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北極圏・ラップランドひとり旅 7日目
September 19, 2019
Urho Kekkonen National Park
朝、目を覚まして窓の外を見ると、雪景色が広がっていた。夜中のうちに雪が降ったらしい。
ハットの中は暖かい。薪ストーブがまだほんのり熱を保っている。乾燥しないようにと、ストーブの上に置いた鍋を覗くと、ずいぶん水が減っていた。
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昨夜は木製のベンチにマットを敷き、身体の半分だけ寝袋をかけて寝た。室内は少し暑いぐらいで、半袖で寝ることができた。とても快適で、すぐに熟睡したと思う。
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セーターだけ着て外に出る。肌に触れる空気は冷たいけど、薪ストーブのおかげで身体の中が暖かく、心地の良い寒さだった。
うっすら積もった雪に新しい足跡をつける。川の音と鳥の鳴き声と、サクサクと雪を踏み締める自分の足音だけが響く。とても静かだ。冷たい空気を肺の隅々まで行き渡らせるように、深く息を吸い込む。
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今日は休息日にしよう。そう思った。
先を急ぐ旅ではない。好きな場所で眠り、好きな場所を歩けばいい。自生しているベリーを詰んだり、川の水を飲みながら歩くんだ。気の向くままにのんびり行こう。
木々の間から太陽が昇り、木や地面に積もった雪を溶かしてゆく。静かで色の薄かった世界が、少しずつ賑やかに、鮮やかになる。伸びた影の位置が随分と変わった頃、遠くから人の声が聞こえてハイカーたちが歩いてきた。僕はファイヤーサークルを彼らに譲り、バックパックをハットに残したまま散歩に出かけることにした。
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数キロ先のファイヤーサークルを目指して歩く。途中、少しだけぬかるんだ湿地を歩いたが、ほとんど平坦で歩きやすい道だった。重い荷物を背負ってないので足取りが軽い。
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目的地のファイヤーサークルでハイカーたちに混ざってお湯を沸かす。日本から持ってきたお茶を飲みながら本を読んでいると、ハイカーの一人が手を広げて空に差し出した。すぐにカラフルな鳥が飛んできて彼女の手に止まり、手に広げたパン屑を食べる。とても穏やかな光景だった。
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太陽が傾き、少し寒くなってきたのでハットに戻ることにした。
森の中をのんびりと歩く。低くなった太陽に照らされた紅葉が美しい。
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歩いていると後ろの方で木の枝を踏む音が聞こえた。森が静かな分、小さな物音にも敏感になる。少し驚きながら振り返ると、少し離れた所でトナカイが跳ねていた。よく見ると真ん中のトナカイには首輪がついている。サーミの家畜だ。一見野生に見えるが、彼らはどこかのサーミの持ち物らしい。とても警戒心が強く、あっという間に駆けて行ってしまった。
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夕方、ハットに戻って一息ついていると雪が降り始めてきた。
ハットの中に置いてあるノートにコメントを残し、誰もいないファイヤーサークルで火を起こす。夕食のためのお湯を沸かしていると、遠くから一人の男性が歩いてくるのが見えた。遠目だが恰好が日本人っぽい。でもまさか、こんな場所で、こんな時間に?
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結局、歩いてきた彼は同い年ぐらいの日本人だった。
ユウはサーリセルカに旅行に来た学生だった。散歩のつもりで国立公園を歩き始めたら楽しくなり、気づいたらここまで来てしまったと言う。そろそろ日も暮れるけど街に戻るの?と聞くと、ハットが気に入ったから今日はこのままここに泊まると言うので、僕は話し相手をゲットした。
ユウの持っていたマッカラを分けてもらう。マッカラを刺した木の枝が燃えて落ちないよう、気をつけながら火で炙る。中まで火を通すには意外と時間がかかり、その間に色々なことを話した。旅のこと、日本でのこと、将来のこと。僕たちはまだ若く、どんな事にも挑戦できる気がしていた。つまり、夢中になって話をした。焚き火は暖かく、空には星が瞬きはじめていた。