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そうぞうするためのデザイン - LARPで「いまここにはない」世界にダイブする

昨年末からずっと取り組んでいるLARP(Live Action Role Playing)について、実践や実験を繰り返して、企業内やデザインカンファレンスでの実施機会を得ることができ、現場に導入していくことができるようになったので、LARPを用いたデザインについて少しまとめてみたいと思います。

なお、この活動は、NTTデータのデザイナー集団「Tangity」のおかみゆと一緒に取り組んでいる活動になります。
彼女のnoteもぜひご覧ください🖐

LARPとはなにか

LARP(ラープ)とは「Live Action Role Playing」の略で、実際に参加者がキャラクターになりきって行うロールプレイングです。参加者は特定の設定やストーリーの中で、キャラクターになりきって、物語の一部として行動します。この行動は、テーブルトークRPGやビデオゲームのロールプレイングゲームとは異なり、実際の空間で物理的に演技することが特徴です。

私とLARPの出会いは、京都クリエイティブアッサンブラージュ(通称KCA)のプログラム内で、京都工芸繊維大学の水野先生・水内先生にレクチャーを受けつつ、実践した機会でしたが、その機会の中で世界観のシナリオやキャラクターを作り上げ、自分自身も実際にその世界に没入する体験に、ここでしか得られない価値があることを感じました。

水野先生・水内先生、いつもありがとうございます!

LARPはしばしば創造的な表現や交流の場としても用いられ、参加者に新しい視点や体験を提供することで、コミュニケーション能力や問題解決スキルの向上にも寄与することがあります。また、企業の研修やチームビルディングの手法としても採用されることが増えています。
さらには、未来思考やスペキュラティブデザインの視点から考察すると、未来のシナリオを模索し理解する強力なツールになり得ます。
私はこれらの点にさに着目して、LARPを企業内で実践するようになりました。

参加者はキャラクターになりきって演じます


いま、ここにはない世界を体験する

LARPは、日常とは異なる環境や設定、時代に身を置くことで、通常の生活では体験できない「ここにはない世界」を創出する/体験する活動です。この点がLARPの大きな魅力の一つであり、参加者にとっては現実から解き放たれた非日常の体験が可能になります。

LARPワークショップでは未来の世界を舞台にすることもあります

体験の多様性

LARPでは、ファンタジー、歴史、未来、他の惑星など、様々な設定でストーリーが展開されます。参加者は騎士、魔法使い、探検家、未来の科学者など、様々な役割を演じることができます。これにより、現実世界では不可能な状況や人物になりきることができ、新しい視点や感情を探求する機会を得ることができるのです。

感情的・社会的スキルの強化

異なる世界観の中での役割を演じることにより、参加者は通常の生活では使われないような感情や行動を引き出すことが求められます。これは自己理解を深めるだけでなく、他者との新しい形のコミュニケーションや協力を体験することにもつながります。さらに言うと、 empathy(共感)や conflict resolution(対立解決)などの社会的スキルを自然と鍛える場ともなり得ると考えています。

創造力と解決策の発見

現実には存在しない問題や障害を解決するために、参加者は創造力を駆使する必要があります。このプロセスは、日常生活や職場で直面する問題に対する新たな視点や解決策を見出す手助けにもなります。

教育的要素

特定の歴史的背景や文化的設定を持つLARPは、教育的な要素を含むこともあります。参加者は遊びを通じて、その時代や社会の生活、考え方、技術などを学ぶことができます。

LARPはただのゲームではなく、参加者にとって多様な体験と学びを体験学習することができるプラットフォームです。それは現実世界での視点やスキルを豊かにし、日常生活に新たな刺激と洞察をもたらすための有効な手段となり得るのです。

ビジネス、社会におけるLARPの可能性

LARPを未来思考とスペキュラティブデザインのツールとして活用することで、単に未来を予測するだけでなく、それを形作るための洞察と手段を提供することができます。これにより、より良い未来を共に創造するための参加と議論が促進される可能性があります。
ここではその可能性について挙げてみます。

未来シナリオの探索

LARPを用いることで、未来の特定の技術や社会の変化を具体的な環境として設定し、参加者がその中で生活する様子を模擬します。この活動を通じて、未来のテクノロジーや政策の影響を直接体験し、それが個人や社会にどのような影響を与えるかを探ることができます。たとえば、AIが完全に統合された社会や、気候変動後の生存戦略をテーマにしたLARPは、参加者に現実では考えられないシナリオを探索させ、新たな洞察を得る機会を提供します。

スペキュラティブデザインの実践

スペキュラティブデザインは、未来の可能性を推測し、現在の行動や決定が将来にどのような結果をもたらすかを視覚化するデザイン手法です。LARPは、スペキュラティブデザインの理念を動的に展開するプラットフォームとして機能します。参加者は未来の状況に「生きる」ことで、理論や予測だけでは理解しにくい、深い感情的または倫理的問題に直面することがあります。これにより、未来の設計思考やポリシーメイキングに対する洞察が深まります。

イノベーションと創造性の促進

未来志向のLARPは、参加者に未来の技術や社会の構造を積極的に想像させることで、創造的な解決策や革新的なアイディアを生み出すきっかけを提供します。このようなプロセスは、新しいビジネスモデルの開発や、持続可能な社会を構築するためのアプローチを形成するのに役立ちます。

