一般的な女子選手とは別次元なんですね。しかもほとんどミスしないわけで、だからトリプルアクセルを跳ばなくても高得点なのです。
あれを真似ようと思ったら、まずは徹底的に身体を鍛えるところから始めないと無理でしょう(鍛えてもフツーの女子には無理っぽいかも?)

ようするに「めざす方向性」がどこにあるかの違いなだけで、坂本花織は彼女が目指したその部分を半端ないレベルにまで極めてみせたのです。
これは言うほど簡単なことではありません。
無茶な練習をしすぎて大きな怪我をする選手が後を絶たないように、誰でも闇雲に鍛えればアスリートレベルになれるというものでもないからです。

これを読んだらムッとするファンもいるのを承知で書いてしまうと、わたしは試合を欠場するしかないような怪我をしないのも選手の技術のうちだと思うのです。
そういう部分でも坂本花織や宇野昌磨をわたしは高く評価しています。
ただ、選手の突発的な事故によらない大きな怪我の場合は、異なる視点からも原因を考える必要があるのではないでしょうか。
例えば、若い選手を無責任に煽って精神的に追い込むメディアの愚劣な戦略や、SNSで暴走する身勝手な一部のファンの言動にも責任の一端はあるのではないか、とわたしは考えるのですけどね。


今回、坂本花織はこれで3回めの全日本制覇を果たし、宇野昌磨に至っては5度めの優勝となりました。
誰が何を言おうとも、その実力は本物だってことです。
全日本男子の優勝は、ここ十年はずっと羽生結弦と宇野昌磨とで独占していることをもっと周知するべきだと思うのはわたしだけですか?

2連覇の坂本花織のはじめての全日本制覇は、トリプルアクセルで一躍メディアの脚光を浴び、当時メディアがイチオシしていた紀平梨花を破っての初優勝でした。
…が、全日本の後、毎度視聴率目当ての特集を組む某番組の某おやじコメンテーターが、優勝した坂本そっちのけで紀平の名を連呼し、「残念」や「惜しい」を連発したこと、番組のテロップに「紀平、今回は銀」の文字が並んでムッとしたのを今でも覚えています。
「キヒラキヒラと癇に障る連中だな。勝ったのは坂本花織だっつーの!」って、テレビ画面に向かって言ってやったことも、今となっては懐かしい思い出ですけどね(笑)

ま、とりあえず、
坂本花織の全日本2連覇と宇野昌磨の5回めの全日本優勝に乾杯( ^ ^ )/■


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