映画「オフィサー・アンド・スパイ」を見て
8月20日に福山駅前シネマモードで映画「オフィサー・アンド・スパイ」を見ました。
19世紀フランスを再現した映像空間は歴史作品が好きなら引き込まれますね。
ドレフュスが遭う理不尽さと、ピカールが追う真実と言う展開が間延び無く進むので見易い作品でしたね。
しかし、史実が基なので当時のどうしようも無い空気をより感じられる良い作品でした。
とんでもない冤罪事件
本作は実際に起きた1894年の「ドレフュス事件」を元にしている。
(日本では明治時代で日清戦争が起きた年に起きた事件である)
この事件はフランス陸軍のアルフレド・ドレフュス大尉がドイツへ軍事機密を流したスパイ行為の罪があったとして、軍籍の剥奪をされアフリカ沖の島で軟禁状態にされる。
映画はパリの陸軍士官学校でドレフュスが軍籍を剥奪される儀式が行われる場面から始まる。
並ぶ大勢の兵士の前でドレフュスは軍法会議で軍籍を剥奪すると告げられ、階級章や士官である事を示す軍服の装飾を剥ぎ取られ、サーベルを折られます。
この儀式は市民も見物していて、スパイ行為をした反逆者として断罪されたドレフュスは尊厳を奪われ晒し物となってしまう。
それでもドレフュスは「私は無実だ!」と叫びます。
ここまでに至る流れは映画で描かれている。これが酷い流れだ。
ドイツへ情報を流した容疑者として「Dの奴」と言う存在が浮上する。
そのドイツへ流れた機密情報が参謀本部に居る軍人しか知り得ないとして絞り込むまでは良いものの、名前の頭文字のDが合致するドレフュスが犯人だと簡単に断定します。
またドレフュスがユダヤ人である事で、犯人として断定する事に躊躇いが無くなる。
裁判で証拠として出された筆跡鑑定もドレフュスが書いたとするには違いがあるものの、ドレフュスは有罪とされ、軍人では無くなり重罪人として島流しにされてしまう。
これが史実であると言うのだから頭が痛い。
ピカールの正義とは?
本作の主人公はフランス陸軍の中佐であるジョルジュ・ピカールだ。
彼はスパイを探し出す防諜部長に就任します。
ここでピカールはエステラジー少佐が情報を流しているのではと疑いを持ち、捜査を進めます。その捜査でピカールはドレフュスがスパイでは無い証拠と遭遇してしまう。
そこからピカールはドレフュスは犯人では無く、エステラジーが犯人だと上官のゴンス将軍や陸軍大臣のビヨ将軍へ報告する。
しかし、上官と陸軍大臣はドレフュスの件は終わった事だから、これ以上の手出しはするなとピカールへ命じます。
それでもピカールは新聞社や知識人などへ、ドレフュスについて情報を流し陸軍における不正を糾弾する動きに出る。
これによってピカールは防諜部長を解かれ北アフリカなどへ送られる左遷を受け、それはピカールと不倫をしていたポーリーヌ夫人との関係も暴かれるまでになります。
他任も巻き込み、遂には自身も逮捕される事となるピカールの正義とは何か?
ピカールは士官学校で教官をしている時に、生徒であったドレフュスに対して「ユダヤ人は嫌いであるが、君の評価にユダヤ人だからと言う理由で下げた訳では無い」と差別意識があるのは隠さない。
また、夫を持つ人妻との不倫関係を続ける。
ピカールは清廉潔白では無い。だが、ドレフュスの冤罪について上官に背く形で晴らそうと動きます。
これはドレフュスがかつて教えた生徒だったからとは違うかもしれない。
明らかに疑いがあるエステラジー少佐を放置したまま、ドレフュスを有罪にして終わらせる陸軍上層部に対する怒りだろうと思われる。
ピカールにとっては長く働く陸軍を守る為の行動が、ドレフュスの冤罪を晴らす行動に繋がっただけに過ぎないのかもしれない。
当時のフランスが1870年から1871年に起きた普仏戦争で負けてから20年以上過ぎたとはいえ、ドイツに対する軍事的な警戒心は高かったと思う。
ドレフュス事件から20年後に第一次世界大戦が起きると考えると真面目な軍人であれば、危機感を強く持つ時期では無かっただろうか?
ピカールは再度フランスがドイツに負ける要因を無くすべく、エステラジーを捕まえる事が本当の目的だったのだろう。それを理解できず自身を守る上官や大臣にピカールは怒ったのだ。
真実と差別意識と
本作はユダヤ人への差別も描かれている。
ドレフュスが濡れ衣を着せられたのが、ユダヤ人差別からの配慮の無さもあるし
ピカールがドレフュスの冤罪を晴らそうと動くと、ピカールがユダヤ人の組合からお金を貰っているからだと噂が広がる。
ついにはドレフュスの弁護をする弁護人やピカール自身もいきなり襲われてしまう。
陸軍の不正以上に許せないのがユダヤ人に味方するピカール達だと、フランス民衆に多く居た。
当時の差別がいかに強烈かを物語る。
いかに真実があろうと、差別意識の前に受け止めて貰えない。それが本作で描かれるもう1つのテーマだと思う。
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