北九州にボコられたあの10分間は、今後の戦いにおける超重要なサンプルだ
悔しすぎて眠れなかった(そんなの初めて)
北九州戦は「絶対に勝てる」と信じ切っていたし、頭の中にはそれなりの根拠もありました。だから、あの負け方はめちゃくちゃ悔しかった。
試合後も興奮が収まらず、自分が試合に出たわけじゃないのになぜかアドレナリン全開のまま。監督のオンライン会見があって、選手のオンライン会見があって、すべての仕事を終えたのが23時半くらい。それからすぐにベッドに入ったけれどまったく眠れず、居間と寝室を何往復もして……気づいたら朝の5時でした。
で、こう思いました。選手たちは「誰よりも悔しいのはピッチに立っている俺たち」とたまに言うけれど、でももしかしたら、そうとも言い切れないかもよと。悔しさの大きさなんて比べられないし、感じ方は人それぞれ。だから実際に戦っている選手より、“ただ観ているだけ”のほうが悔しい可能性だって十分にあるんじゃないのかと! まあ、つまり自分に対する慰めでしかないわけですが(笑)、そうして改めて、スポーツを“観る側”の心境の複雑さを思い知ったわけです。この試合の結果がそれほど悔しかった人、僕の他にもたくさんいるんじゃないでしょうか。
北九州はビルドアップ時の最終ライン3枚
連勝中の試合をいくつも観たわけではないので“ノーマルの北九州”がどんなスタイルなのかは知りませんが、ジェフ対策だったのか何だったのか、とにかく北九州はスタートポジションこそ4-4-2としながら「ビルドアップ時」には最終ラインを3枚に変更する可変システムを採用していました。簡単に説明するとこうです。
[1]中盤中央の一角である⑰加藤弘堅が最終ラインに降りて3バックの左に入る。(3枚の中央ではなく左に入るのが面白い)
[2]センターバックの⑥岡村が3バック右、⑯村松が3バック中央にズレる。
[3]ビルドアップは「最終ライン3枚+⑩髙橋」の4人で。
[4]両サイドバックは思い切って押し上げる。
[5]両サイドハーフは思い切って中に入る。
[6]2トップの一角である⑱町野は2列目に落ちる。
[7]結果、「3-1-5-1」みたいな形になる。
で、これをジェフの4-4-2と重ね合わせるとこうなります。
いわゆる「システムの噛み合わせ」を見れば、北九州の狙いがすぐにわかりますね。
彼らは自分たちの最終ラインで「4対2」(「最終ライン3枚+⑩髙橋」対「クレーベ&山下」)の状況を作りたい。⑩髙橋を存在感をおとりにしてクレーベと山下の足を止め、⑥岡村か⑰加藤を1つ前のエリアに進入させて、そこを起点として攻撃を始めたい。
すると、どうなるか。
仮に⑥岡村が1つ前のエリアでボールを持ったら、ジェフは船山が前に出る。すると③福森が空く。あるいは小島が前に出る。すると⑭新垣が空く。あとは1個ずつズレるところを順番に使えば、フィニッシュの局面で必ずフリーの選手を作れるはず。やや雑な説明ではありますですが、理屈としてはそういう感じだと思います。
4-4-2でブロックを作るチームにとっては、これをやられるのが最もイヤです。この形の守備は、前線の2トップで相手の進入角度をちゃんと限定しないと何も始まらない。なのに2対4の状況ではまったくそれができないからズルズルと下がってしまう。いわゆるハーフスペースに進入さてもマーカーのスライドが追いつかず、そうしてイヤなところにどんどん飛び込まれる。ダイレクトなんて挟まれたら、たまったもんじゃありません。
4-4-2のブロックはゴール前で勝負する守備じゃない。あくまで駆け引きを主導し、前線の2枚がしっかりと先手を打って、自分たちが奪いたいゾーンにボールを誘い込まなきゃ意味がありません。
飲水タイムまでちゃんと守れていた理由
では、前半、飲水タイムまでのジェフはなぜうまく守れていたのでしょう。答えは簡単。「(無意識だったけど)4-4-2で守らなかったから」です。
どちらに転ぶかわからない最初の主導権争いで先手を取ったジェフは、フィニッシュで終わる、あるいは深い位置までボールを運ぶ流れを作り、組織全体が高い位置をキープしていました。だから、ボールをロストしても高い位置から守備をスタートする流れを作れていました。
そういう展開のおかげで、相手も少し焦っていました。最終ラインでゆったりボールをつないでジェフに4-4-2ブロックをセット「させれば」いいものを、それがまったくできなかった。ジェフのテンポにつられて早めの縦パスを選択してしまった結果、ジェフが張る守備のワナにまんまとハマっていました。
