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異世界で復活せよ!ミリタリー、戦記作品
昨年の12月15日に酒見京一郎先生の小説「オルクセン王国史~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~」第1巻が一二三書房から発売されました。
続いて今年の1月12日から野上武志先生によるコミカライズ版がCOMICNOVA(コミックノヴァ)で連載開始
そして1月31日には原作の小説「オルクセン王国史」第1巻の重版が決定しました。
「オルクセン王国史」第2巻発売の準備が進んでいるそうで、「オルクセン王国史」はヒット作へと突き進んでいます。
この「オルクセン王国史」発売でミリタリー作品の界隈を見返してみたい。
「オルクセン王国史」とはどんな作品か?
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今回取り上げている「オルクセン王国史」は架空の世界を舞台にした戦記小説です。
主人公はファンタジー世界の架空の種族であるエルフで、肌が褐色のダークエルフと、ファンタジー作品では悪役にされがちなオークの王の二人です。
ストーリーは行き倒れていたダークエルフの氏族長であるディネルースをオークの王であるグスタフが助けたところから始まる。
ディネルースは住んでいたエルフの国エルフィンドで、白いエルフによるダークエルフが虐殺される悲劇に見舞われていた。
仲間たちとの逃亡の末にオークの国であるオルクセンに辿り着きます。
グスタフはディネルースらダークエルフをオルクセンの同胞として受け入れるばかりではなく、ディネルースが望む白いエルフへの復讐の機会を
実現できるようにダークエルフによる部隊を準備
ディネルースはオルクセンの軍人として登用
こうしてオークの国とエルフの国の戦端が開かれようとしていた。
と言う内容です。
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ファンタジー世界のオークとエルフを主人公にし、魔法もある世界ですが、書かれているのは銃や大砲を主に装備する近代の軍隊による戦記です。
まさにミリタリー色が強めの作品と言えます。
異世界×ミリタリー
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近年のファンタジーノベルで大きなジャンルとなっている異世界作品
ミリタリー要素のある作品としては、コミカライズとアニメ化もされた柳内たくみ先生の「ゲート~自衛隊彼の地で斯く戦かえり~」(アルファポリス)があります。
タイトルの通りに自衛隊が異世界に行き、異世界の帝国と呼ばれる大国と戦いを書いた戦記です。
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また異世界とミリタリーではカルロ・ゼン先生の「幼女戦記」(エンターブレイン)も有名な作品です。
現代日本ではエリートサラリーマンであった男性の主人公が、異世界で女性として転生する。
強力な魔力を持っているとして幼女でありながら軍人となった主人公ターニャが世界大戦の動乱で部隊を率いて戦う戦記作品です。
「ゲート」は主人公が異世界に行き、「幼女戦記」は主人公が異世界で生まれ変わる転生をします。
主人公が高い能力があり、仲間が増え、重要な人物となって行く、当時の異世界作品で多く見られる形です。
「オルクセン王国史」は双方が一族を率いるリーダーであり、成熟した大人です。
また異世界での住民であるのも特徴的でしょう。
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現代日本が絡まない異世界での物語
そうした異世界×ミリタリーのファンタジーノベルの新作として、2月15日には「オルクセン王国史」の一二三書房から村井啓先生の「カノンレディ~砲兵令嬢戦記~」第1巻が発売されます。
タイトルにあるとおり、主人公のお嬢様が大砲を撃つ内容
ストーリーは商人の娘である主人公のエリザベスは軍人を志すも、女性故に入隊できない。またエリザベスは商人である実家を継ぐ事も嫌で大砲を持ち出し家を出る。
そして隣国の紛争地へ行き、大砲を撃つ砲兵士官としての道を歩もうとします。
こちらも異世界の住人が主人公で、大砲というミリタリー要素を主なテーマとして書かれています。
一二三書房は異世界×ミリタリーで続けて新作を打ち出した事になります。
以前の作品として、「ゲート」の柳内たくみ先生がKADOKAWAから「狐と戦車と黄金と~傭兵少女は赤字から逃げ出したい!~」が昨年発売
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戦車で戦う傭兵が活躍する異世界を舞台に、傭兵であるケモ耳な獣人少女を主人公にした内容
ストーリーは主人公の乗る74式戦車(異世界にある自衛隊の戦車で、90式戦車の性能に近づけた改造をした車輛と言う設定)で戦うミリタリー要素と、使用する砲弾の費用を心配したり、相場の取引をしたりの経済要素が合わさった異色な作品
原作小説の第2巻が発売されたばかりの、まさきたま先生の「TS衛生兵さんの戦場日記」(KADOKAWA)
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こちらは現代日本からの転生者が主人公です。
現代日本では男性のプロゲーマーだった主人公が、異世界で女性の衛生兵となります。
そんな主人公の任務は軍のエースである小隊長ガーバックを死なせないようにすると言うもので、部下を大事にしないガバックの理不尽さと戦場の凄惨さに遭いどう生き残るかと言うハードなストーリー
ファンタジーノベル作品において、ミリタリーのジャンルは確実にその地歩が固まって来ていると言えます。
ミリタリージャンルの文芸は盛り上がるか?
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旧来のミリタリージャンルである架空戦記では
太平洋戦争の海戦を題材にした作品の第一人者である横山義信先生は空母にならなかった「赤城」をテーマとした「高速戦艦[赤城]」(中央公論新社)
昭和にAIのような計算機を作って太平洋戦争に挑む橋本純先生の「超時空AI戦艦[大和]」(電波社)
などが発売され、以前のような盛り上がりは無いものの現在も新作が作られています。
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そんな架空戦記で新たな動きがありました。
デザインやプログラムについての専門書やビジネス書を主に出版しているMdNコーポレーションが吉田親司先生による「防衛大臣山本五十六」を昨年11月に発売しました。
現代によみがえった連合艦隊山本五十六が防衛大臣となり、中国との戦争を戦う近未来を舞台にした架空戦記です。
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架空戦記を出版しているのは中央公論新社にコスミック出版・電波社と多くはありません。
そうした中で新たに架空戦記を新たに出版する企業の登場は、架空戦記やミリタリーを愛好する私としては光明に見えます。
とはいえ、ニッチなジャンルでもあるミリタリー
これを文芸で続けるにあたり、ファンタジーノベルでの新たな芽が開花し満開となるような盛り上がりが、架空戦記や一般文芸でも起こす必要があるかもしれません。
しかし、コミカライズやアニメ化などのメディアミックスまで発展するまで人気を博するのは簡単では無い。
それか継続して一定の売れる量を維持できるジャンルとしての存続か
つまり読者が支えられるかがジャンルの将来にかかっているのです。
カクヨムで戦記小説を書く私個人としても、ミリタリーで小説のジャンルを盛り上げ、繋げていく一助になればと思います。