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農業の担い手不足にどう向き合うか

 葛尾村における農業のこれからを考える前段階として、先日公開した2つの記事では、日本および葛尾村における農業の変遷を取り上げました。今回の記事では、その2つの記事を踏まえて、葛尾村のこれからにおける最も重要なテーマの1つである「農業の担い手不足」について取り上げます。担い手不足問題をどのように解釈し、どのように解決していくべきかについて、1つの視点を提示していきます。


1.担い手不足とはどのような状態か

 現在の葛尾村では、行政をはじめとした様々な場で、農業の担い手不足が深刻であり解決しなければならないという話がされています。では、そもそも「農業の担い手不足」とはどのような状態なのでしょうか。

 一般に、農業の担い手不足と言ったときに、想定されているのは「以前よりも農業従事者が減少したために同規模の農地を維持できない」というような状況だと考えられます。葛尾村では、原発事故によって全村避難していた影響もあり、前回の記事でも取り上げたように震災以前と比較して農業従事者が激減しています。その影響もあり、震災以前の30%程度の田んぼでしか米づくりが行われていません。避難解除直後は、田畑に除染土を保管するためのフレコンバックが置かれていたため、そもそも農業ができない状況であったことから、担い手不足問題は顕在化していませんでした。しかし、徐々に中間貯蔵施設へのフレコンバックの移動が進んでいます。そのため、現在では、田畑が返却されても人が戻らないことで農地荒廃が進んでいくのではないかという懸念が生まれています。

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2.何に対して担い手は不足しているのか

 このように、「農業の担い手不足」とは、以前利用されていた農地に対する農業従事者の不足であると言えるでしょう。しかし、日本全体でも人口が減少している現代において農業規模が縮小することは必然とも捉えることができ、その縮小が適切だと言えるのであれば、担い手不足は課題ではないとみなすことができます。では、農業規模縮小によって生じる問題とは何でしょうか。

 第1に、行政という観点からは産業規模の縮小という問題があると考えられます。歴史的に、葛尾村は畜産や煙草栽培が産業の中心となってきました。そのような葛尾村において、農業が衰退することは地域から中心産業がなくなっていくということを意味します。「葛尾村の産業史」でも取り上げたように、震災以前の多くの産業がなくなっている現在、農業の衰退は葛尾村という行政の存続の危機であるとも言えるでしょう。

 第2に、住民という視点から文化の消滅という問題があると考えられます。葛尾村は伝統的に米づくりおよび家畜の飼育を中心とした生活が営まれてきました。震災以前から村に住んでおり、現在も帰村している方の多くはこのような生活を営んでいます。一方、若年層を中心とした葛尾村への移住者層の多くは、葛尾村で昔ながらの農業をする住民から農産物を貰うなどの恩恵を受けながらも、自分自身はそのような生活様式を継承していません。これは地域全体から見ると文化が消滅するということであり、個人から見ても将来的に農村的生活様式の恩恵を受けられなくなるということでもあると言えるでしょう。

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3.なぜ担い手はいないのか

 では、なぜ農業の担い手はいないのでしょうか。まずは、農業人口以前に葛尾村の居住人口が激減したことがあります。令和元年度葛尾村住民意向調査によると、帰村するために必要な支援として、医療施設や介護福祉施設の充実が上位にあがっています。ただ、帰村者および帰村検討者の多くは比較的ご高齢の方々であり、将来的な農業の担い手となりうる若年層で帰村を検討している方は少ないのが現状です。その理由としては、生活環境が不便なことや労働環境が充実していないことがあげられています。

 次に、葛尾村に住む若年層に農村的生活様式が浸透していないことがあります。その理由として、時系列順に2つのものがあると考えます。1つめは、都市的生活様式が合理的であったことです。葛尾村に震災以前から住む若年層の多くは葛尾村から周辺や首都圏の都市部に転出したため、経済的文化的な理由から都市的生活様式の方が合理的であったと考えられます。2つめは、農業を営む他の住民にお世話になる方が合理的であることです。特に、小規模な農業を営む利点として、食を自ら生み出すことができる点があげられます。しかし、震災後に移住した住民の多くは、葛尾村で農業を営む他の年配の住民から農産物をいただいている場合が多いのが現状です。これはその方が負担が少ないからであると同時に、都市部出身者が多く農村的生活様式の習得が困難であるからと考えられます。


4.担い手問題を解決する方法はあるか

 以上より、担い手問題を解決する方法として、農村的生活様式を継承するハードルを下げることを提案します。葛尾村に住む若年層が農村的生活様式よりも都市的生活様式を望むならば、農業が衰退するのは必然と言えますが、多くの方がそうではないように思います。先述のように、自分で農業などを習得するよりも他の住民にお世話になる方が負担が少ないことが主な原因であると考えられます。したがって、葛尾村は住民の絶対数を増やしながら、農村的生活様式を継承する相対数も増やすことで担い手問題を解決することができると考えます。特に後者を実現する方法としては次の2つが考えられるのではないでしょうか。

①知識のアーカイブ
 葛尾村出身ではない多くの若年層の住民は、農産物を手伝うことはあっても、1から10まで農業に携わることはほとんどないのが現状です。そこで、農作業等の生活の知恵をアーカイブし誰でもマネできるようにする、また気軽に昔から住む住民に聞ける環境をつくることで、継承のハードルを下げることができるのではないかと考えます。

②労働環境の整備
 現代の日本では、リモートワークや週3日勤務など、様々な労働形態が生まれてきています。以前の葛尾村では、多くの人が農業を営みながら、農閑期を中心に他の仕事を営んでいました。柔軟な労働形態が葛尾村でも可能になれば、働きながら小規模農業を営むような以前にもあった生活様式も容易になるのではないかと考えます。

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一般社団法人 葛力創造舎

 葛力創造舎(かつりょくそうぞうしゃ)は、通常なら持続不可能と思われるような数百人単位の過疎の集落でも、人々が幸せに暮らしていける経済の仕組みを考え、そのための人材育成を支援する団体です。

余田 大輝


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