嘘グルメ第34話「桜の蕾」

この雲の動きと空の高さ、そして風の向きに風速が‥フムフム。それから湿度は‥人の数と服装は‥なるほど、もう10分もすれば通り雨がきますね。傘は持ってますか？割と強い雨が降ると思うのでカフェにでも入った方が良策かと。

いえいえ、全然凄くないですよ（笑）気象予報士は、いわばどれだけデータと経験を蓄積させているか、これに尽きるので。そう言った意味ではデータを僕ほど頭に入れ込んだ人はいないんじゃないかと自負しております。日本のみならず、海外の天気のデータや、江戸時代の天気を調べたり。中国の書物「孫氏の予報書」も学生時代に繰り返し読んでいました。中でも三国時代に赤壁の戦いで天気を予想し、大戦に勝利したと言われる蜀の軍師•諸葛亮孔明の書「天候三国志」は今も毎日、寝る前に読んでいます。あ、座りますか？御意。

‥それであなたが聞きたいというのは、僕が春にインスタにあげてた食べ物の話でしたよね？意外と日本人は知らないんですよね、"桜の蕾"が食べられるって事を。毎年春が近づくと気象予報士が桜の開花予想をしたり、桜前線をお知らせしたりしていますが、別にあれは花見の時期を知らせている訳ではなく、農家の方に「収穫期」をお知らせするというのが本当の目的なんです。もちろん花見をする為の桜というのも沢山ありますが、ちゃんと"食用"として育てられている桜の木も日本には約500万本あると言われています。

桜の花びらは塩漬けしてお菓子につかったり、飲み物に桜の花を浮かべたりして飲んだりしますが、実は本当に美味しいのは桜の花が開く前の蕾の方なんです。開花する直前のプックプクに膨らんだ桜の蕾を、素揚げして軽く塩をふって食べると、サクサクとスナック感覚でビールのツマミに最高ですし、フライパンに桜の蕾を入れてアルミホイルで蓋をして、しばらく炒ると「ポンッ！ポンッ！」と音がしてアルミホイルが膨らんできます。ある程度してアルミホイルを破って中を覗くと‥桜のポップコーンの出来上がり！子供達が寄ってたかって食べれば数秒でなくなりますよ（笑）

でもね、一番好きだったのは桜の蕾の天ぷらなんです。僕は親父も気象予報士でね。その父の背中を追いかけて、僕もこの職を志したんです。必死に勉強して「気象予報士の東大」と言われる東京駒込大学こと"駒大"に入学して、気象予報士のエリート集団の中でとにかく勉強しました。20歳になったある日、初めて親父がメシに誘ってくれたんです。目黒だったかなぁ‥駅からちょっと歩いて一本路地に入るとね、昔ながらのお店が結構あって‥年季の入った提灯がぼんやり光る店のカウンター席に座って、酒を2人で飲んだんです。仕事の話はあまりしない親父でしたが、その日は酒も入ったせいか天気の話も結構してくれて‥2人で「1986年2月11日茨城県に全ての天候が全部出た日」について議論を交わしましたね（笑）
そしたら親父が「お前も気象予報士になるんだったらこれを食っとけ」って注文してくれたのが、桜の蕾の天ぷらだったんです。衣につけて高音の油でカラッと揚げられた桜の蕾は、噛むとカリッとしていて中から桜の蜜と桜の香りがぷわっとしてて、熱々のまま一気に何個か食べてキンキンに冷えたビールを流し込む、、、ほんっと、最高に美味いんですよ（笑）

大学を卒業して僕が晴れて気象予報士になった時には、親父はもう他界していました。せっかく気象予報士として花開いたってのに、親父には蕾だった僕しか見せれなかったのが、ちょっとだけ心残りです‥。
ほら、カフェに入りましょうか？言ったでしょ？10分後に雨が降るって。

彼がそう言うと、予報どおりにポツポツと雨が降り出した。その時彼の頬を流れていたのは、降り出した雨粒があたったのか、それとも‥。明けそうで明けない梅雨が過ぎればカラッと熱い日が続き、大きく大きく膨らむ雲を見ることができるだろう。早くその日が来るのが待ち遠しいものだ。

桜の蕾の天ぷら

材料（4人分）

開花する直前の桜の蕾　　　4、50個
溶き卵　　　　　　　　　　1/2個
冷水　　　　　　　　　　　1/3カップ
塩　　　　　　　　　　　　少々
小麦粉　　　　　　　　　　1/2カップ
油　　　　　　　　　　　　適量

作り方

１　桜の蕾は汚れた葉があれば取り除き、ハケでゴミを無くしておく。

２　ボウルに溶き卵、冷水、塩を入れて混ぜ、小麦粉をふり入れてさっくり混ぜ、衣を作る。

３　揚げ油を165℃に熱する。衣に桜の蕾を入れて軽く混ぜ、スプーンですくって鍋肌からそっと油に落とし入れる。浮き上がって衣が固まったら、返しながらカリッとするまで2～3分揚げる。好みで塩をつけて食べる。

コツ•ポイント

衣は薄くつけて、そっと油に入れ、最初は菜箸で触ったりしないでください☆食べると桜の香りがして、ビールがこれでもかってぐらい進みますよ！我が家はビールワンケースが1日でなくなりました（笑）

※ 本文に出てくる料理と情報は全部、嘘です。