
Vanishing Vision~人生で大切なことは、すべてX JAPANが教えてくれた~
「人生で、好きになって一番よかったことは何?」
そう問われたら、私は迷わずX JAPANと答える。
令和現在、X JAPANといえば、伝説のバンドと称される機会が多い。
映画か小説かと思えるほどに壮絶な、バンドおよびメンバーのヒストリー。
尋常でなく寡作(ファンにとっては普通なのだが)。にもかかわらず、世界中にファンと、影響を受けたアーティストが続出していること。
YOSHIKIさんの、ジーン・シモンズやブライアン・メイ、サラ・ブライトマンやマリリン・マンソンといった世界の名だたるアーティストとの共演。
英国エリザベス女王やチャールズ皇太子との謁見。
世界各国の災害への、多額の寄付。
そんなスケールの大きさから、伝説のように語られることは理解できるものの、私はやや違和感を感じるのである。
このX(ここからは、当時のバンド名で表記する)のファーストアルバムを聴いて、当時の活動を知れば、彼らの挑戦・反骨・衝動・品格・そして何より音楽性の高さが、30年以上前も今も、何ら変わっていないことを感じていただけるだろう。
まず、ジャケット写真から衝撃である。当時10代であった私は、レジに持って行くのも、親に見られるのも、とても恥ずかしかった記憶がある。
オープニング曲のDEAR LOSER。
何かの巨大な敵、例えば当時の巨大な音楽シーン、メジャーシーンに立ち向かうような、何かが始まるような、気持ちを徐々に熱くして、奮い立たせるインストゥルメンタル曲だ。
からの、「きたー!始まったー!かっこいいー!」と、何百回聴いても毎回口からこぼれてしまう、VANISHING LOVE。
Xの代名詞である高速のツーバスとギターの刻み、破壊的なサウンド、美しいメロディー。
カラオケで歌ったこともあるが、長い。ギターソロも長い。なのに、無駄がない。全てが必要不可欠なのだ。ひとたび再生したら、決して途中ではやめられない。
PHANTOM OF GUILDは、これぞTAIJIさんという、YOSHIKIさんとは全く異なるアプローチ。Toshlさんが手掛けた歌詞も、YOSHIKIさんのものとは全く違う世界観だ。イントロのリフもかっこよく、全体を通じて流れる妖しさなど。こういった楽曲が、Xの音楽性に幅を持たせている。
次は、hideさんのXの前のバンド、SABER TIGER時代の楽曲をリメイクした、Sadistic Desire。
ある種の狂気、現実離れした世界観が、疾走感のあるビートに乗せて繰り広げられる、病みつきになる一曲だ。
イントロのハードロックテイストのリフから、体を動かさずにはいられない。
GIVE ME THE PLEASURE。繰り返される印象的なリフ、フュージョンのような展開、TAIJIさんのチョッパーベース、YOSHIKIさんの英語の朗読。
これらが相まって、どこか不思議な場所へ連れて行ってくれるような浮遊感を持つ、異色の存在だ。
続くI'LL KILL YOUは、YOSHIKIさんとToshlさんが高校生の時に作られ、演奏されていた曲。それだけに、他の収録曲に比べ、構成もシンプルで、よりストレートに、ロックでパンクな衝動が伝わってくる。
その直後に、ベートーベンの『月光』のメロディーがピアノで奏でられる、ALIVEが始まる。この振り幅の大きさ。それも自然に並べられて聴けてしまうところが、Xなのである。美しさにうっとりして、悲しさに胸を締め付けられる、珠玉の傑作だ。
KURENAI。ご存知『紅』の、英語バージョンだ。日本語バージョンと比べ、より流麗に、より荒々しく奏でられ、歌われている。
最後を飾るのは、Xのバラードの中でも人気の高い、UN-FINISHED...。
感情を抑えたような歌と演奏が胸に広がる、切なくも優しい、名曲中の名曲だ。
タイトルの意味は、「未完成」。
その名のとおり、曲がまだ続きそうなところで、‘’AII visions going to vanish...‘’と終わるのだ。アルバムのタイトルとも掛かっているし、‘’vanish‘’の意味「突然消える」のとおり突然曲が消えてハッとさせられるし、すっきりしないような、次に続いていくような、なんともいえないかっこよさに痺れてしまうのである。
この時期、Xは新宿の人混みの中や駅構内でド派手なビジュアルで撮影を敢行したり、テレビ『天才たけしの元気が出るテレビ』に何度も出演したりしていた。
その見た目やバラエティ番組に出て「色モノ」として見られることに、批判もあったが、彼らは当時からずっと、ポリシーを貫き既成概念をぶち壊してきた。
だから、Xのファン(運命共同体という)は、現在YOSHIKIさんが『芸能人格付けチェック』でお菓子を食べ続けても、Toshlさんがカラオケ企画でアニソンを熱唱したりCMで紅のパロディーをしても、全く平気なのである。なぜなら、昔から何も変わっていないから。
Xがたまらなくかっこいいのは、過去の栄光に甘んじていないこと、50歳を過ぎた今も世界に向けて本気で進んでいること、姿勢が一貫していること。
今でこそ、米国や欧州など世界ツアーを成功させるXだが、昔からのファンは、1992年、ニューヨークのロックフェラー・センターで行われた世界進出記者会見での、記者の冷たい反応と厳しいコメント、そしてその後の英語でのレコーディング難航を経ての世界進出断念(YOSHIKIさんは、当時のインタビューではっきりと「断念」という言葉を用いた)の悔しさは、忘れないだろう。
それを経ての、今である。
さらには、Toshlさんの脱退、解散、hideさんのこと、TAIJIさんのこと、これらの痛みを抱えた上での、今なのだ。
仲間の大切さ、別れてもまたやり直せること、決して諦めないこと、大きな体制に迎合しない反骨精神、応援してくれる人への感謝と愛、面白いことをすること、人がやらないことをやること、本質を見失わないこと…
こんな、人生で大切なことを、Xは10代の私にも、40代の私にも、きっと50代以降の私にも、変わらず教え続けてくれるのである。
この文章をきっかけに、Xのデビューアルバムを聴いていただけたら、これほど嬉しいことはない。