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非情な戦場の行き先は?映画「モスル~あるSWAT部隊の戦い~」
11月21日に広島バルト11で「モスル~あるSWAT部隊の戦い~」を見ました。アメリカ映画であるものの、主演者は皆アラブ人で描かれた珍しい本作、当時を描くにあたり良いキャスティングでした。
そんな本作を紹介します。
IS(イスラム国)の動乱
「モスル~あるSWAT部隊の戦い~」で描かれている戦争は2014年から激化したイラクにおけるIS(イスラム国、作中ではダーイッシュと指している)の戦争である。
イスラム過激派であるISはシリアとイラクの国境から勢力を広げる、2011年にオバマ米大統領がイラクからの米軍撤退を実現する為に戦闘部隊を撤収させた事でイラクの治安や防衛の能力が低下した事もあってISはその支配地域を拡大させた。
ISの侵攻にイラクの軍と警察は敗退、イラクの北部を支配しバクダッドに迫る勢いだった。2014年8月にアメリカが軍事介入してイラク側が反撃に転じる。2017年11月にはイラクにおけるISの拠点を全てイラク政府軍は奪還した。
現在ISは地下に潜りテロ活動を続け、アフガニスタンやアフリカなどへISは活動を移している。
本作は2014年6月にISが占領したイラク北部の都市モスルを2017年に奪還した時が舞台となります。
SWAT部隊と新人警官
イラク政府軍による奪還作戦が進むモスルで警官カーワは相棒に叔父のチームでISのメンバーを逮捕していた。
しかしISとの戦闘で叔父は死に、持っている武器である拳銃の弾が尽きて窮地に陥る。そんなピンチを救ったのがシャーゼムが率いるSWATだった。
シャーゼムはカーワがISによって叔父が殺されたと知ると、半ば強引にSWATへカーワを入れます。
警官になって2ヶ月の新人警官カーワはSWATの一員となりシャーゼム達と戦う事になる。
内容としては事情をよく知らない主人公が新たな場所で悪戦苦闘すると言う内容
近い作品として映画「フューリー」を思い出します。
ブラッドピットが演じる個性の強いウォー・ダディこと戦車小隊長ドン・コリアーと新兵ノーマン・エリソンの組み合わせと言う意味では近いものを感じる。
カーワはシャーゼム達が政府軍や警察などイラクの公的機関から逃げるように行動している事、どんなに仲間が倒れ戦力が減っても「任務」を続けようとしている事に疑問を感じます。
しかしシャーゼムも他のSWAT隊員も訳を話しません。
果たしてシャーゼム達の「任務」とは何か?がストーリーの軸となります。
ミリタリー好きが見る戦争映画としてもAK同士で撃ち合う銃撃戦に、成功しない攻撃も描かれるなど見応えはあります。
100分で描かれたISとの戦い
この作品は本編が銃撃戦から始まり、モスルでの市街戦が大部分となる。
物陰が多い市街地戦なので何処からISの戦闘員が現れたり、撃ってくるのではと見ている方も緊張感がある場面が続く。
戦闘シーンでは本作ではドローンに攻撃される場面が目新しい。
シャーゼム達が使う車輛であるハンヴィーがISのドローンにより撃破されると、シャーゼム達は銃を空に向けてドローンに対抗しようとします。
ドローンのローターが回るブーンと言う音が場面に不気味さを増します。この場面は昨年のナゴルノ・カラバフを巡るアルメニアとアゼルバイジャンの紛争でドローンが大量に使用された事を思い出させます。
作中ではシャーゼムと取引をするイラン特殊部隊が登場します。
この場面でシャーゼムは煙草と交換で弾薬を手に入れます。あえてこの場面にイランの登場人物を出すのはISとの戦いにイランもイラクやアメリカの対IS陣営で戦ったからです。そうした背景もあえて描かれている。
またISの非道さも描かれ、シャーゼム達が住宅に入るとISにより殺害されたと思われる遺体と遭遇する。またモスルの街から出て行く住民へ銃撃する場面も描かれている。
この非道さがシャーゼム達の戦う理由になっています。
シャーゼム達SWAT隊員は誰もがISに家族を殺害された人達だった。主人公であるカーワが入れたのもISによって叔父を失ったからである。
SWATの全員がISへの復讐に燃えIS戦闘員へは厳しい態度に出る。あえて止めを刺さずに苦しませる為に瀕死のIS戦闘員を放置します。
まさにこの映画はモスルなどISとの戦争で起きた出来事が描かれています。
悲惨な戦い、戦火に追われる人々、他国から来た友軍、そうした要素を交え自らの任務を果たすべく突き進むシャーゼム達
この映画はラストもモスルをはじめISとの戦争がどうであったかを描いている。
過去と言うにはまだ遠くない、つい最近であり現在に続く悲劇を描いた良作です。