倫理的・社会的問題の探究

LARPでは、未来における倫理的または社会的問題をシミュレーションし、参加者がそれに対してどのように感じ、反応するかを探ります。例えば、生体認証技術の普及がプライバシーに与える影響や、資源が限られた未来での社会的公正の問題など、様々なテーマを扱うことができます。

教育と啓蒙

未来志向のLARPは、特に若い世代に対して、将来彼らが直面するかもしれない世界を理解し、それに備えるための教育ツールとしても利用できます。このような活動を通じて、科学的、技術的な知識だけでなく、倫理的な判断力や協働の重要性も教えることができます。


企業内、イベントでの実践

それでは、これまでにいくつか企業内、イベントでの実践例について紹介したいと思います。

企業内での実践と可能性

LARPワークショップの1シーン

某メーカーの新規事業チーム内で実施するために、メーカー側のデザイナーの方と一緒にシナリオ/キャラクターメイキングに取り組み、その上でプロジェクトメンバー全員で参加しました。
このメイキングのプロセスで一ヶ月近い時間をかけ、それをともにしたデザイナーの方からはリサーチ含めてたくさんの学びがあったという感想をいただいたものの、参加体験としては改善点がたくさんあることに気づいたのがワークショップの機会でした。
端的に言うと、今回は2時間のワークショップであったのですが、その時間内で実施するにはシーン切替やキャラクター変更を複雑にしすぎてしまっていたため、没入体験が薄れてしまっていたように思われました。
そういった改善点はあるものの、新規事業開発においてプロジェクトメンバー全員で新規事業という「いま、ここにはない」体験をつくりだす行為に向き合っていくために、LARPは前提や文脈を共有する強力な機会となり、さらにはプロジェクトメンバー全員で未来を体験する機会ともなることを実感することはできました。

イベントでの実践と可能性

次の機会として、Featured Projects 2024というデザインカンファレンスでワークショップを行う機会がありました。
今年のテーマは「"そうぞう"からはじまる」であったこともあり、「未来のはたらくを"そうぞう"する」というコンセプトで、2124年の火星を舞台にした世界観とキャラクターのシナリオを設定し、20人の参加者向けに2時間のワークショップを設計しました。
今回はLARPのシナリオ/キャラクターメイキングと合わせて、参加者体験を最大化するためのワークショップデザインを並行して進めたこともあり、LARPの価値が参加者にしっかりと伝わったのではないかと思っています。

今回は会場がコクヨさんのTHE CAMPUSという素敵な空間を使わせていただくことができたので、この空間に合わせてワークショップデザインを行ったのですが、LARPはこの「空間」をどのように使うかがとても重要となります。空間、小物、そして我々の身体。これらがすべて「いま、ここにはない」体験を作り出すには必要となるのです。
イベントという場所(空間)、参加者が多様な場所で実現することにも企業内で実施するのとは異なった体験、そして価値を生むと考えています。

デザインの実践の可能性を広げていく

ここまでLARPについて述べてきましたが、あらためてデザインを実践し、デザインの可能性を広げていくために、LARPにとても可能性を感じています。
例えば以下のような効果が期待できると考えています。

  1. 多角的な視点の促進

    • LARPでは、参加者が異なるバックグラウンドや専門知識を持つキャラクターを演じます。これにより、多様な視点から問題を見つめ、新しい解決策を模索することが可能になります。これは、特に多様な顧客ニーズに応える製品やサービスを設計する際に有効です。

  2. クリエイティブなリスクテイキングの奨励

    • 安全な環境であるLARPのセッションでは、リアルなリスクを伴わずに大胆なアイデアを試すことができます。これにより、通常では考えられないような革新的なアプローチが試され、それが実際のプロジェクトに応用されるきっかけとなります。

  3. コミュニケーションと協働の向上

    • ゲームの形式を取り入れることで、参加者間の壁が低くなり、オープンで活発なコミュニケーションが促進されます。また、共通の目的に向かって協力する過程で、チームワークが自然と強化されます。

  4. エンパシーの深化

    • 異なる役割を演じることで、他者の立場や感情を理解する能力が養われます。この経験は、ユーザーエクスペリエンスの設計において非常に重要な要素です。

また、別の側面として、LARPを企業文化に導入するメリットとして以下が考えられます。

  • 革新的なアイデアの発掘: 従来の思考パターンを打破し、新しい視点からアイデアを発掘する

  • 問題解決能力の向上: 複雑なシナリオを通じて、困難な状況に対する対応能力が高める

  • 社員のモチベーション向上: 楽しむ活動を通じて、職場の雰囲気が向上し、社員の満足度が高まることが期待できる。

LARPの導入は、企業が直面する多くの課題に対して新しいアプローチを提供し、持続可能なイノベーションを実現するための鍵となり得ます。デザインの実践におけるこれらの可能性を活かすことで、より競争力のある企業文化を築くことができるとも考えています。
とはいえ、まだまだ実践が足りていなく、探究の旅の途上ですので、LARPに興味・関心を持たれた方はぜひ一緒に取り組みましょう!

コーヒーを飲みながら書いていることが多いので、サポートいただけたらコーヒー代として使わせていただきます!