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嘘グルメ第32話「再生したばかりのトカゲの尻尾」

春めいた陽気も終わり、街はギラギラした太陽とジメジメした湿気が体から大量の汗を流させる。光和台の駅前にある時計台の下で彼と待ち合わせているのだが、、そろそろ時間になる。おっ、見覚えのある顔が。彼だ。

「どうもどうもすいませんすいません」

いきなりあのセリフが聞けるとは(笑)そう彼こそが今回の取材の相手の溝口さんである。ピンと来ない人は「高尾山で一ヶ月間遭難した溝口さん」といえば分かる人も多いのではないだろうか?ハイヒールで登る女性もいるという高尾山で、一ヶ月遭難するというありえない事件を起こしたことで一躍時の人になった彼だ。無事救助され、記者会見の第一声だったセリフがこの「どうもどうもすいませんすいません」だったのだ。

それから学生は「どうもどうもすいませんすいません」を友達と言い合い、テレビではお笑い芸人がネタにして、街は「どうもどうもすいませんすいません」で溢れ返り、あれよあれよと、その年の流行語大賞をとったのである。

その遭難している一ヶ月もの間、木の実や川の水を飲んで飢えを凌いでいる時に忘れられないぐらい美味しい食材があったそうだ。溝口さんにその話を聞いた。

‥いや〜、この話は恥ずかしいからあまりしたくないんだよなぁ。高尾山で遭難って、今でも娘にからかわれるんだから。でも俺からしたらただの遭難だから、本当に大変だったんだ。孤独と飢え、体力も奪われていく中で俺を救ってくれた食材が、トカゲの尻尾だったんだ。

遭難して三週間‥精も根も尽き果て、極限まで腹が減って横になっている時に目の前をトカゲが歩いてたんだ。僕は無我夢中でトカゲに飛びかかった‥!両手の中がくすぐったい‥よしっ、捕まえたんだ!やっと捕まえた食糧。あとどれくらいで救助が来るかも分からない、この一匹を大事に食べていこうと思った。手の中をそうっと覗くと、やってたんだ!危機を感じた時にするトカゲの尻尾切り!そうだ‥トカゲは尻尾を再生する、じゃあずっとトカゲが切った尻尾を食べれば無限じゃん!無限尻尾じゃん!‥そう思ったんだ!

1本目のトカゲの尻尾は火を起こして焼いて食べた。量も少ないし食べ応えは無いものの、久し振りに口にする肉に嬉しさを感じていたんだ。

それから捕まえてウエストポーチに入れておいたトカゲを翌朝見ると、野生って凄いですよね‥もうトカゲの尻尾が再生してたんですよ。すぐに食べようとしたんだけど、焼き上がるのが待ちきれず軽く火に炙っただけのレアな状態で食べたらさ、、臭みが一切なくて昨日のそれとは段違いに美味しかったんだ!つまり再生したばかりの尻尾ってのは、いま生まれたばかりの肉、鮮度抜群!恐らく、地上最高の鮮度なんだよ!!味はコリッとした歯応えがあったかと思うと、まるで生レバーのような濃厚さもあって口の中でトロけるんだ。それからは一日一回再生してくれるトカゲの尻尾を朝に食べるっていう楽しみができて、遭難してる事を忘れるぐらいでした。トカゲは僕の命の恩人なんです。それから家に帰って色々試したんですが、再生したばっかりのトカゲの尻尾を軽く炭火で炙って、塩を溶かした胡麻油にチョンとつけて食べてみたんですがね、、これがね、超うまいんですよ(笑)

遭難から命を救ってくれたトカゲの尻尾。溝口さんはそれからトカゲの養殖業を始め、トカゲの尻尾を全国の飲食店に出荷しているというから人生は分からないものである。ちなみに会社の名前は「DDSS」。
D(どうも)D(どうも)S(すいません)S(すいません)だそうだ(笑)

「再生したてのトカゲの尻尾炙り焼き」

材料(2人分)
再生したてのトカゲの尻尾   200g
ゴマ油            少々
醤油             大さじ1
砂糖             小さじ1/2
酢              大さじ1
にんにく           適量

作り方

1 ボウルに醤油、砂糖、酢、ゴマ油、すりおろしたにんにくを入れタレを作ります。

2 食べやすい大きさにカットしたレバーを、炭火で熱した網の上で両面をサッと焼く。

3 タレにつけて食べる。

コツ•ポイント
お好みでニンニクの量を多めに入れても美味しいです☆


※本文に出てくる地名、情報、料理は全部、嘘です。

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