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1993年2月 奥鬼怒湯治
【まとめ】初夏に訪れた奥鬼怒が忘れられず、今度は冬の奥鬼怒温泉に行ってみたい、と悶々と過ごし、ついに決行。初湯治の記録はしかしなぜか途中まで……
1992年6月に友人Mと山小屋的温泉一泊した感動が冷めやらず。
今度は冬に行ってみたい、でも山には上りたくない登れない、と悩んだ末、今度は同じくインドア派の友人Sを誘い、前回訪れた宿の近くで行けそうなところを探して予約をする。
前回、女夫渕から徒歩途中にみえた八丁ノ湯に予約が取れて一泊が決まった。
電車は6月に乗ったものと同じく、また、栗山村営バスにて女夫渕まで。
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鬼怒川温泉駅からしばらくは雪がなかったが、途中の休憩箇所、ばんでい餅売場のあったあたりではかなりの量だった。
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後ろの席のおじさんがひとり、途中の停留所で
「ちょっと止まって、いいだろ?」とバスを停めさせて降りる。
なにかとおもったらどこかの家の前庭で用を足している。バスの乗客はそれぞれ目のやり場に困り、静まっていた。
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女夫渕口に到着。
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相変わらず雪にテンション上がるmeだが、友人Sは北関東在住歴あり、うんうん、と生温かい目で見守ってくれている。
今度は八丁ノ湯専用のマイクロバスに乗る。お客は私たち含め7名。
チェーン装着で雪の山道をひた走る。
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景色が明らかにモノクロ世界に変わってきた。
前回上った登山道から沢の対岸にある林道らしい。白い山に木々のかげがチャコールグレーに形を刻み、遠くは靄がかったように白く霞んでいる。
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がけには雪の層ができている。下の地面からせり出した雪の下につららが下がっている。
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つららが色々。のきつらら、がけつらら、トンネルつららなどなど。
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30分ほど走って加仁湯を通り過ぎ、やがて、谷の下を見下ろした当たりに、八丁ノ湯のロッジが黒い影を見せ始めた。
別世界に迷い込んだような気分になる。
始め予約してあったのはログハウスだったが、畳部屋の本館に空きがあるというので替えてもらう。8畳+床2畳、テレビラジオ電話なし。電気ポットと、緑茶があった。
レストハウスまで降りてお昼ごはん。
時間が早かったのか、ほとんどお客がいない。
売店でカップ麺を買うか、カレーライスを頼むかの二択だったので、カレーを頼む。
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わざわざ温めてくれたものを、レストハウスの外にあるテラスでいただく。
タマネギが少し固いが、ジャガイモが美味い。胃の腑に沁みる。
お次は露天風呂ですな。湯治の基本?
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途中で拾ったつらら(30センチくらい)や雪と一緒に入る。
雪は深いが、ずっと入っていたらちゃんと身体が温まっていた。
部屋に帰って、さて何をしよう。
Sはお部屋でゆっくりと読書をする、と。いいねいいね~。
そして私はちょっくら外に雪見物に行ってくるよ、と。
ロッジの軒から下がるつららに驚く。長いものでは1mはありそう。
雪山登山の人びとがピッケルもって通り過ぎて行く。
私は今回はここまででじゅうぶんです。
それでも少し歩いてみる。
加仁湯の上に登り、手白沢方面への分岐という標識を見つける。
道はどこにあるのか、雪に埋もれていてよく分からない。
日光澤の方も車道にあまり車の通った跡がない。
林道にかかる橋を見物。
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橋の上にうっすらとスキーのような跡が見られたが、他には誰も通った様子はない。雪はガードレールギリギリまで積もっていた。
番小屋?は雪の重みでひしゃげていた。
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帰り道、わずかに小鳥のさえずりが聞こえたがあとは、自分が雪を踏む音と沢の音のみ。とても静か。
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宿に着いたらやっぱり身体が冷えてしまっていた。今度は内風呂に。
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亀甲型のお風呂で正面が開いていてガケになっている。もちろん、雪もある。透明なお湯が豊富に流れ落ちて、少しばかり硫黄の匂い。
部屋に戻り、すっかりゆったりとくつろぐ。もしかしたらうたた寝でもしたかも。
そして……
少し驚いたことに、ここから先の写真やメモ書きがひとつも残っていない。
一泊したはずなので、夕飯をいただいただろうし、Sちゃんはさらに読書にいそしんだであろうし、私も何かしていたかと思うし、翌日だってここから帰っていったはずだ。
しかし、どうしたことなのか、記録はおろか記憶すらほとんど無いのだ。
あの厳寒の、白とチャコールグレイの景色の中で、温かい湯に浸りながらまだ、うたた寝をしているのかも知れない。
おしまい