嘘グルメ 第十五話「引退した力士のまげ」
ほら!もっとぶつかっていけ!ほら!もう一回!…どうだい?力士のぶつかり稽古は?土俵から近いとはいえ振動がここまで伝わってくるとは思ってなかっただろ?200キロ近い巨体が本気でぶつかり合うと空気が揺れるんだよ。新弟子レベルでこれだよ?横綱同士が大相撲でぶつかる時の衝撃は戦闘機のF-15がマッハに入るときの振動と同じだそうだ。
で?グルメ話だったよね?…「引退した力士のマゲ」だろ?断髪式で落としたマゲ、あれを食べられるのはその力士を育てた親方にのみ許されているんだ。あれを食べるんですか?なんて驚かれることもあるけど、あれは絶品らしいんだ。大銀杏を結うときには特別な油を使って一週間洗わないこともある。相撲をとる時に蒔いた塩が大銀杏にかかり、ほんのり塩がつく。そうやって現役時代にしっかり「下味」がついてるんだ。水戸泉っていう塩を大量に撒くパフォーマンスをする力士がいたが、そのマゲを食べた親方は塩辛くて食べられなかったって言ってたっけ(笑)
最近では外国人力士も増えてきてマゲの味も様々になってきた。ハワイ出身の力士のマゲはトロピカルな味がしたり、モンゴル出身の力士のマゲは野性味に溢れた味が、ブルガリア出身の力士のマゲは少し酸味がかってたそうだ。
大銀杏を結えるまで育てて、断髪式で食べる。この業界では力士を育てることを「仕込み」という。いわば親方というのは料理人なんだよ。…まあこれだけ喋ってはいるが、人に聞いた話でね…(笑)実は俺はマゲを食べるのは今日が初めてなんだ。君もそれを知って取材に来てるんだろうがね。今日あった断髪式のマゲを俺が食う所を見たいんだろ?
まず細切りにした人参とマゲを熱したフライパンに入れる。油はマゲに染み込んでるから、使わなくてもいい。なんなら油が溢れてくるから途中でキッチンペーパーで拭かないといけないくらいだ。ある程度全体的に油が馴染んだら、醤油、砂糖、みりん、和風出汁を入れて、水気がなくなるまで炒める。白いりごまを入れ、さっと炒め合わせたら、お皿に盛り付けて、マゲのきんぴらの出来あがりだ。
…入門した時は地元でも札付きの悪だった不良のあいつが、、、今日は立派だっただろ?…さあ、いただくとするか。…うめえ。とっておきの酒と一緒に、、、ふぅ…ったく、塩っ辛くて涙が出らぁ。。
日本の国技である相撲。現在、力士を志す若者は現象傾向にある。が、このグルメを味わいたくて実に九割もの現役力士が「親方」を目指すのだという。
「引退した力士のマゲのきんぴら」
材料
マゲ 1本
にんじん 1/3本
①しょうゆ 大さじ2
①砂糖 大さじ1
①みりん 大さじ1
①和風顆粒出汁 小さじ1
白いりごま 大さじ2
作り方
1 力士を十両以上まで育てる
2 粛々と断髪式を行い、親方としてマゲに最後のハサミを入れて切り落とす。
3 にんじんは皮をむき、細切りにします。
4 フライパンを中火で熱し、2、3を入れて油がなじむまで炒めます。
5 ①を入れ、汁気がなくなるまで中火で炒めます。
6 白いりごまを入れ、さっと炒め合わせたら火から下ろし、お皿に盛り付けて出来上がりです。
ポイント・コツ
現役時代に塩を多く撒くタイプの力士のマゲは塩気が強いことがあります。調味料を少な目にして調整してください☆
※本文に出てくる料理、情報は、嘘です。
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