例えば、こんな感じのシーンがありました。
ジェフの攻撃がフィニッシュで終わり、その攻撃に絡んだ堀米がそのまま高い位置から2トップに加わる形で相手の最終ラインにプレス。⑰加藤はジェフの守備にきっちりハメられて⑩髙橋にパスを出すけれど、それを狙っていた田口がしっかり身体を寄せてボールを奪った。で、そのまま左に展開してショートカウンター。ジェフとしては理想的な形です。
この時間帯、相手が「4対2」を作りたかった最終ラインで、ジェフは「4対4」の状態を作りました。もちろん後ろは足りないけれど、うまくコースを限定すれば浮いた誰かを使われることはありません。例えば長いボールで③福森を使われても、リトリートして4-4-2でセットし直す時間は十分にありました。まさにこの守備がジェフにとっては理想的で、それができていたから圧倒的なジェフのペースだったわけです。
あの10分間でなにが起きていたのか
ところがクレーベのゴールで先制後、簡単に言えば「構えて」しまったことで、自分たちにとって守り勝つための基本戦術である「4-4-2のセット」を作ってしまった。逆に言えば、相手の“ジェフ対策”に自らハマりにいってしまいました。図解するとこんな感じです。
かなり入念な分析と準備をしてきたのか、北九州の選手たちのポジショニングは絶妙でした。それぞれが「気になる」ところにポジションを取っているから、ジェフの選手たちはリスクを負って前に出られない。で、あとは最初に書いたロジックのとおり、ズレるところを1つずつ順番に使われて攻略されました。
1失点目、あれだけ両サイドを広く使われて揺さぶれられたら真ん中が空くのは当たり前。2失点目もそう。構えることに集中しすぎてクサビを受ける相手の落ちる動きが見えていない。3失点目は新井一耀の判断ミスが大きいけれど、パスの出し手がなぜあれだけいい状態でスルーパスを出せたかというと、つまり相手の最終ラインで「2対4」の状況を作られているから。そのあたりを修正できないまま、3失点を食らってしまった。
逆に後半は2点リードしている北九州が構えるのは当たり前のことで、ジェフが押し込み、チャンスを作れるのも当たり前のこと。「ジェフの攻撃が良かったけどあと1点追いつけなかった」のではなく、単純に「北九州にリードを守り切られた」だけです。つまり前半で勝負ありでした。
そんな観点から、ぜひハイライトを見直してみてください。特に3失点目がわかりやすい。
イヤらしく弱点を突かれたら、どうする?
北九州がやってくれたこの形は、4-4-2ブロックを張るジェフを攻略する上でかなり有効な手段の1つです。
この試合では、その戦術にハメられた時間帯のジェフが、自分たちの力で修正できないことを露呈しました。「図」で見るだけなら堀米か船山が高い位置に残り、相手の4枚に対して「3」で勝負すればいいと思えるけれど、でも実際はそう簡単じゃなく、「後ろ」や「中央」がしっかり状況を把握できているという自信がなければ前に出られない。それに加えてジェフには4-4-2ブロックという「型」があるから、これを個人の判断で崩すのはかなり難しいはずです。みんなで連動して、同じ意識と自信を持って「ホリ、行け!」という指示があちこちから飛ぶ状況を作らないと、たぶん堀米は前で勝負できない。
ただし飲水タイムに入る前の時間帯のように、無意識のうちにそれができてしまうケースもあります。でもそれは完全に主導権を握っている状況でのこと。サッカーだからワンプレーで形成を逆転されることもあって、今のジェフが抱えている問題は、そうなった時にどうするか。戦い方を自分たちで変え、流れを引き戻す力をつけなけきゃいけません。
4-4-2ブロックを守り方のベースとして持っておくことはめちゃくちゃ大事で、その完成度をどんどん上げなきゃいけない。その一方で、状況に応じてスムーズに4-4-2を変形させるバージョンも持たなければ、こんだけ研究合戦が熾烈なJ2ではイヤらしく弱点ばかりを突かれるでしょう。シーズンが進むにつれて、そういう試合が増えるはずです。
この試合の屈辱的な敗戦は、しかしジェフにとってめちゃくちゃ大事な教訓になりました。今後もし、相手が最終ラインで数的マウントを取ろうとしてきたら、その時ジェフはどうするかに注目です。もしもこの北九州戦と同じ展開に持ち込まれてしまうようなら今シーズンはちょっと厳しいかもしれないし、逆に4-4-2ブロックという「型」を崩してその状況を打開しようとするなら、今シーズンはやっぱりちょっと楽しみかもしれません。
あー、それにしてもマジで悔しかった。